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インフルエンザや熱中症など、労災認定される疾患の境界線とは?

19.03.12 |

会社を経営するうえで、経営者が知っておかなければならないのが『労災』についてです。 
『労災』とは『労働災害』のことで、会社の業務が原因で発生した事故や怪我、病気などのことを指します。 
通常、企業は『労災保険』に加入する義務があり、労災と認定された従業員に対して、保険の給付が行われます。 
経営者は労災の仕組みや認定基準をしっかりと把握して、従業員が被災した場合に適切な指示を出す必要があります。
今回は、インフルエンザ、熱中症、ノロウイルスなどが労災として認められるのかなど、労災認定の境界線を解説していきます。

『労災保険』に加入するのは会社の義務

『労災』は、業務中や通勤途中などに事故や怪我、病気が発生した場合、またそれらによって死亡したり障害が残ったりした場合に認定されます。

従業員は労働基準法によって守られており、『労災』に認定された場合、会社側はその従業員に対し、怪我や病気を治す費用や休業中の賃金などを補償する責任を負わなければいけません。
しかしながら、会社が常に費用負担をするのは大変なため、会社に変わって必要な補償をするのが『労働者災害補償保険』、いわゆる『労災保険』になります。

『労災保険』は雇用形態に関係なく、また勤務日数や時間数にも関係なく、すべての従業員に適用されます。
従業員を一人でも雇い入れた段階から10日以内に労働基準監督署に届け出て加入手続きをしなければなりません。

『労災保険』への加入を怠り、未加入のまま従業員が怪我などをして労災認定を受けた場合、会社は保険料の追加徴収を受け、さらに、数年もの間、ハローワークで求人を掲載できなくなるなどのペナルティーが課せられます。
また、労働基準監督署からの指導があったにもかかわらず、1年以上加入しないままなど、悪質な場合は、従業員に支給される給付金の一部、または全額を会社側が負担しなければならないこともあります。


『労災認定』には大まかに2つの基準がある

従業員の事故や怪我が『労災』かどうかは、労働基準監督署が判断します。
『労災』だと判断されることを『労災認定』といい、従業員は『労災認定』を受けて、はじめて『労災保険』の給付を受け取ることができます。

では、『労災認定』にはどんな基準があるのでしょうか?

大まかな基準は、事故や怪我が『仕事をしている状態のときに起きたのかどうか』(業務遂行性)ということと、『仕事が原因で起きたのかどうか』(業務起因性)の2つです。

まず、『仕事をしている状態』とは、業務時間中はもちろん、残業中や強制参加の会社の親睦会の間、さらに仕事中のトイレ休憩やタバコ休憩の時間も含まれます。

また基本的には通勤中も含まれます。
通勤途上の労災は『通勤災害』といいます。
しかし、たとえば会社帰りに飲みに行き、終電を逃し、ビジネスホテルに宿泊。
翌日、ビジネスホテルから出社した途中に怪我をした場合などは、通勤災害と認められないケースもあります。
次に、『仕事が原因かどうか』ですが、たとえば建築現場で機材に挟まれた場合などは、明らかに仕事が原因なので『労災認定』を受けることができます。
また連日の残業で体調を崩したり、過度な仕事のストレスで精神を病んだりした場合も、仕事が原因だと言えるでしょう。

この2つの基準に照らし合わせることで、その怪我や病気が『労災認定』されるのかどうかを知ることができます。


労災認定される疾患とされない疾患とは

では、『熱中症』は『労災認定』を受けることができるでしょうか?

炎天下の屋外や溶鉱炉などの高温の場所で業務に従事しているときに熱中症になった場合、明らかに仕事中であり、さらに熱中症の発症に業務との因果関係が認められるので、認定を受ける可能性は非常に高いでしょう。

ちなみに、熱中症で経営者が気をつけたいのは、こまめに従業員に休憩や水分を取るように促すなど、熱中症対策を怠らないことです。
企業には、従業員の安全を守るために十分に配慮しなければならない『安全配慮義務』(労働契約法第5条)というものが課せられています。
これを怠ると、『労災保険』とは別に、従業員から損害賠償を請求されることもあるので注意してください。

ノロウイルスや食中毒などは、感染の原因や経路さえ特定できれば、『労災認定』を受けることができます。
たとえば、レストランで従業員が客の汚物を片づける際にノロウイルスに感染した場合などは、確実に『労災認定』されますし、社員食堂で食べた料理が原因で食中毒になった場合なども、認定される可能性は高いでしょう。
ただし、業務や通勤と関係のない外食先で食中毒になった場合などは、認定される可能性は低いでしょう。

では、インフルエンザについてはどうでしょうか?

インフルエンザはノロウイルスと同じく、毎年秋から冬にかけて流行するウイルス性の疾患ですが、『労災認定』されることは非常にまれです。

『感染症による労災認定』を受けるには『感染機会が明確に特定されている』必要があります。
インフルエンザウイルスはノロウイルスとは異なり、空気中に漂っているので、どこで感染したのかを特定するのが不可能です。
会社で感染した可能性もありますが、プライベートで知人や家族から感染したのかもしれません。
そのため、インフルエンザの場合は『仕事をしている状態のときに起きたものか』と、『仕事が原因で起きたのか』を判断するのが非常にむずかしいのです。

医療系の仕事に従事している感染機会の多い人でも、インフルエンザで『労災認定』を受けるのはむずかしいといわれています。


インフルエンザに限らず、『労災認定』は非常に判断がむずかしいケースが多く、随時、労働基準監督署の判断を仰ぐ必要があります。
しかし、多様な事例や判断基準を知っておくだけでも、万が一のときに、焦らずに対応することができるでしょう。


※本記事の記載内容は、2019年3月現在の法令・情報等に基づいています。

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