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新入社員のミスは責めない

16.04.01 |

「なでしこジャパン」ことサッカー女子日本代表の佐々木則夫監督が、3月中旬に退任した。リオ五輪の出場権を逃したことによる勇退である。 

日本の女子サッカーを世界のトップレベルへ押し上げた佐々木さんは、サッカー指導者としてはもちろん、組織のリーダーとしても優秀だった。

たとえば、チームに新しい選手を招集した際に、こんなエピソードがある。

合宿中のミーティングで、佐々木さんが「全員そろっているか?」と確認をすると、「はい」という返事が返ってきた。「じゃあ、始めようか」と佐々木さんが選手たちの意識を集めたところで、ミーティング会場のドアが開いた。

初めて合宿に参加したある若手選手が、集合時間を間違えてしまったのだった。 

先輩たちを待たせてしまったその選手は、いまにも泣き出しそうな表情を浮かべている。「すいません、すいません」と、何度も頭を下げた。 

ここで、佐々木さんはどんな反応を見せたのか。遅刻をした選手ではなく、その他の選手たちでもなく、自分とコーチ陣を責めたのだ。 

「謝るのは僕だ。悪いのは我々コーチングスタッフだ。キミがまだ来ていないことに気づかなかった、組織全体の責任だよ」 

集合時間を勘違いしてミーティングに遅刻したのは、当人の注意不足である。ただ、周囲のちょっとした心配りがあれば、事前に防げるミスでもあった。 

翻って、この時期のビジネスシーンをイメージしたい。新入社員は緊張でいっぱいだ。「伸び伸びやればいいよ」という通り一遍の励ましは、彼らの耳を通り過ぎてしまうだろう。失敗を見越したアドバイスを、組織のリーダーは用意しておくべきだ。 

佐々木さんが選手たちに示した「個人の失敗は組織全体の責任として受け止める」という姿勢は、選手同士がピッチ上で助け合う効果をも生み出した。ピッチの内外で、選手同士が事前に確認をすることがチームの習慣にもなった。リーダーの姿勢で組織が変わる好例である。 


スポーツの視点からみる人的資源 


[プロフィール] 
戸塚 啓(とつか・けい) 
1968年、神奈川県生まれ。法政大学法学部法律学科卒業後、雑誌編集者を経てフリーのスポーツライターに。新聞、雑誌などへの執筆のほか、CS放送で欧州サッカーの解説なども。主な著書に『不動の絆』(角川書店)、『僕らは強くなりたい~震災の中のセンバツ』(幻冬舎)。 

[記事提供] 

(運営:株式会社アックスコンサルティング)

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