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日本特有の「プレイング・マネージャー」

17.01.13 |

「プレイング・マネージャー」とは、スポーツにおける選手兼監督のことを指します。実技に長けているばかりでなく、チームの指導・監督もでき、1人前以上の働きをします。 

この意味が応用され、ビジネスにおいて管理職の役割を「プレイング・マネージャー」と表現するようになりました。ただし、ビジネスにおける使い方は日本特有です。英語圏では、スポーツ以外にはこの言葉を使いません。なぜ日本で、「プレイング・マネージャー」という表現が定着したのでしょうか。

●社会のIT化と国際化が組織のピラミッド型を崩した● 
かつて、日本の組織の典型は軍隊のようなピラミッド型でした。新入社員は学卒の若手で、企業内で職場訓練や配置転換を繰り返してキャリアの階段を上っていき、頂点にたどり着くというのが古典的モデルです。かつては欧米においてもピラミッド型組織が前提でした。 

ところが、IT化や国際化の影響で、ピラミッド型組織が実態にそぐわなくなってきました。

若年層のほうが、幼い頃からパソコンやスマートフォンなどに慣れ親しんでいる分、IT親和性が高く、IT技術の習得が早いのです。
日進月歩のIT化社会に適用するには、IT技術の進化や変化に柔軟に対応できる若年層を重用する必要がありました。

また、国際化によって海外から優秀ながらも賃金の安い人材が流入し、人材の優秀さと賃金の高さがリンクしなくなるという事態が生じました。 
国際競争に勝つためには、実力本位の組織になる必要があります。そのため、階級の数を少なくして、組織全体をフラット化する必要に迫られたのです。 

●組織のフラット化への過度期で生まれた「プレイング・マネージャー」● 
企業組織は組織人材の利害関係とも密接に結びついています。たとえば、日本人の多くは「長年下積みをしたから陽の目を見る権利がある」という考えが根底に染み付いています。それゆえ、しっかりした組織ほど簡単にフラット化ができません。 

そして、もっとも不満がたまりやすいのが中間層です。中間管理職の処遇というのは、「こんなはずじゃなかった」という不満を生みやすいのです。そこで「プレイング・マネージャー」という呼び方が生まれました。 

●海外に見る職場における「プレイング・マネージャー」●
海外の開けた職場では、マネージャーを交代で行うことがあります。「マネージャーの能力を育成する」という狙いと、「高給のマネージャー職を一部の人が独占するのは公正に欠ける」という意味合いがあります。また、責任とストレスが大きい管理職の負担を、公平に分担しようという目的も考えられます。 

交代制管理職は「プレイング・マネージャー」の変形とも言えます。日本の職場では一般的に、「プレイング・マネージャー」の業務負担と責任、プレッシャーは大きく、ストレスや過重労働に悩まされる例が少なくありません。 

海外のように、交代制管理職にすることで、マネージャーの役割が回ってきたときにも、生き生きと働けるようになるのではないでしょうか。 


●プロフィール● 
佐野陽子 さの・ようこ 
慶應義塾大学名誉教授。1972年慶應義塾大学商学部教授。87年から2年間、日本労務学会代表理事。89年から2年間、慶應義塾大学商学部長・大学院商学研究科委員長。96年東京国際大学商学部教授。2001年から4年間、嘉悦大学学長・経営経済学部教授。主な著書:『はじめての人的資源マネジメント』『企業内労働市場』(ともに有斐閣)。

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