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カンヌライオンズ2016から、世界の最新広告コミュニケーション事例のご紹介。その2

16.12.02 |

広告界の一大イベント“カンヌライオンズ2016”受賞作の今年の特徴は、以下の3つでした。

(1)“現実世界での実験”を大掛かりな形で行ったもの

(2)データ&テクノロジーの、身体化・実体化

(3)デジタル時代だからこその“超アナログな実感訴求”

今回は、前回に引き続き(1)の例を1つ紹介し、その後に(2)の事例を紹介していきます。

ニュージーランドのハイネケン社による「Brewtroleum(ブルートゥローリアム)」も、(1)の特徴を持つ受賞作です。

ハイネケン社は6ヵ月にも及ぶ研究開発の末、DB EXPORTというビールを生産する際に、地球環境に優しいバイオ燃料の生成に成功。そのバイオ燃料をブルートゥローリアムと名付けました。

同社は、このバイオ燃料スタンドを国内62ヵ所に作り、広告や店頭で「“このバイオ燃料を枯渇させないために”、DB EXPORTを飲もう」とメッセージ発信したのです。その結果、ビール全体の消費量が前年比6%減少する中、このDB EXPORTの売上は過去に例のない10%増を記録したと言います。

事例動画では、飲みに出かけようとする男性が、奥さんに「どこに行くの?」と聞かれて、「世界を救いに行く」とドヤ顔で答えるシーンが描かれています。ビール好きのインサイト(ホンネ、ココロのツボ)を見事につかんでいて、いわば“ユーモラス・ソーシャル・グッド”とも言える施策です。

気になるのは、これだけ大掛かりなことをした費用です。しかし、費用については事例動画などでも触れられていません。従来のやり方でマスメディアを大量に使用した場合に比べて、費用の面でも効果の面でも決して劣っていなかったのではないかと、推察されます。


次に(2)「データ&テクノロジーの、身体化・実体化」の例を紹介しましょう。

世の中全体の傾向を反映して、カンヌライオンズ2016でも、AIなど最新のデータ&テクノロジーの活用についての議論が、活発に行われていました。
そんな中で話題作となったある受賞作群は、データ&テクノロジーを実体化させ、カラダで感じられるよう身体化させたものばかり。典型的なのが、INGという世界最大手の銀行が行った「The Next Rembrandt(次のレンブラント)」でした。

この受賞作では、レンブラントの346作品を詳細に分析し、構成の仕方から絵の具の盛り方までをデータ化しました。そのデータを元に、最新の3Dプリンターを使ったデジタル・ペインティングによって、“次のレンブラント作品”を、本人の没後347年目に作り出しました。この絵は、アムステルダムの美術館に展示され、同時にWeb上で製作過程を公開し、人々が詳細に見ることを可能にしたのです。

冷たい印象を持たれがちな最新のテクノロジーを、300年以上前の巨匠の絵画を素材にすることで、見る人にとって“身体化・実体化”させた見事な事例だと言えるでしょう。

では、なぜ銀行がこんなことをするのでしょう。INGは、本業で数々の新しいテクノロジーを導入し、“最もイノベーティブな銀行”を掲げているからです。そのINGのビジネス上のビジョンの認知・理解を推進するためのシンボルが、この受賞作だったというわけです。

次回は「カンヌライオンズ2016から、世界の最新広告コミュニケーション事例のご紹介。その3』をお届けします。



佐藤達郎のマーケティング論 

[プロフィール] 
佐藤 達郎(さとう・たつろう) 
多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論)、コミュニケーション・ラボ代表。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校、一橋大学、アサツーDK、(青学MBA)、博報堂DYを経て、2011年4月より現職。著書に、『NOをYESにする力!』『アイデアの選び方』『自分を広告する技術』『教えて!カンヌ国際広告祭』がある。 


[記事提供] 

(運営:株式会社アックスコンサルティング)

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