従業員の組織に対する意識は、『働きやすさ』と『働きがい』に大別することができます。
働きやすさは労働条件や配属先、人間関係や職場環境、福利厚生などに起因するのに対し、働きがいは仕事の内容や責任、評価や達成感などに影響されます。
働きやすく働きがいのある組織は、従業員の仕事への意欲や会社への定着率も高い傾向にあります。
厚生労働省による従業員調査では、『働きやすく、働きがいのある組織』が『働きづらく、働きがいのない組織』よりも、『仕事への意欲』と『勤務継続の意向』が倍以上も高いことがわかっています。
そして、会社の業績についても、『働きやすく、働きがいのある組織』のほうがよくなる傾向にあることがわかりました。
組織の成長のためには、『働きやすさ』と『働きがい』の両方の底上げが欠かせません。
特に働きがいの有無は、組織の士気に大きく関わります。
働きがいは仕事へのモチベーションと言い換えることもできます。
組織において多くの仕事は、個人ではなくチームとして行われるものですが、一方で個人のモチベーションが高くないと、全体として望んだ以上の成果を上げることはできません。
高いモチベーションで仕事に臨むためには、指示どおりに目の前の業務をこなすのではなく、一人ひとりがその仕事を『自分ごと』として捉え、自主的に動く必要があります。
そのためには、従業員のやる気を引き出して、モチベーションを上げることのできるモチベーターの存在が必要不可欠となります。
モチベーターは従業員に対する管理能力や、リーダーとしての能力に長けた人のことを指し、「従業員と目標やビジョンを共有できる」「従業員を信頼し、自主性を重んじる」「従業員が失敗してもフォローする」「個人の能力や貢献度を把握し、公平な評価を下せる」などの特徴を持ちます。
従業員にとって目標やビジョンは働く原動力になり、責任のある仕事を任されることで使命感や職業意識も生まれます。
裁量権を与えられた結果、たとえミスをしても的確なフォローをしてもらえるのであれば、思い切って仕事に取り組むことができ、会社や上司からの公平な評価は向上心の醸成にも結びつきます。
部下を鼓舞してやる気を起こさせる、いわゆる世間一般的な『理想の上司像』が、まさにモチベーターのイメージといえるのではないでしょうか。
逆に、従業員のモチベーションを下げてしまう言動をする人のことを、「ディモチベーター」や「モチベーションブレイカー」と呼びます。
たとえば、論理的に叱って諭すのではなく、感情のままに怒ったり、自身の責任から逃れたりする人、または必要なコミュニケーションを取らなかったり、偏った評価しかできなかったりする人です。
このような人は、たとえ本人の能力が高くても、従業員のモチベーションを下げ、やる気を削ぎ、組織に悪影響を与えてしまいます。
もし、自身に心当たりがあるのであれば、言動を見直し、モチベーターになるための努力をしなければいけません。
モチベーターになるためには、的確な判断を下すための論理的な思考が必要になります。
言っていることに矛盾があったり、論理が破綻していたりするのでは、従業員の信頼を得ることはできませんし、現場を混乱させることにもつながります。
論理的な思考は決断の裏付けにもなり、業務の進行をスムーズにします。
また、従業員の話に耳を傾け、的確な声かけを行うなど、コミュニケーション能力も重要です。コミュニケーションによって従業員の状態や能力を把握していなければ、公平に評価することもできません。
本人の資質によるところもありますが、組織を率いるのであれば向き不向きにかかわらず、モチベーターとしての役割を求められます。
従業員に高いモチベーションを持って仕事に取り組んでもらうためには、リーダーとしてどうあるべきなのか、よく考えてみましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用の労働者に対し、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成するものです。今回の新設コースを含め、現在7つのコースがあります。
2024年10月には社会保険の適用拡大が予定されていますが、労働者のなかには、保険料負担が生じるとその分、手取り収入が減少するため、これを回避する目的で労働時間を調整する人がいます。
短時間労働者への社会保険の適用を促進するため、労働者が社会保険に加入するにあたり、事業主が労働者の保険料負担を軽減するための『社会保険適用促進手当』を支給するほか、所定労働時間を延長させたり基本給等の増額を行なったりといった取り組みを支援するために、この『社会保険適用時処遇改善コース』が新設されました。
支給要件など本助成金の概要は以下の通りです。
【支給対象事業主】
対象となる事業主に求められる代表的な要件は下記の通りです。
●労働者負担分の社会保険料額以上の額を、手当または基本給として新たに支給し、総支給額を15%以上増額させる事業主
●対象労働者の週所定労働時間を4時間以上延長する、または週所定労働時間を1時間以上4時間未満延長するとともに基本給を増額して、新たに社会保険に加入させる事業主 など
【支給対象労働者】
6カ月以上継続雇用されており、2023年10月1日~2026年3月31日の間に新たに社会保険に加入した有期雇用労働者等が対象(同事業所内で過去2年以内に社会保険に加入した場合は対象外) など
【主な支給要件】
●新たに社会保険に加入した有期雇用労働者等に、各支給対象期間中に継続して雇用し、基本給および定額で支給されている諸手当を減額させずに支給すること
●特定適用事業所もしくは任意特定適用事業所であること
●対象労働者は、社会保険の適用日の前日から起算して過去6カ月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった者であって、かつ支給対象事業主の事業所において過去2年以内に社会保険に加入していなかった者であること など
【支給額】
支給額の設定は『手当等支給』と『労働時間延長』の二つに分かれており、併用させることも可能です。
(1)手当等支給メニュー
事業主が労働者に社会保険を適用させる際に、『社会保険適用促進手当』の支給等により労働者の収入を増加させる場合に助成します。
<1年目>
一人当たり助成額:6カ月ごとに10万円×2回(大企業は7.5万円×2回)
要件:(1)賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上分を労働者に追加支給すること(社会保険適用促進手当など)
<2年目>
一人当たり助成額:6カ月ごとに10万円×2回(大企業は7.5万円×2回)
要件:(2)賃金の15%以上分を労働者に追加支給する(社会保険適用促進手当など)とともに、3年目以降、以下(3)の取り組みが行われること
<3年目>
一人当たり助成額:6カ月で10万円(大企業は7.5万円)
要件:(3)賃金(基本給)の18%以上を増額させていること(労働時間の延長との組み合わせも可能)
(2)労働時間延長メニュー
所定労働時間の延長により社会保険を適用させる場合に事業主に対して助成を行うものです。
以下のいずれかの取り組みを行なった場合に、支給されます。
一人当たり助成額:6カ月で30万円(大企業は22.5万円)
要件:
1 週所定労働時間の延長 4時間以上+賃金の増額 なし
2 週所定労働時間の延長 3時間以上4時間未満+賃金の増額 5%以上
3 週所定労働時間の延長 2時間以上3時間未満+賃金の増額 10%以上
4 週所定労働時間の延長 1時間以上2時間未満+賃金の増額 15%以上
※そのほか、併用メニューもあります。
【受給までの流れ(例)】
(1)事前準備を行う
●対象労働者の働き方の希望を把握し、仕事内容や処遇などについて話し合う面談を実施
●助成金による支援メニューを活用しながら解決策を検討
●併せて社会保険制度の概要や加入のメリットについて、対象労働者に周知
(2)キャリアアップ計画書を作成・提出する
(3)就業規則等を整備する
(4)対象労働者に社会保険を適用する
(5)対象労働者に手当を支給開始、または労働時間延長・賃上げの取り組みを実施する
(6)指定期間の取り組み後、2カ月以内に書類申請を行う
このほかにも細かい支給要件や必要な書類などがあります。詳細は厚生労働省ホームページをご確認ください。
出典:厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/syakaihoken_tekiyou.html
※記載情報は2024年2月29日時点のものです。
自己破産は、破産手続と免責手続に分けられます。
破産手続は、破産者(破産を申し立てる人)の財産を債権者に平等に分配する手続きのことをいいます。
そして、免責手続は、破産申立ての時点で破産者が負っていた債務(借金など)の支払義務がなくなる手続きのことをいいます。
この、借金の支払義務がなくなることを「免責される」といいます。
つまり、自己破産において借金を支払わなくてよくなるというのは、免責手続の効果ということになります。
ただし、自己破産の申立てをしたからといって、必ず免責されるわけではありません。
破産法上、免責不許可事由(免責が許可されない事由)が定められており、免責不許可事由に該当すると、免責が認められないことがあります。
免責が認められなければ借金の支払義務は残ったままになるため、自己破産を申し立てた意味はなくなります。
免責不許可事由には、たとえば浪費やギャンブルを理由とした借金の場合や債権者に不平等に支払いをする行為、裁判所への説明の拒否、虚偽の説明をする行為などがあります。
ただ、免責不許可事由があったとしても、真実を話せば、多くの場合、裁判所の裁量で免責が認められます。
これを、裁量免責といいます。
自己破産をする際には、自身に不都合なことがあったとしても、正直に話すことが重要です。
自己破産を裁判所に申し立てた場合、裁判所は、その内容を官報に載せます。
官報は、法律改正などがあった際、国民にその内容を知らせるために使われます。
つまり官報は、全国民が知ることができる媒体であるといえます。
しかしながら、おそらくほとんどの人は官報を見たことがないのではないでしょうか。
そういった意味では、自己破産したことを勤務先や知り合いが知る可能性は高くないといえるでしょう。
一方で、金融機関や債権回収会社など債務者の管理をしている会社では、官報の破産者の欄をチェックします。
金融機関などに勤務している人が自己破産をした場合は、一般の人と比べて勤務先や知り合いに知られてしまう可能性が高いといえます。
そして最後に、『資格制限』について説明します。
自己破産を申し立てると、資格制限が生じます。
たとえば弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士といった士業は、自己破産を申立てると、法律上、その資格に基づいた仕事をすることができなくなります。
顧問先の業務を続けることも、もちろん不可能です。
また、生命保険募集人(保険商品の販売をする人)、警備員、探偵業、該当する会社の役員などにも資格制限が生じます。
資格制限の期間は、自己破産開始決定から免責許可決定の確定までです。
自己破産の手続きの開始から終了までと認識しておけばよいでしょう。
なお、免責許可決定が出ない場合は、資格が回復するまで、さらに時間を要する場合があります。
資格制限が生じる仕事は意外にも多く存在します。
もしも自己破産の手続きを行うことになった場合には、自己破産を申し立てる前に、自身の仕事が資格制限の対象となるかを確認しておくとよいでしょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
インターネットの普及と進化は、顧客の消費活動に大きな影響を与えました。
さまざまな国の異なる価値観を持つ人々の考えが可視化され、個人の好みや興味が多様化し、より複雑になることで、社会的なブームによって一つのものが爆発的にヒットするということが少なくなりました。
消費活動は顧客の価値観に、より大きく紐づくものになったといえます。
また、SNSなどによって、トレンドが移り変わるスピードも一昔前と比べると格段に速くなり、人気のアイテムやコンテンツが数カ月後にはすでに時代遅れになっているというケースも少なくありません。
一部の界隈で流行したものが、別の界隈ではまったく知られていないなど、トレンドの分断も起きています。
さらに、企業と顧客の関係も売り買いで終わるのではなく、サブスクリプションサービスなどによって、長期化する傾向にあります。
特定の企業が一強となる時代は終わり、顧客はそのサービスが気に入らなければ、すぐに別のサービスに移ることも容易になり、顧客視点でのサービス提供がますます重要になったといえます。
こうした時代の変化を背景に、顧客との関係を構築してエンゲージメントを高めながら、企業や事業、製品やサービスの持続的な成長を目指す『グロースマーケティング』という考え方が大きな注目を集めています。
企業にとっては新規顧客の獲得も大切ですが、今のビジネスモデルでは新規の顧客獲得はむずかしくなる一方といえます。
獲得にかけるコストが大きいため、新規だけでは事業がうまくいかない可能性もあるでしょう。
そこで重要になるのが、獲得した顧客への理解や顧客の満足度をより重視するグロースマーケティングです。
グロースマーケティングが注目されるようになった理由の一つには、技術の進化により、顧客の行動データの分析や活用が可能になり、既存顧客の新たなニーズを見つけられるようになったことがあげられます。
グロース(growth)は、日本語で「成長」や「発展」という意味です。
企業の持続的な成長や発展のために、既存顧客との良好な関係の構築が欠かせないという考え方が、グロースマーケティングの軸となっています。
グロースマーケティングを行ううえで、重要なキーワードが『グロースハック』と『リーンスタートアップ』です。
グロースハックは、製品やサービスの持続的な成長を目的に、その方法を模索して実行することを意味した言葉であるのに対し、リーンスタートアップはグロースハックを実現するための手法の一つを表しています。
グロースハックは、従来のような広告によって製品やサービスを訴求していくのではなく、製品やサービスそのものに成長のための仕組みを取り入れ、改善を行なっていくことを重視しています。
一方、リーンスタートアップは製品やサービスを開発するためのマネジメント手法で、そのものの完成度よりも、市場に出すことを何よりも優先します。
短期間でコストをかけずに最低限の製品やサービスを作って市場に出し、顧客の反応を見ながら検証し、改善を加えていくことで、顧客満足度を上げていきます。
たとえば、GoogleやAmazonなどは、まずサービスを提供し、顧客の反応を受けて改善を行なっていくというフローをたどることで知られています。
今や大企業や先進的な企業でなくても、まず世の中に製品やサービスをリリースすることによって、PDCAサイクル(※)を高速で回すビジネスモデルは珍しいことではなくなりました。
※Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのプロセスを繰り返し、業務効率を改善するフレームワーク
こうしたリーンスタートアップを筆頭としたグロースハックのための手法には、データの解析が欠かせません。
現代では、IoT やGPS、AIなどのデータ解析技術が急速に進歩したことにより、顧客のフィードバックや、顧客行動のデータ分析などが容易になり、既存顧客に向けた製品やサービスの品質向上に取り組みやすくなりました。
このように、集めたデータを活用して、顧客の消費行動を理解し、PDCAサイクルを高速で回すのがグロースマーケティングの大まかな流れとなります。
グロースマーケティングの代表的な事例としては、オンラインストレージサービスの『Dropbox』があります。
Dropboxを友人に紹介することにより、無料で追加容量を獲得できるという施策は、新規ユーザーを増やすと同時に、既存ユーザーの継続利用を促すことに成功しています。
また、音楽ストリーミングサービスの『Spotify』は、Facebookと連携し、タイムライン上でユーザーに多く聴かれている曲がわかる仕組みを導入することで、ユーザーとの関係の深化を図りました。
顧客との強固な関係を構築し、企業や製品、サービスの持続的な成長を目指すグロースマーケティングは、マーケティングの世界に大きな変化をもたらしています。
今後主流となるグロースマーケティングを理解し、自社のマーケティング施策に落とし込んでみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
法定雇用率の引き上げにより、従業員を40人以上雇用している企業には、2024年4月から障害者を1人以上雇用する義務が生じます。
対象となる企業は、毎年6月1日時点における障害者雇用状況を『障害者雇用状況報告書』にまとめて、管轄のハローワークに報告しなければいけません。
この報告のことを通称『ロクイチ報告』と呼びます。
障害者の雇用人数が0人であってもロクイチ報告を行わなければならず、報告をしない、または虚偽の報告をした場合には30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
法定雇用率を満たしていない企業に対して、管轄のハローワークは『障害者雇入れ計画』の提出を命じることがあります。
そして、命令が出た後の一定期間、計画に沿った障害者雇用の実施状況をチェックします。
計画を提出してなお基準の法定雇用率が未達成のままの企業には、適正実施勧告や特別指導、企業名の公表などの措置が取られます。
さらに、常用雇用労働者が100人超の未達成企業からは『障害者雇用納付金』が徴収されます。
これは『障害者雇用納付金制度』に基づくもので、常用雇用労働者100人超で法定雇用率を下回る企業は、不足する障害者数1人当たり月額5万円を納付する必要があります。
一方、常用雇用労働者100人超の企業で法定雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、超過1人当たり月額2万9,000円の『障害者雇用調整金』が支給されます。
なお、常時雇用労働者数が100人以下の企業で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数を超えて障害者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障害者1人当たり月額2万1,000円の報奨金が支給されます。
また、自宅などで働く在宅就業障害者に仕事を発注する企業に対して、特例調整金または特例報奨金を支給する『在宅就業障害者に対する支援』もあります。
該当するようであれば、条件などを確認しておきましょう。
ほかにも、短期間であれば働ける障害者の就労機会の確保を目的に、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者を、1年を超えて(見込みを含め)雇用する企業に対して一定額を支給する『特例給付金制度』がありましたが、2024年4月1日より、週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者について、雇用率上、1人を0.5人としてカウントできるようになりました。
そのため、この特例給付金は廃止されることになります。
ただし、この特例給付金制度について、2024年3月31日までに雇い入れられた週所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度以外の身体障害者および知的障害者については1年間の経過措置があります。
各都道府県の労働局とハローワーク、障害者就業・生活支援センターなどの支援施設では、障害者雇用促進のためのさまざまな取り組みを行なっています。
特に、障害者を雇用するイメージが湧かない企業に対しては、セミナーや見学会、障害者の職場実習の受け入れ推進をはじめ、障害者を試行的・段階的に雇い入れることができるトライアル雇用のサポートといった支援を実施しています。
また、ハローワークでは、求職活動をしている障害者と企業をマッチングさせる障害者就職面接会も定期的に開催しています。
地域のハローワークには相談窓口が設けられており、エリアによっては専門の職員や相談員が配置されています。
障害者雇用への疑問や不安がある事業者は、一度相談してみることをおすすめします。
さらに、障害者雇用に関しては、政策金融公庫による低利貸付制度や、助成金の非課税措置や事業所税の軽減措置といった税制優遇制度などの助成措置も講じられています。
『特定求職者雇用開発助成金』などの各種助成金は、ハローワークの紹介により、一定期間「継続して雇用する労働者」として障害者を雇用した場合などに助成が認められます。
企業が雇用している障害者の数は、2023年に約64万人を記録し、20年連続で過去最多を更新しました。
しかし、調査した企業のうち障害者の法定雇用率を達成している企業は、全体の約半分に留まっています。
障害者の雇用は法的な義務ですが、その一方で、人材不足の解消や多様性を受容する職場風土の構築、社会的責任を果たすことによる企業イメージの向上といったメリットもあります。
ハローワークなどの支援機関に相談しながら、自社に合った障害者の雇用計画を進めてみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
法人や個人事業主が事業用に建物や車などを購入する際は、現金一括による支払いではなくローンを組むことによって、手元に事業資金を残しておけるというメリットがあります。
そもそもローンとは、金融機関から資金を借りて、毎月決められた額を返済する仕組みの金融商品のことです。
ローンの返済は、借入金である「元本」と、元本に対する「利息」で構成されます。
利息は借入金の額や返済期間、借入先などによって利率が大きく異なります。
たとえば、カーローンの借入先には、金融機関やカーディーラー、信販会社などがあります。
金融機関系のローンは利率の相場が年2~4%ほど、カーディーラー系のローンは金融機関系よりも高く、5~10%程度となっています。
カーローンは、一般的なマイカーローンのほかに、法人名義でローンを組める法人向けのカーローンもあります。
法人向けのカーローンを利用する場合、会社の財政状況や事業内容について借入先から審査を受けなければいけません。
会社を設立したばかりのタイミングでは信用度が低いため、借入先の審査が通らない可能性もあります。
また、法人名義の車は事業以外に使用することができません。
法人向けのカーローンは、ほかの法人向けのローンと同様、返済時に利息を経費として計上できます。
しかし、法人名義の車を個人で利用したことが発覚すると、利息が経費として認められないことがあるので注意しましょう。
さらに、法人名義で車を購入する場合には、車種にも注意が必要です。
具体的な指定があるわけではありませんが、スポーツカーや高級車などは、税務署から事業の用に供する社用車として認められない場合があります。
ただし、実際の走行距離などから事業に使用していることが証明できれば、スポーツカーや高級車でも社用車として認められる可能性があります。
事業のために組んだローンの利息を経費として計上する場合は、「支払利息」という勘定科目で計上します。
購入代金のすべてをローンで支払う場合には、購入時にローン利用額を「未払金」で処理し、頭金や手付金などを一部支払っているのであれば、その額を「前払金」とする仕訳が必要です。
購入時には、未払金から前払金を差し引いた額がローンの利用額となります。
そして、ローンの返済時には、未払金として計上している元本から返済分を差し引くと同時に、利息分となる支払利息を経費計上する必要があります。
では、なぜ利息は経費計上でき、元本は計上できないのでしょうか。
元本が経費として計上できないのは、金銭の貸し借りは損益とは無関係であるという前提があるためです。
税金は損益に対して課税されますが、借入金は損益には該当しないため、同じように返済した借入金の元本も経費にはなりません。
これは、事業資金専用のビジネスローンだけでなく、個人事業主の住宅ローンなどでも同じです。
ただし、ローンの元本は経費になりませんが、建物や車の減価償却費は経費として計上することができます。
つまり、建物はもちろんですが、事業用にローンで購入した車も固定資産となるため、「減価償却」を行うことになります。
減価償却とは、経年劣化する固定資産を一度に経費計上するのではなく、一定の年数に渡り分割して計上する会計処理の方法のことです。
固定資産は、国税庁によって法定耐用年数と計算方法がそれぞれ定められています。
たとえば、法人が新車の普通自動車を購入した場合は、法定耐用年数は6年になり、『定率法』という計算方法を使うのが一般的です。
法人名義で建物や車などをローンで購入した場合は、減価償却費や利息、さらに手数料や維持費、保険料や税金なども経費計上することができます。
一方、ローンの元本などは経費計上できないので、会計処理を誤らないように注意しましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
通信販売は、『特定商取引法』という法律で規制されています。
通信販売は、実際に商品を見たり、店員に相談したりして購入するものではないため、消費者トラブルが生じやすい取引類型になります。
そのため『特定商取引法』で、消費者を守るためのルールが定められています。
たとえば、事業者は消費者に対して、販売条件や送料、契約の解除に関する事項、事業者の名称、住所、電話番号などの情報を提供する義務を負います。
多くの場合は、『特定商取引法に基づく表示』というページを作って、まとめて表示することが一般的です。
通信販売に、クーリングオフの制度はありません。
しかし、特約がなければ、消費者は商品の引渡日から8日以内であれば契約の申込の撤回または解除ができます。
そのため事業者は、契約の撤回または解除を制限する規程を設けるかどうかについて、検討する必要があります。
また、購入の最終確認画面では、商品の数量、回数、期間、定期購入である旨や解除の条件など、契約の主な内容を網羅的かつ明確に表示しなければなりません。
なお、いうまでもなく、虚偽・誇大な広告も禁止されております。
このように通信販売を行うWebサイトを作成するにあたっては、特定商取引法上の規制に注意する必要があります。
通信販売では、多くの消費者と日々画一的な条件で取引をしていくことになるため、購入の都度に契約書を作成するのは現実的ではありません。
しかし、消費者とのトラブルを回避するためには、取引についてきちんとルールを定めておくことが大切です。
そこで作成するのが、『利用規約』です。
新たに利用規約を作成する際は、消費者契約法などに反する内容になっていないかについても、気を配る必要があります。
また、通信販売では、対面取引と異なり、お客の氏名、住所、電話番号など、さまざまな個人情報を取得することになります。
個人情報の取扱いについて定めたプライバシーポリシーの作成は、消費者の安心感を高めることにつながります。
もしも、その個人情報を今後マーケティングなどに活用したいと考えるのであれば、取得したデータの利用目的として、その旨をかなり具体的に明記する必要があります。
EC事業に限らず、新たな事業に参入する際には、事業を行うにあたって行政への届出や行政からの許可が必要ないか確認する必要があります。
たとえば化粧品を販売するのであれば、化粧品の販売業または製造販売業の許可が必要になり、中古品を販売するのであれば古物商許可が必要になります。
また、Webページを作成する際には、広告表現が不当な景品類、広告表示を禁じている『景品表示法』や医薬品や化粧品などの販売、広告について定めている『薬機法』などの規制に反しないかについても注意する必要があります。
EC事業は、新規参入しやすい反面、消費者トラブルが生じやすい取引類型です。
法律によってさまざまな規制がなされているため、リーガルチェックが必要になるポイントも多いといえます。
規制への対応を怠ると、後から大変な損失をこうむるリスクを抱えることになりかねません。
こうしたリスクを最小限に抑えるためにも、なるべく早い段階で専門家に相談するのが望ましいでしょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
2024年1月3日に、福岡県北九州市小倉北区の中心市街地で大規模火災が発生しました。
火災は飲食店街の「鳥町食道街」で起き、怪我人は出なかったものの、食道街内の22店舗を含む35店舗が焼損しました。
出火元は特定されておらず、食道街の中心部とみられています。
2022年には、現場に近い別の市場でも2度の大規模火災が発生しており、同年8月の2度目の火災では、市場付近の店舗関係者が油の入った鍋を火にかけたまま店を離れていたことが原因とされ、業務上失火の疑いで書類送検されています。
自店舗が発火元となる可能性もあれば、こうした近隣の建物などからの出火により大規模火災に発展し、自店舗に飛び火する可能性もあります。
また、いくら注意していても、飲食店であれば自店舗の火災リスクを完全にゼロにすることはむずかしいでしょう。
防災意識を高め、普段から防火に努めることはもちろんですが、飲食店を経営するのであれば、万が一のことも考えておかなければいけません。
ここで、火災が起きたときにどうすべきかを解説しましょう。
もし、火災が起きた場合は出火元を確認し、お客と自店舗の従業員、そして近隣の店舗、もしくは同じテナントビル内の他店舗に向かって、大きな声で「火事だ!」と叫びながら火災の発生を伝えると同時に、携帯電話などで消防に119番通報を行います。
このとき、オペレーターには火事である旨と、住所(町名・番地・ビル名など)、店名、出火箇所、目印になるもの、自分の氏名と電話番号を伝えましょう。
調理場や事務所などに、通報時に伝えるべき必要事項をまとめたメモを貼っておくと、いざというときに役立ちます。
火災の状況などから判断し、余裕があれば消火器などを準備しながら、通報することが望ましいとされています。
複数の飲食店が入っているテナントビルなどの場合は、感知器が出火を知らせてくれるところもあります。
感知器には火災の温度を感知して知らせる熱感知器、煙を感知する煙感知器、炎の放射エネルギーを感知する炎感知器などがあります。
いずれも火災を感知すると受信機に信号を送り、音で建物中に火災の発生を知らせます。
通報と火災の周知を行なったら、お客を安全な場所まで避難誘導します。
一酸化炭素中毒にならないように、お客にはハンカチなどで鼻と口を覆ってもらったうえで、「頭を低く! 煙を吸い込まないようにしてください!」と伝えます。
煙は上に流れる性質があるため、頭を低くすると煙を吸い込む可能性が低くなります。
誘導の際は従業員が先頭になり、火災の発生箇所を避けながら、避難しましょう。
このとき排煙窓があれば、開けておきます。
テナントビルなどでは、一斉に大勢で避難すると階段などで人が滞留してしまう可能性があるので、人を分散して避難させることも検討しましょう。
火災がビルの途中階で発生した場合は、まず、その階とすぐ上の階のお客を避難階段で避難させ、その後で偶数階、奇数階のお客を続けて避難させます。
ビルに避難階段が複数ある場合には、偶数階と奇数階のお客をそれぞれ別の避難階段で避難させる、という分散の方法も効果的です。
また、お客の避難誘導後は、逃げ遅れた人がいないか店内を回って確認します。
人がいないことを確認できたら、酸素の流入による爆発的な延焼を防ぐために、ドアや窓、防火扉などは閉めておきます。
もし、発生したばかりの火災であれば、お客の避難誘導と同時に、手の空いた従業員が消火器などで消火活動を行います。
キッチンから火が出ても、天井まで達していなければ消火器で消火できる可能性があります。
こうした火災発生時の避難誘導や消火活動は、いきなり対応できるものではありません。
不特定多数の人が出入りする飲食店や劇場、百貨店などの商業施設は、消防法により年2回以上の消火訓練と避難訓練が義務づけられていますが、小規模な個人店であっても万が一に備えて、定期的に消防訓練を行なっておきましょう。
訓練を行う際には、前もって所管の消防署へ連絡する必要があります。
いざという時すみやかに避難できるよう店舗の間取りや出入り口を把握しておいたり、避難経路が荷物でふさがれないよう整理整頓しておいたりするなど、日頃から点検しておくことが大切です。
お客と自店舗の従業員、そして自分自身の命を守るために、火災時の対応方法は必ず確認しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
2023年の訪日外国人旅行者数はコロナ前の8割にまで回復し、旅行中の消費額については、コロナ禍前を超えて、過去最高の計5兆2,923億円を記録しました。
この背景には円安や物価上昇などの影響もありますが、外国人旅行客の滞在日数が増えたことも要因の一つとしてあげられます。
外国人旅行客の平均宿泊数は、2019年は8.8泊でしたが、2023年には1.4泊伸びて10.2泊となりました。
滞在が長期化した理由については、観光庁の髙橋一郎長官が「コロナ禍が明け、海外に出かけてしっかり滞在し、その国の自然や文化、人を見たり経験したり、交流して、深く知りたいという気持ちがあったのではないか」と推察しています。
外国人旅行客の滞在の長期化によって、発生するのが美容サービスへのニーズです。
10日を超える長期滞在ともなれば、旅行中であっても、美容室やネイルサロン、エステなどに行って、きれいになりたいという人は少なくありません。
観光庁による『訪日外国人の消費動向(2023年7-9月期)』の費目別購入率を見てみても、菓子類や食料品・飲料、衣類などに次いで、「化粧品・香水」がランクインするなど、訪日外国人旅行客の美容への関心は高いといえます。
また、インバウンド消費自体が、モノ消費からコト消費に移行したことも後押しとなり、近年は美容サロンに外国人旅行客が足を運ぶことも多くなりました。
こうしたインバウンド景気のなかで外国人旅行客の集客を図るためには、海外の人も来店しやすいように、さまざまな準備をしておかなければいけません。
その一つが、看板やホームページ、メニュー表、予約・問い合わせなどの多言語化対応です。
日本語のほかに複数の外国語が併記してあると、海外からのお客は非常に利用しやすくなります。
ちなみに、国・地域別の消費額の比率は、台湾が14.7%でトップ、以下、14.4%の中国、14.1%の韓国、11.5%のアメリカと続きます。
英語圏の国が多いことを考えると、英語表記は必須として、中国語と韓国語も併記しておくことをおすすめします。
外国人旅行者を集客するためには、SNSでの発信が欠かせません。
InstagramやX(旧Twitter)、Facebookなど世界規模で利用者が多いSNSは、日本に訪れた際に行ってみたい場所を検索したり、情報を収集したりするツールとして使われています。
有名な観光地ではない地方の個人商店などでも、SNSで発信することにより、世界中から旅行者が訪れるという現象も起きています。
外国人旅行者が検索するハッシュタグをつけたり、店舗を英語で紹介したりするなどの工夫をしながら、SNSの運用を進めていきましょう。
また、海外の口コミサイトにも積極的に登録しておくのが望ましいです。
中国最大級の口コミサイト『大衆点評』には、日本の店舗も登録することができ、自店舗を登録しておけば、中国人旅行者の集客を期待することができます。
ほかにも、英語圏の旅行者に効果的な『Yelp(イェルプ)』や、日本でも有名な『トリップアドバイザー』なども集客に活用できます。
さらに、実際に海外のお客が来店した際には、言葉や文化・習慣の違いがネックになることもあるため、多言語対応の翻訳アプリやデバイス、イメージを伝えるための写真アプリなどを駆使しながら、適切なコミュニケーションを取ることが重要です。
決算方法についても、クレジットカードに対応している場合は、国際ブランドのVisa、Master、AMEX、JCB、Discover、Dinersのほか、中国発の『銀聯(ぎんれん)カード』も使えるようにしておくことをおすすめします。
銀聯カードは利用者が世界中で急速に増えており、中国人旅行者の利用を想定するのであれば、対応しておきたいクレジットカードの一つです。
日本の美容サロンにおけるハイレベルな施術、丁寧な接客、清潔な店内は、訪日外国人旅行者から高い評価を得ています。
多言語化から決済方法まで、入念に準備したうえで、おもてなしの心を持ち、海外からのお客を迎えましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
介護職が過酷だといわれる理由はいくつかありますが、特に深刻なのが、慢性的な人手不足による「休みの取りづらさ」だといえます。
人の命に関わる仕事として心身ともに疲弊するにもかかわらず、まともに休日を取ることができないと、働く人のやる気や集中力が欠けてしまい、サービスの質が下がります。
また、プライベートの時間を確保できない状況は、介護スタッフの不満を増やすことにつながるでしょう。
そこで、ここ数年の人材確保対策として増加している新たな試みが、週休3日制の導入です。
週休3日制とは、1週間に3日の休暇を設ける制度で、土日を含む必要はなく、平日3日間の休みでも週休3日制となります。
週休3日制は、政府の『骨太の方針2021』において多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践として普及を図ることが盛り込まれたもので、一般企業では導入件数が増えてきていました。
その一方で、週休3日制導入により労務管理の複雑化や業務の停滞等への懸念により、導入に踏み出せない介護事業所が多かったのも事実です。
しかし、近年では、介護業界離れ対策の一環として週休3日制を導入する介護事業所が徐々に増加しており、求人サイトを見ても週休3日制を導入する事業所が増えていることがわかっています。
週休3日制の導入によるメリットとしては、前述のように休日数が増加するためスタッフのプライベートな時間が増え、満足度が向上することで離職率の低下につながることなどがあげられます。
休日が多いことは求人でのアピールポイントになり、採用時にも有利に働くでしょう。
また、休日がきちんと確保されるということは、限られた時間内での働き方となるため、業務の細分化や、見える化がしやすくなり、業務生産性の向上も期待できます。
一方、週休3日制導入によるデメリットとして考えられるのが、労務管理の煩雑化です。
施設や事業所の稼働日数を変えずに、スタッフの休日を増やすということは、スタッフのシフト割、日勤と夜勤の調整などで不備が出ないように管理しなければいけません。
労働時間管理や給与計算においても、整理が必要となります。
また、業務の引継ぎや連絡体制をしっかり構築しておかないと、スタッフ間のコミュニケーション不足によるトラブルが起きたり、サービスの質の低下や現場業務の停滞などが起きたりする可能性があります。
業務班ごとにリーダーを設置し、管理できる人材を増やす必要があるでしょう。
では、週休3日制を導入するには、具体的にどのようなことに注意すればよいのでしょうか。
そこで重要になるのが、ルール作りです。
まずは導入する目的や意図を明確にして、スタッフに示します。
目的や意図を理解しないまま導入すると、業務に対する意識が統一されなくなり、現場で混乱を生じる可能性があります。
そして就業規則等でルールを定めると共に、現場での仕事を細分化して各々のマニュアルを作成することも大切です。
ルールを明確にすることで業務へのスムーズな取り組みが可能となり、休日を増やしても現場に影響を及ぼさないオペレーションを実行できるでしょう。
また、スタッフ間のコミュニケーション不足への対応は、業務をICT化することで改善できるかもしれません。
利用者へのサービス状況や体調管理、スタッフ間の業務引継などをICT化によって情報共有すれば、短時間での意思疎通が可能になります。
週休3日制が現場になじむまでは、試行錯誤を繰り返し、時間がかかることも予想されます。
業務の量や内容、そこに必要なスタッフの数などを洗い出し、日々の業務を円滑に行うための手段として、週休3日制の導入に踏み込んでみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
1995年に発生した阪神・淡路大震災では、通常時の救急医療と同等の医療が提供されていれば避けられた「災害死」が約500件あったと報告されています。
これを教訓として、10年後の2005年に厚生労働省により、災害現場で活動できる機動性を持った災害派遣医療チーム『日本DMAT』(以下DMAT)が発足しました。
厚生労働省の認める専門的な研修や訓練を受けたDMATの隊員は、普段は病院に勤務しており、災害時には都道府県の派遣要請を受けて、被災地域に集まります。
初動のチーム(1次隊)の活動時間は、機動性の確保のために約48時間以内が基本とされており、状況に応じて追加が必要な場合は、2次隊、3次隊が派遣されることもあります。
派遣されるチームの数は、災害の規模や状況、時期などによって異なります。
2011年の東日本大震災では、3月11日から3月22日の12日間にかけて、約340チームが被災地域で活動し、2016年の熊本地震では4月14日から4月23日の10日間で約500チームが活動に加わりました。
また、DMATは大地震のほかにも、台風や水害、航空機事故や列車事故、新型コロナウイルス感染症に代表される新興感染症などにも対応します。
数々の災害で活動するDMATの隊員数は増え続けており、発足時は全国で190チームを配備する計画でしたが、2022年4月の時点では2,040チーム、1万5,862名の隊員が厚生労働省に登録されています。
被災地域におけるDMATの活動内容は多岐に渡ります。
原則として災害拠点病院に設置される本部を活動拠点とし、傷病者の『緊急治療』や、病院の医療行為を支援する『病院支援』以外に、傷病者を被災地域の外に搬送する『医療搬送』や、ほかの保健医療活動チームとの連携なども行なっていきます。
現地における情報収集や共有、被災地域外からの後方支援などもDMATの役割です。
チームとしては、各々で役割が決まっており、医師はチームリーダーとして指示を出しながら医療の提供を行い、看護師は診療補助や被災者、負傷者のケアを担当します。
薬剤師、診療放射線技師、臨床工学技士、理学療法士、医療事務員などが担う業務調整員は、医療品の確保や情報収集、事務的業務などを行うと同時に、被災地域の人的または物的リソースを消費しないために、チーム用の食事や宿泊場所の手配なども行います。
医師と看護師と業務調整員が一丸となって活動するDMATですが、医療従事者であれば誰もが隊員になれるわけではありません。
特別な資格は必要ありませんが、厚生労働省が指定する全4日間の『日本DMAT隊員養成研修』を受講し、筆記試験と実技試験に合格することで、必要な課程を修了したと認められ、隊員資格を取得することができます。
筆記試験は医師、看護師、業務調整員が同じ内容の試験を受け、実技試験はそれぞれの業務に応じた内容の試験になります。
DMATの隊員になると、厚生労働省に登録され、『DMAT隊員証』が交付されます。
ただし、DMATの隊員資格は5年ごとの更新制で、更新するためには5年の間に2回以上、知識や技能を維持し向上させるための『DMAT技能維持研修』を受講しなければいけません。
また、DMATは、災害拠点病院またはDMAT指定医療機関に所属しているため、DMATとして活動するには、いずれかの医療機関に勤務している必要があります。
災害拠点病院とは、災害発生時に災害医療を行う医療機関を支援する病院のことで、指定されるには、24時間緊急対応ができる、災害発生時に被災した傷病者の受け入れや搬出が可能な体制がある、DMATチームを保有しているなどの要件を満たす必要があります。
災害拠点病院は2023年4月時点で全国に770施設あります。
DMAT指定医療機関は、DMAT派遣に協力する意思があること、活動に必要な人員、整備を持つことが指定要件となっており、厚生労働省または都道府県の指定を受けます。
DMAT指定医療機関も5年ごとの更新制で、更新するためには、『DMAT地方ブロック訓練』に2回以上参加する必要があります。
また、2016年より災害拠点病院の指定要件に事業継続計画(BCP)の策定等が追加されました。
被災地域においては災害拠点病院ではなくても、すべての医療機関が医療活動の中心を担うことになります。
災害拠点病院以外の病院でも、災害時に機能を維持しながら、被災患者の受入れなどを行うためには、医療機関における事業継続計画(BCP)が重要になります。
DMATの資格やDMAT指定医療機関の更新手続き、ガイドラインなどを参考にしてのBCPの策定など、緊急時に最善の医療が提供できるよう準備を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
地震大国の日本では、常に大地震の脅威にさらされています。
震度6強~7程度の大規模地震が発生した際には、国民の生活に甚大な被害を及ぼす可能性があります。
しかし、大地震が起きても、日頃から防災意識を高く持って必要な備えを行なっておけば、被害を最小限に食い止めることができます。
歯科医院における地震対策として有効な手法の一つは、棚や歯科医療機器の固定です。
近年の地震による負傷者の30~50%は、家具類の転倒・落下・移動によるもので、もし、家具が暖房器具の上などに倒れてしまうと、火災などの二次災害を引き起こす危険もあります。
歯科医院でも大地震の発生時には、薬品の置かれた棚やチェアユニット、レントゲン装置などが転倒したり移動したりする可能性があります。
そうならないように、棚は壁に固定し、さらに複数の『つっぱり棒』で天井と固定します。
歯科医療機器は可能な限りボルトやチェーンで壁や床に固定しておきましょう。
棚のガラスには、割れて飛び散らないように、飛散防止テープを貼っておくのも効果的です。
また、医院に倒壊の危険があれば、その場から避難しなければいけません。
ヘルメットやラジオ、救護品や非常食といった防災用品などはすぐに持ち出せるように一カ所にまとめておきましょう。
ビルやモールなどの施設にテナントとして入っている医院であれば、避難経路や避難先、管理会社への連絡手段、エレベーターの復旧方法などもあらかじめ確認しておく必要があります。
万が一、診療中に大地震が発生した場合は、患者やスタッフ、自分の身を守ることを第一に考えます。
治療中であれば、手を止めて、ドリルや装着前の補綴物などは患者の口腔内から取り出したうえで、横になっている患者を起こして、一緒に机の下などの安全なスペースに避難しましょう。
このとき、火災が起きないよう、アルコールランプに火が点いていれば消し、酸素ボンベの元栓も締め、ブレーカーも落としておきます。
大切なのは、防災マニュアルなどに沿って、あらかじめ誰がどの役割を担うのかを決めておくことです。
リーダーとなって指示を出す係、患者対応の係、避難誘導の係、火を消してブレーカーを落とす係などを決めておくことで、大地震にもスムーズに対応することができるでしょう。
また、大地震の発生直後は、余震や津波、土砂崩れ、地盤沈下などが起こる可能性があるため、できるだけ最新かつ正確な情報を集めることが重要です。
医院のなかに留まるべきなのか、それとも避難するべきなのか、ラジオやテレビなどで現状を把握してから、判断を下しましょう。
地震直後は、院外のスタッフの安否も確認しておく必要があります。
電話やメール、災害掲示板などを使って、スタッフの置かれている状況を把握しておきましょう。
連絡が取れない場合の対応も考えておく必要があります。
震災の規模によっては、電気や水などのライフラインが止まってしまう可能性があります。
地震発生からある程度の期間を経ても、電気や水道が寸断されたままだと診療はできませんし、歯科医療機器が破損してしまうと診療再開までさらに時間がかかります。
休診期間中も生活費はかかり、破損した歯科医療機器は再度購入しなければいけません。
一般的な保険では地震による建物や医療機器の損壊は補償されないものが多いですが、なかには医療機関専用の火災保険に地震保険を追加できたり、事業用の地震保険に加入できたりするものもあります。
加入できる条件や補償内容もさまざまですので、状況により加入を検討してもよいかもしれません。
また、被災後にできるだけ早く診療を再開させるためにも、カルテや診療データなどのバックアップは常時取っておきましょう。
『万が一』の備えが状況を大きく変えることもあります。
地震などの災害はいつでも起きるものという考えのもと、災害マニュアルを策定し、災害の発生時には慌てずにそのマニュアルに沿った行動をすることが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
『令和6年能登半島地震(以下、能登半島地震)』では、多くの家屋に全壊や半壊、一部損壊などの被害が出ました。
その多くは、建築基準法が改正される前の1980年以前に建てられた古い建物だといわれています。
また、特に被害が大きかった珠洲(すず)市などでは、1981年に導入した震度6強以上の地震でも建物が倒壊しない『新耐震基準』に適合した家屋にも被害が出ています。
専門家の調査によると、能登半島一帯で2020年12月から約3年に渡って500回以上続いた群発地震によるダメージが蓄積したものだという見方もあります。
その一方で、被災地でも現在の基準を満たしている家屋は倒壊を免れたという報告もあります。
現在の基準とは、多くの木造住宅が倒壊した1995年の阪神・淡路大震災を教訓に新耐震基準を強化した、いわゆる『2000年基準』のことです。
国土交通省が公表した2016年の熊本地震の木造建築物の倒壊率を見てみると、1981年5月以前の旧耐震基準の家屋が28.2%、新耐震基準の家屋が8.7%だったのに対し、2000年基準に適合した家屋の倒壊率はわずか2.2%でした。
能登半島地震でも同様に、被害が集中したのは、耐震補強がされておらず、2000年基準に適合していない古い木造住宅だったといわれています。
2000年基準は、地盤に適した基礎の設計や接合部への固定金具の取り付け、バランスのよい耐力壁の配置などを定めており、この基準に適合するように施工、改築された木造住宅は、耐震性が大幅に向上しています。
しかし、地方には2000年基準どころか、新耐震基準を満たしていない木造住宅が多く存在します。
新耐震基準を満たした割合を示す耐震化率は全国平均で87%(2018年時点)となっていますが、地方では平均を大きく下回っているという現状があります。
被害の大きかった石川県珠洲市の住宅の耐震化率は、2018年末の時点で51%でした。
今後は、能登半島地震を契機として、特に地方における住宅の耐震補強工事のニーズが高まるといわれています。
将来的に南海トラフ地震や首都直下型地震などの発生が予想されていることもあり、一部の自治体では、耐震診断や耐震補強工事の問い合わせが急増しているという報道もありました。
耐震補強工事にはさまざまな種類があります。
予算や住宅の状況などに合わせて、顧客に適切なものを案内するようにしましょう。
既存の壁やクロスの下地に耐震パネルを設置する「壁の増設」や、柱や梁、筋交いなどの接合部に金具を取り付ける「耐震金物の取り付け」、ひび割れ補強や基礎の打ち増しなどによる「基礎の補修」などが、基本的な耐震補強工事の方法です。
地方に多い瓦屋根を軽い素材に替える「屋根の軽量化」なども、建物にかかる負担を軽減させる耐震化の一つです。
屋根が軽くなれば、地震の際に揺れを小さくすることができます。
古いマンションなどの耐震補強工事は、大規模改修工事と同時に行われることも多く、耐震診断業者や管理組合、配管や電気などの関連業者らとの調整が必要になります。
特に、管理組合とは密なコミュニケーションが求められ、コストや美観、使い勝手など、先方の要望を汲みながら、設計や工事を進めていかなければいけません。
また、老朽化が進んで耐震性に不安がある分譲マンションは、耐震診断の結果次第で、建て替えを検討してもらうのも方法の一つです。
現在は分譲マンションの建て替えに「所有者の5分の4の合意」が必要ですが、法改正によって、耐震性不足などの問題があれば多数決の割合を緩和する改正案が国会に提出される予定です。
この法改正が実現すれば、これまでよりも分譲マンションの建て替えがしやすくなります。
マンションも木造建築物も、今後は耐震補強工事や建て替えの問い合わせが増えることが予想されます。
耐震化に関心のある顧客には、耐震補強工事に使える補助金制度なども紹介しながら、まずは耐震診断の案内をしていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
遺産分割成立後に発生する賃料収入は、賃貸借契約の賃貸人としての地位を承継した相続人が取得することになります。
収益物件となる不動産の賃貸人は、その不動産を借りている賃借人に対して、賃料を請求できる権利があります。
これを、賃料債権といいます。
賃貸借契約の賃貸人としての地位を誰が承継するかについては、ほかの相続財産と同じく、遺産分割協議のなかで決めます。
通常は、賃貸している不動産自体を相続することとなった相続人が賃貸人としての地位も承継する形で決まりますが、ほかの相続財産とのバランスを見て、柔軟に決することができます。
ただし、遺言が残されている場合には、原則、遺言によってその不動産を取得するとされた者が、賃料を相続開始時から取得することとなります。
このように遺産分割成立後の賃料収入については、ほかの相続財産と同じく、遺産分割協議において、その相続人を決めることになります。
では、被相続人の死亡後、遺産分割成立時までに発生した賃料収入については、誰が取得することになるのでしょうか。
この点については、長らく裁判所においても考え方が分かれていたところでしたが、2005年に最高裁判所が判断を下しました。
最高裁は、まず遺産が相続開始から遺産分割までの間、共同相続人全員の共有に属するという相続の基本原則を確認したうえで、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は、遺産とは別個の共有の財産であり、各相続人がみずからの相続分に応じて賃料収入の債権を得るべきと判断しました。
賃料債権は、分けることのできる債権である「可分債権」です。
たとえば、相続開始から遺産分割までに生じた賃料収入が100万円、相続人A、Bの相続分がそれぞれ2分の1である場合、AとBがそれぞれ50万円ずつ取得することになります。
次に問題となるのが、このような形で各相続人がそれぞれ取得した賃料収入の債権が、その後に行われた遺産分割の内容に影響を受けるかという点です。
相続の基本ルールには、『遺産分割には遡及効(相続開始の時に遡って効力が生じること)がある』という定めがあります(民法909条本文)。
そのため、遺産分割の内容によって、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権を得る人も変わるのではないかという疑問が生じます。
しかし、最高裁はこの点について、遺産分割の内容に影響を受けることはないと結論付けました。
確かに、一度賃料収入を得て、自分の分だと思って費消したにもかかわらず、その後の遺産分割の結果、「ほかの相続人のものとなったので、返すように」と命令されるのは不条理といえます。おそらく最高裁は、そのあたりを考慮して判断したのでしょう。
この最高裁の判断を前提とすると、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権を誰が取得するかについては、遺産分割協議のなかで決めることはできないという結論になります。
ただし、遺産分割協議のなかで決することにつき、相続人全員の同意がある場合には、その限りではありません。
賃料収入を共同相続人の間で分けるにあたっては、遺産分割成立前の賃料収入と遺産分割が成立した後のそれとを区別して考える必要があります。
相続開始から遺産分割が成立するまでの間は、共同相続人全員が各自の相続分に応じて、成立後は賃貸人としての地位を承継した者が賃料収入の債権を取得することになります。
遺産分割の結果、賃貸人の地位を承継することとなった相続人が「遺産分割前の賃料収入も自分だけのものだ」と、安易に考えていることがよくあります。
遺言によって不動産を取得する者があらかじめ決められているような場合を除き、遺産分割協議が成立する前の未分割期間中に生じた賃料収入は、法廷相続分に従って複数の共同相続人に帰属されることになるので注意が必要です。
相続人の間で話し合いをするときにも、一人ひとりの理解を深めながら進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
2024年4月1日から相続した不動産の登記の申請が義務化されます。
相続登記の義務化は登記簿を見ても所有者がわからない『所有者不明土地』を減らすことを目的としたもので、相続によって不動産を取得した相続人は、相続したことを知った日から3年以内に『所有権移転登記』を行わなければいけません。
所有権移転登記とは、相続や売買で新たに不動産の所有権を取得した人などが行う登記のことで、登記手続きの際には登録免許税を納付する必要があります。
所有権移転登記の登録免許税の税率は、相続した場合と売買や贈与された場合で異なります。
原則として、不動産の価額を課税標準とし、相続は税率が0.4%、売買や贈与は2%となります。
たとえば、評価額が1,000万円の建物を相続により取得した場合は1,000万円×0.4%で4万円、売買により取得した場合は1,000万円×2%で20万円の登録免許税を納めることになります。
また、相続の所有権移転登記には、相続人に登記を促す目的で、登録免許税の免税措置が設けられています。
免税措置が適用されるケースは、「相続により『土地』を取得した個人が登記を受ける前に死亡した場合」と、「少額の『土地』を相続により取得した場合」の二つです。
なお、適用されるのは土地を相続した場合に限られ、建物の相続には適用されません。
それぞれの要件を確認していきましょう。
たとえば、登記名義人となっている被相続人Aから相続人Bが土地を相続し、そのままBが所有権移転登記を行わずに亡くなってしまった場合です。
このケースでは、亡くなったBの子どもなどの相続人Cが登記を行う際に、Bをその土地の登記名義人とするための登記にかかる登録免許税が免税されることになります。
この際、必ずしもCが該当の土地を相続している必要はなく、Bが生前に別の第三者に土地を売却していたとしても、AからBに土地を相続した際の1次相続についての登録免許税は免税されます。
この免税措置を受けられるのは、現時点において2025年3月31日までとなっています。
相続した土地の価額が100万円以下の場合は、登録免許税が免税されます。
ここでいう土地の価額とは固定資産税評価額のことで、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、その価格になります。
固定資産課税台帳に登録されていない場合は、登記官が認定した価額になるため、該当する土地を管轄する登記所に確認しましょう。
これまでは免税措置の適用対象となる土地の価格が10万円以下とされていたうえ、一部の区域に限られていましたが、税制改正によって100万円以下に引き上げられ、区域も全国に拡大されました。
また、相続した100万円以下の土地は、所有権移転登記のほかに、『土地の所有権の保存登記』についても免税措置が適用されます。
不動産登記記録は、所在や番地などの土地の表示に関する事項や取得日などを記した『表題部』と、所有権などの権利に関する事項を記した『権利部』に分かれています。
しかし、不動産によっては所有権の登記がされておらず、表題部にのみ所有者が表示されている場合があります。
表題部に表示されている土地の所有者から、その土地を相続した場合、相続人は新たに権利部に所有権の登記を行う必要があります。
これが『所有権の保存登記』です。
所有権の保存登記も所有権移転登記と同様に税率は0.4%ですが、100万円以下の土地を相続して、所有権の保存登記を行う場合は、登録免許税が免税されます。
この場合、免税措置を受けられるのは現時点において2025年3月31日までとなっています。
不動産登記をすることで、大切な資産の権利関係を明らかにし、円滑な取引と権利の安全を確保する役割を果たしています。
相続した土地の所有権移転登記や所有権の保存登記を行なっておらず、免税措置の要件に該当する場合は、期日までに登記の手続きを済ませておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。
イラストや写真、デザインを生み出す『MidJourney』『Stable Diffusion』などの画像生成AIや、2022年11月に公開されて大きな話題になった『ChatGPT』などの文章生成AIは、すでに多くの分野で活用されています。
2024年1月には、第170回芥川賞の受賞作『東京都同情塔』が文章生成AIを駆使して書かれたことが、大きな話題になりました。
ビジネスシーンにおいても、文章生成AIでメール本文やレポート、資料などを作成したり、アイデア出しや言語の翻訳、コード生成などを行なったりと、活用が進められています。
自然言語処理技術による日程調整を可能にしたChatGPT搭載のスケジュール管理ツールなども登場し、生成AIは業務の効率化を図るうえで欠かせないものになりつつあります。
大企業でも、画像生成AIツールを広告やキャンペーンで活用しているコカ・コーラ社や、生成AIでソフトウェア開発を行ったLINEヤフーの事例などはよく知られています。
また、NTTやサイバーエージェントなども、独自で生成AIのツールを開発し、積極的に生成AIの使用に取り組んでいます。
また、マーケティングの分野では、生成AIが顧客のデータ分析や行動予測を行う『Adobe Sensei』や、企業の決算を要約して生成AIが出力する経済情報プラットフォーム『SPEEDA』、生成AIの活用で広告のパフォーマンスを最適化する『Albert』など、さまざまなサービスが誕生し、IT企業を中心に導入が進んでいます。
作業を効率化すると同時に、イノベーションの創出も期待される生成AIの活用ですが、一方で、生成AIの使用を禁止している企業も少なくありません。
企業におけるChatGPTへの向き合い方について行なったある調査では、およそ7割の企業が生成AIアプリケーションの使用を禁止しているというデータもあり、生成AIの利点は十分に理解しているものの、さまざまなリスクから使用に踏み切れないという現状が浮かび上がってきました。
では、生成AIに潜むのは、どのようなリスクなのでしょうか。
生成AIには「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる、AIが大量のデータのなかから自動的に生成に必要なものをピックアップして学習する技術が用いられています。
このインプットに必要な大元のデータには知的財産が含まれているケースも多く、もし生成AIが既存の知的財産と類似した成果物を出力し、それを使用した場合、状況によっては著作権侵害に該当する可能性もあります。
また、大元のデータに個人情報や個人を特定する画像などが含まれている場合は、肖像権やパブリシティ権、プライバシーなどの問題も出てきます。
ほかにも、生成AIが出力する誤った情報や偏った情報を、そうとは知らないまま受け取ってしまう可能性もあるでしょう。
近年はSNSなどで、生成AIが作ったフェイクニュースや、偽物の動画が拡散されるケースも増えてきているので、真偽の確認が必要です。
生成AIの使用には、「他者の権利や利益を侵害していないか」という視点を持つことが重要で、生成AIを活用している企業の多くは、使用に関するガイドラインを策定するなどのルール作りを行なっています。
日本では生成AIの活用について、規制する法律がまだ存在しません。
しかし、世界では生成AIとの共存を目指すためのルール作りが進められているため、日本でもAI 戦略会議などで生成AIの利点と問題点が整理されはじめています。
2024年1月には、大学や大手企業で構成される生成AIの業界団体が発足するなど、ルール作りに向けた動きが活発化してきました。
生成AIは活用次第で生産性の向上や業務効率化の面で成果が期待できますが、ルールやガイドラインが未整備であるなど注意すべき点もあります。
まだ過渡期にある生成AIに対して企業としてどのような措置を取るのか、今後の動きを注視しながら、社内で対応を検討していく必要があります。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
組織によって人事評価の方法はさまざまですが、一定以上の規模の企業になると、評価の公平性を保つために、二人以上の評価者が査定を行うのが一般的です。
なかでも、係長や課長クラスが「1次評価者」として直属の部下の査定を行い、その上の各部署の部長クラスが「2次評価者」として、1次評価者の評価が正しく公平だったのかを確認する「2段階の人事評価」が多くの企業で行われています。
1次評価者は普段から部下と直接関与しているため、その部下の能力や働きぶり、仕事への姿勢などを把握することができますが、一方で距離が近すぎるがゆえに、正しい評価や判断ができない場合もあります。
そこで2次評価者は、より客観的な視点で1次評価者の見解に偏りがないか見極める役割を担います。
そして、1次評価者と2次評価者が下した評価を、さらに公平性を持って調整していくのが、『評価会議』です。
企業によって、評価会議は「評価調整会議」や「キャリブレーション」ともいわれています。
評価会議を経た評価は、対象従業員の最終的な評価となります。
また、評価会議には、被評価者の最終評価を決めるほかに、もう一つの目的があります。
それは、評価者の評価の軸となる『評価基準』を、ほかの評価者の基準とすり合わせ、揃えるというものです。
人事評価に用いられる評価基準には、ノルマの達成度合いや業績など、数字として示すことができる項目と、個人の能力や仕事への姿勢など、数値化のむずかしい項目があります。
数値化のむずかしい項目は、評価者の主観による評価になることも多く、どうしてもバラつきやブレが生じてしまいがちです。
評価会議は、こうしたバラつきやブレをなくすために、評価者の持つ評価基準を全員で共有し、揃えていく場でもあります。
評価基準のすり合わせをしておけば、数値化がむずかしい項目でも1次評価の段階で、より公平性が高く、納得感のある評価を下せることになります。
評価会議の参加者や進め方は企業によってさまざまで、役員が中心となって行われるケースもあれば、1次評価者が加わるケースもあります。
一般的に、従業員数が50名規模の企業であれば、1次評価者と2次評価者を加えた8~10名の評価者による評価会議が望ましいとされています。
会議の時間は、規模や人事評価に対する考え方にもよりますが、50名規模であれば、3~6時間くらいを目処に設定しましょう。
1次評価者でもある係長や課長自身の評価が必要な場合は、評価会議を一部と二部で分け、一部で一般従業員に対する評価会議を行い、二部では係長や課長に席を外してもらったうえで、係長や課長の評価者である部長クラスが評価会議を行います。
評価会議を進める際は、被評価者の評価結果を一覧にした評価表を用意し、評価を比較できるようにしておくとスムーズです。
その評価表をもとに、1次評価者や2次評価者がその評価を下した理由を説明し、それぞれの項目ごとに意見を出し合いながら、検証していきます。
評価の争点になりやすいのは「不自然に高い評価や低い評価」「1次評価者と2次評価者の間で乖離のある評価」「同部署や同業務の従業員同士にもかかわらず乖離している評価」などです。
円滑に評価会議を進めるためには、進行役の役割も重要です。
事前に予定表を作って参加者に共有し、滞りなく進めるようにしなければいけません。
また、会議ではディスカッションを経て最終評価が決まるため、活発な意見交換が行われるよう参加者に発言してもらうことを意識しておきましょう。
自社の従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上に、人事評価は重要です。
その人事評価に納得感と満足感を得られるようにするためにも、しっかりと意見をすり合わせ、調整する評価会議を執り行うようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
厚生労働省の調査によると、タクシー運転手の平均年齢は60歳を超えており、全産業の平均43.4歳と比べてもかなり高齢化が進んでいます。
また、運転手のなり手の不在や、コロナ禍による離職なども相まって、日本のタクシー不足は社会問題化しつつあります。
こうしたタクシー不足の解消に向けて、日本でもライドシェアについての議論が進められてきました。
ライドシェア(英語ではridesharing)とは、ドライバーと乗客をマッチングさせるサービスのことを指し、主に『TNC型』と『PHV型』という二つの形態があります。
アメリカやオーストラリア、中国などで普及しているTNC型のライドシェアは、「Uber」や「Lyft」などの配車プラットフォームを介して、登録した一般ドライバーと利用者をアプリでマッチングさせる形態です。
片や、イギリスやドイツなどで導入されているPHV型は、ライドシェアを行う一般ドライバーに対して、国が登録や車両・運行管理を義務づける、いわば個人タクシーの派生型といえます。
日本では、安全面などからタクシー事業者がタクシー事業の一環として、ライドシェアを行う一般ドライバーの教育、運行管理や整備管理を行うため、PHV型寄りのライドシェアになることが予想されます。
日本では、タクシー営業に必要な認可を受けずに一般ドライバーが自家用車を使用して乗客を運ぶ行為を禁止しています。
しかし、過疎地などのタクシーが確保できない地域に限り、国土交通大臣の登録を受けた市町村やNPOが自家用車を使って有料で人を運送する『自家用有償旅客運送』が認められています。
道路運送法に基づいた自家用有償旅客運送制度は、タクシーなどの旅客運送に必要な第二種運転免許がなくても一般ドライバーが有料で人を運送できる制度です。
交通が不便な地域での実施に限定されるうえ、福祉を目的としたものでなくてはいけないという条件があります。
さらに、地域における関係者との協議と、道路運送法に基づく登録やタクシー会社の講習を受ける必要があります。
タクシーが不足しているからといって、すぐに一般ドライバーによる旅客運送を実施できるわけではありません。
今回のライドシェア解禁は、この自家用有償旅客運送制度を大幅に見直すことで、観光地や繁華街でも、一般ドライバーによる旅客運送を実現させることを目的としています。
では、日本版のライドシェアは具体的にどのようなかたちで運用されていくのでしょうか。
まず、タクシーの配車アプリが導入されている地域においては、アプリのデータを活用して、タクシーが不足する時期や時間帯を特定します。
現在、全国の70%以上の地域が配車アプリのデータによって、タクシーの不足状況を可視化することができます。
この結果に基づき、一般ドライバーと自家用車による運送サービスを、タクシー事業の一環として提供することになります。
また、配車アプリが導入されていない地域に対しては、関係者へのヒアリングや、無線配車の状況などから不足状況を分析し、不足分について地域の一般ドライバーと自家用車を活用すると同時に、配車アプリの導入を促進していきます。
ライドシェアが導入されることで、今後は繁忙期が来るとタクシーが不足する海水浴場近辺やスノーリゾート、終電が過ぎるとタクシーがつかまらなくなる繁華街やターミナル駅付近などでも、移動手段の確保が見込めます。
タクシー会社が加盟する業界団体の『東京ハイヤー・タクシー協会』では、まずは東京都内で、今年の4月から数百台規模でライドシェアをスタートすると発表しました。
また、政府はタクシー会社以外の企業がライドシェア事業に参入できる全面解禁についても、6月スタートを視野に議論を進めています。
ライドシェアが全国的に普及するには時間を要するでしょう。
しかし、新たなサービスとして軌道に乗れば、利用客、働き手、時代のニーズに応えた『三方よし』の事業として発展していくかもしれません。
今後もライドシェアを巡る動きに注視していきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
労働条件通知書とは、賃金や労働時間や有給休暇など、労働者に明示しなければいけない労働契約の条件を記した書面のことで、事業者は労働者に対し、この書面を交付する義務があります。
これまでは原則として紙の書面による交付しか認められておらず、正社員はもちろん、頻繁に契約の更新が必要な非正規労働者に対しても、更新ごとに労働条件通知書を交付する必要があったため、事業者と労働者の双方にとって、労働条件通知書の交付はとても手間がかかるものでした。
そこで、事務的な負担を減らし利便性を高めるための措置として、労働基準法施行規則が改正され、2019年4月1日から書面以外の方法による交付が認められることとなりました。
具体的には、FAXや電子メール、その他メッセージの送付が可能なSNSやアプリ、クラウドサービスなどでの送付が可能となりました。
労働条件通知書の書面での交付を定めた労働基準法施行規則は、電子メールやSNSなどが存在しない1947年に作られたものなので、交付方法の追加はおよそ70年以上ぶりの改正となります。
労働条件通知書の電子化により、多くの会社で業務の効率化が図られると同時に、ペーパーレス化により、コストの削減も実現しました。
しかし、こうした労働条件通知書の電子化は便利な反面、いくつか気をつけるべきポイントがあります。
まず、労働条件通知書をFAXや電子メールなどの方法で送付する際には、必ず事前に労働者の同意を得ておく必要があります。
たとえば、自宅にFAXやパソコンなどの機器がなく、労働者がFAXや電子メールを受け取れないケースも考えられます。
労働者が希望しないのであれば、これまでと同様に書面での交付を行いましょう。
もし、労働者が電子メールを受け取れない状態にもかかわらず、電子メールで労働条件通知書を送付した場合などは、「労働条件通知書を交付した」とはいえず、法令違反になる可能性があります。
事業者の法令違反が認められた場合は、労働基準法の第120条に基づき、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるので注意してください。
労働基準法施行規則の改正により、自社サーバーやクラウドサービスを介した労働条件通知書の交付も認められるようになりました。
従業員が少人数であれば、労働者一人ひとりに電子メールで送付するかたちでも問題はありませんが、大規模の企業の場合、電子メールの送付にも時間と手間がかかってしまいます。
そこで、労務管理の効率化を目的に、自社サーバーに労働条件通知書をアップロードし、従業員が個人的に自分の労働条件通知書を閲覧できるスタイルを採用している企業もあります。
このとき注意したいのは、個別にパスワードを設定するなどして、ほかの従業員に個人の労働条件通知書を閲覧できないようにしておくことです。
労働条件通知書は労働条件が明記された個人情報なので、取り扱いには十分気をつけましょう。
また、労働条件通知書を交付しても、労働者が閲覧していなかった場合、労務トラブルに発展することがありますので、本人に届いているかを確認することも望ましいとされています。
しかし、一人ひとりの閲覧状況を確認しようとすると、事務作業の工数が増大してしまいます。
そこで労働条件通知書の閲覧ができるクラウド型の雇用管理システムや電子契約サービスであれば、従業員がWeb上で同意ボタンをクリックすることで、閲覧と確認を行なったことが証明できます。
特に従業員が多い企業は、法務的な側面からも労働条件通知書の閲覧とその証明ができるクラウドサービスがあると便利でしょう。
ほかにも、電子化された労働条件通知書は、交付を受けた労働者が紙に印刷できるようにしておかなければいけません。
印刷用に設定したPDFファイルを電子メールに添付するケースなどは問題ありませんが、SNSやメッセージアプリの文章内にそのまま労働条件通知書の内容を記載して送る方法では、レイアウトや書式が崩れて正確に出力できず、必要な文書が途切れてしまうなど要件を満たさない可能性がありますので注意しましょう。
日本におけるスマートフォンの普及率は9割を超え、多くの人が労働条件通知書の電子化を受け入れることのできる環境にあります。
労働条件明示のルール変更は、紙で労働条件通知書の交付を行なっている事業者にとって、電子化に切り替えるよいタイミングかもしれません。
業務効率化とコスト削減のためにも、労働条件通知書の電子化を前向きに検討していきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
物価の上昇や円安が続き、国民の生活は厳しい状態が続いています。
この状況に対応し、暮らしやすい環境にするため、企業による持続的な賃上げが求められています。
労働者の賃上げによる消費の拡大を狙い、政府はこれまでさまざまな『賃上げ税制』を講じてきました。
2013年に企業の賃上げ促進を目的に『所得拡大促進税制』が創設されたのを皮切りに、以降は複数回の見直しを経て、2022年4月1日からは新たな賃上げ税制として、『賃上げ促進税制』がスタートしました。
賃上げ促進税制は、大企業向けと中小企業向けに分かれています。
中小企業向けの賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業等または個人事業主が前年度より給与等支給額を増加させた際に、その増加額の一定の割合を法人税または所得税から控除することのできる制度です。
これまで、中小企業向けの賃上げ促進税制では、雇用者全体の給与等支給額の増加額の最大40%を控除することができました。
この割合のことを『税額控除率』といいます。
2024年度の税制改正によって、税額控除率が現行の最大40%から最大45%まで引き上げられることになります。
この強化された賃上げ促進税制においては、2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する各事業年度が適用期間となります。
さらに、改正された賃上げ促進税制では、ある課題を解決するための措置も創設されました。
その課題とは、赤字の中小企業は賃上げを行うメリットがないというものです。
赤字の中小企業は法人税がかからないため、賃上げを行なっても、これまでは増加額の一定の金額を控除することができませんでした。
控除ができなければ節税メリットがないため、賃上げにも消極的になってしまいます。
そこで、赤字の多い中小企業にも賃上げを促すため、新たに『繰越控除措置』が創設されました。
賃上げ促進税制での繰越控除措置とは、赤字の中小企業が賃上げを行なった年度に控除しきれなかった金額を、5年間は繰り越すことのできる措置です。
たとえば、改正後の中小企業向けの賃上げ促進税制では、雇用者全体の給与等支給額を前年度比で2.5%アップさせた場合、税額控除率は30%になります。
税額控除率が30%ということは、賃上げの増加分が100万円の場合は30万円を法人税額から控除できるということです。
その年度が赤字であれば法人税額は0円のため、本来は控除することができません。
しかし、繰越控除措置によって、この30万円を5年間のうちの黒字の年度に繰り越すことが可能になりました。
ただし、繰り越して控除するには、繰り越し先の黒字になった年度も雇用者全体の給与の支給額が前年度より増えている必要があるので注意してください。
また、複数の上乗せ要件を満たすことで、税額控除率は最大で45%になります。
税額控除率が45%ということは、賃上げの増加分が100万円の場合は45万円を税額控除できるということです。
その年度が赤字であれば、5年以内で黒字になった時に45万円を控除できます。
2023年度に賃金の引き上げを実施した中小企業は約6割にもなり、給与を3%以上賃上げした企業は5割を超えました。
賃上げは税額控除による節税メリットはもちろん、優秀な人材の確保や定着、従業員のモチベーションアップなどにもつながり、特に中小企業においては有効な施策となります。
繰越控除措置によって、赤字の中小企業でも節税の恩恵を受けられるようになった今だからこそ、賃上げ促進税制による賃上げを検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
製品の欠陥や不具合は、食料品から日用品、家電製品に車両、住宅設備まで、さまざまな分野で発生します。
自社の商品やサービスに不具合が生じた場合、各事業者は所属する業界の法令やルールに則って、自主的な判断のもとリコールを実施しなければいけません。
リコールの制度や法律、所管官庁は製品ごとに異なるため、対応や手続きも変わってきます。
たとえば自動車の場合、道路運送車両法に基づくリコール制度に従い、事業者は不具合の状況や原因などを国土交通大臣に届け出る義務があります。
大切なのは、どのような製品であっても事業者は消費者の安全と被害拡大の防止を第一に考え、万が一、自社が関わった製品に欠陥や不具合が出た場合は、すぐにリコールの対応を行う必要があるということです。
ただし、どのような欠陥や不具合でも、ただちにリコールをすればよいというわけではありません。
リコールは会社の評判に関わるだけでなく、社会的にも大きな責任を伴います。
消費者から欠陥や不具合の指摘があったとしても、よく確認したうえで、本当にリコールが必要なのか判断することが重要です。
経済産業省が作成した『消費生活用製品のリコールハンドブック2022』では、リコールを行うか否かの判断材料として、以下の項目を定めています。
・人的被害の有無
消費者の死亡などの重大な被害が発生する場合、軽微な物損でも人的被害や被害の多発、拡大の可能性があれば、迅速にリコールを行う必要があります。人的な被害が起きておらず、またその可能性もなく、安全に直接関係のない品質や性能に関する不具合が出ている製品は、リコールの対象にならないこともあります。
・多発と拡大の可能性
軽い故障でも、人的被害の多発や被害拡大の恐れがある場合は、リコールを検討しましょう。
明らかに単一の製品の不具合や故障と断定できない場合、同じ型の製品や同じ部品を使用している製品に関して、複数の故障報告があれば、多発と拡大の可能性があると判断します。
また、人的被害もしくはその可能性はあるが多発の可能性がない場合は、単一の製品の不具合や故障であっても、個別に対応する必要があります。
・事故原因との関係
事故が製品によるものなのか、本来の用途とは異なる消費者の誤使用によるものなのか、製造業者以外の修理や設置工事のミス、もしくはほかの事業者による改造が要因なのか、事故原因を明らかにします。経年劣化の可能性も考えられるため、よく確認しておきましょう。
自社の直接的なミスや製品の欠陥が事故の原因ではなかったとしても、リコールを行い、再発防止措置を講じなければいけないケースもあります。
製品の誤使用に対する防止措置や警告表示は十分だったか検討し、すべてを消費者やほかの事業者のみの責任とせず、自社がするべき製品の安全提供を再確認しましょう。
製品に関する事故が発生したら、事故が発生した日時や場所、被害の発生状況や程度、被害者の氏名や連絡先、製品の識別情報などを確認します。
集まった情報を精査し、リコールが必要だと判断した後は、被害の拡大を防ぐためにも、対策本部を設置して迅速に動く必要があります。
まずは、リコールの具体的な内容を決めたプランを策定します。
リコールの目的をはじめ、周知や製品の回収方法、リコールの対象数や実施期間、被害者への対応や相談窓口、原因究明や再発防止対策など、策定したプランに沿い、対策本部が中心となってリコールを実施していきましょう。
また、対策本部ではリコール対応と同時に、対象製品の「トレーサビリティ」も実施していきます。
トレーサビリティとは、その製品の生産から販売までの過程を追跡可能な状態にすることです。
製品を特定したうえで、出荷先や販売ルート、販売数量などを整理し把握しておくことで、原因の究明にも役立ちます。
トレーサビリティによって判明した内容を事業の関連法に基づき、所管官庁に報告する必要もあります。
2023年に経済産業省がリリースした『製品安全行政を巡る動向』によると、2022年に開始されたリコールは全体で98件、そのうち『重大製品事故』がきっかけだったものは24件でした。
何より大切なのは、リコールが必要な事態にならないように努めることです。
しかし、どんなに安全に気を配っていても、製造や流通、販売などの過程において、製品の不具合や欠陥を完全に防ぐことはできません。
万が一に備え専門家とも相談しながら、リコールの対応策を含めた事前準備をしておくことをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
ネット販売市場の世界的な拡大によって、日本でも海外のマーケットに意欲的な企業が増加しています。
国内での需要の減少や市場の縮小なども相まって、海外に活路を見出す中小企業も増えており、今後もその傾向は続いていくと見られています。
また、インバウンドの回復によって世界中から日本の商品やサービスに熱視線が注がれるなか、海外向けのプロモーションに力を入れる企業も出てきました。
しかし、日本と海外では広告の手法や捉え方に大きな違いがあり、それぞれの国の法律や規制に準拠する必要があります。
海外に自社商品やサービスを売り込むのであれば、その国に合わせた広告展開を行わなければいけません。
たとえば、トヨタや任天堂といった世界的な活躍を見せる日本企業は、同じ商品をアピールする場合にも、日本国内と海外とではまったく異なる広告を制作しています。
日本向けの広告を翻訳しただけの広告では、ターゲットとしているその国のユーザーに共感されにくい可能性があります。
自社の商品やサービスを別の国や地域でも受け入れられるように最適化することを「ローカライズ(地域化)」といいます。
現地に受け入れられるよう、広告も同様にローカライズが必要なのです。
広告のローカライズを行うには、その国でどのような広告が反響を得られるか、好まれる広告の特徴を知ることが大切です。
国によって広告の特徴はさまざまあり、特に日本とアメリカにおいて顕著なのが、「比較広告」の存在です。
ライバル社の商品やサービスと比較して、自社の優位性をアピールする比較広告は、コカ・コーラ(コカ・コーラ社)対ペプシコーラ(ペプシコ社)、Mac(アップル社)対Windows(マイクロソフト社)などに代表されるように、アメリカで多く見られる宣伝手法です。
日本でも、事実を表現しており誤認を招くものでなければ、比較広告は受け入れられています。
しかし、広告で主張している内容が、客観的な事実であり数値が正確、かつ比較の方法が公正であるといった要件を満たしていないと消費者庁から「不当表示」と見なされ、広告や販売行為の差し止め、課徴金の納付などが命じられることもあります。
また、比較広告も市場競争の一環として捉えられているアメリカとは異なり、センセーショナルな内容の広告になじみがないこともあって、日本ではあまり好まれません。
その事例として最近話題となったのが、大手ホテルチェーンのヒルトン・ホテルズ&リゾーツ(以下「ヒルトン」)が2023年11月に公開した日本向けのWeb動画です。
複数ある作品のうちの一つが、日本の旅館のサービスを揶揄している内容であるとして物議を醸しました。
ホテルの競合となる旅館のウィークポイントをあげつらうような内容(主に、旅館は融通が利かない、といったもの)は、SNSを中心に多くの批判を集めました。
その結果、ヒルトン側は謝罪コメントを発表し、問題となった動画を非公開にしました。
ヒルトンのWeb動画は、国民性に合わないメッセージがどのような反響につながるのか体現した事例といえます。
ちなみに、ヨーロッパ諸国も日本と同様、比較広告にあまり寛容ではありません。
もし、この動画がアメリカ国内に向けての広告展開であれば、ここまでネガティブな反応は起きなかったでしょう。
このように国ごとの消費者心理を理解しておくことが重要であり、自社商品の優位性を示す際に各国の文化や歴史、背景、関連する法律や規制に配慮する必要があるということです。
日本と海外とではテレビCMの方向性も異なります。
日本のテレビCMの多くは1本15秒または30秒で、タレントなどの著名人が端的に商品やサービスの魅力を伝えます。
誰もが知る話題の著名人をテレビCMに起用することで、商品イメージの向上や、短い時間でも視聴者の注意を引くことができるというメリットがあります。
一方で、CMの出演者の不祥事によっては、大きなダメージを負ってしまうというリスクもあります。
そのような日本のテレビCMに対し、アメリカやヨーロッパでは、30~60秒ほどの比較的長い時間を割いて、物語性やアイデアで商品をアピールする手法が一般的です。
もちろん、タレントなどの著名人を起用して商品をアピールするテレビCMもありますが、どちらかといえば、商品の特長を強調することに力を注ぐCMが多い印象です。
これは、人種や民族が多様な欧米諸国では、特定の著名人を商品と紐付けてイメージを固定させるよりも、物語性やアイデアでその商品の持つ魅力を伝えるほうが、より視聴者に受け入れられやすいと捉えられるからです。
海外のテレビCMなどは企業がWeb上で配信しているケースもあり、有名なものであれば日本国内からでも簡単に視聴することが可能です。
もし、自社が海外進出を考えているのであれば、事前にターゲットとなる国のCM動画を参考にして傾向をつかみ、商品の広告展開に役立ててはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
2022年3月、都内の保険代理店に勤めていた男性が精神疾患を発症した原因は、職場で同意なく上司に個人の性的指向を暴露されたアウティングにあるとして、労働基準監督署は労災を認定しました。
アウティング被害による労災認定は、全国でも初のことです。
個人の性自認や性的指向は、本人の意思で選択したり、矯正したりできるものではなく、その人の尊厳に大きく関わるものです。
特に、性的少数者であるLGBTQ(※)への理解が完全に浸透したとはいえない日本の社会のなかで、性的マイノリティの性自認や性的指向は、非常にセンシティブな個人情報になります。
したがって、本人の同意なく、第三者がその人の性自認や性的指向を暴露してはいけません。
※LGBTQ(エルジービーティーキュー)…Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性別が異なる人)、Queer/Questioning(クイア/クエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称のひとつ
2019年5月に成立した改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、職場におけるハラスメントを禁止。
2020年6月からは大企業、2022年4月からは中小企業でもパワハラ対策が義務付けられました。
この法律に関連した『令和2年厚生労働省告示第5号』では、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」が、ハラスメント行為として記載されています。
また、アウティングをはじめ、性的指向や性自認に関連した差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力、嫌がらせなどのことを、性的指向の「SO(Sexual Orientation)」と、性自認の「GI(Gender Identity)」の頭文字をとり、SOGI(ソジ)ハラスメントと呼びます。
SOGIハラもパワハラ防止法の対象となり、事業者はパワハラやセクハラなどと同様に、SOGIハラを防ぐための措置を講じる必要があります。
本人の意図していないところで、性自認や性的指向が第三者に知られてしまうと、当事者が安心して働けなくなってしまい、場合によっては就労の継続がむずかしくなる可能性もあります。
こうした事態を防ぐためにも、事業者はアウティングが起きないような環境や体制を整えていかなければいけません。
パワハラ防止法では、ハラスメント対策のための相談窓口の設置、窓口があることの従業員への周知、相談窓口の担当者が適切に対応できるようにするための研修実施といった措置が事業者の義務とされています。
しかし、アウティングやLGBTQなどに関する相談については、対応が不十分なケースが多々見受けられます。
相談窓口を担当する人事担当や役員は、SOGIハラ、アウティングについての知識を深めると同時に、これらについての相談も受け付けていることを、従業員に対して周知していく必要があります。
また、ハラスメント研修などで、他人の性自認や性的指向の暴露がハラスメントに該当する行為であることを学んでもらい、就業規則にもアウティングがハラスメントである旨を記載しておくことが重要です。
これらの対策を怠った結果、職場でアウティングが起きてしまうと、事業者は職場環境配慮義務に違反したとして、アウティング被害を受けた従業員に対して直接的に、損害賠償責任を負う可能性もあります。
もし、対策をしていてもアウティングが起きてしまった場合は、迅速な対処が求められます。
まずは被害者へ聞き取りを行い、アウティングがいつ起きたのか状況や内容、当事者が誰か、心身に不調はないかなどを確認しましょう。
続いて、加害者にもヒアリングし、被害者から聞いた内容とすり合わせます。
もし双方で認識の違いがある、または客観的な事実が把握しづらいような場合は、アウティングを見聞きしていた別の従業員に対しても聞き取り調査を行い、事実関係を明確にしておきます。
また、これらの調査そのものが被害者の性自認や性的指向を広めることにならないように、調査対象者に念書を書かせるなど、聞き取り内容を漏らさないための対応が必要です。
実際にアウティングが起きていたことを把握したら、被害者の希望に応じて、配置転換や謝罪の場を設けるなどの対応を検討します。
再発しないよう、加害者への十分な注意指導も忘れてはいけません。
重要なのは、事業者がアウティングの加害者を正式に処分したという事実です。
懲戒処分など必要以上に重い処分は被害者と加害者の間でトラブルになりかねないので注意しましょう。
自分の性自認や性的指向を他人に伝えることを「カミングアウト」といいます。
もし、性的マイノリティの当事者からカミングアウトを受けた場合は、よく話を聞き、誰にどこまで伝えていいのか、確認しておくとよいでしょう。
人事担当者や役員であれば、カミングアウトを受けなくても、職務上、個人の性自認や性的指向を知ってしまうケースもあります。
性自認や性的指向はプライバシーに関わる重要な個人情報であることを認識し、厳重に扱うことが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
両親などの介護を理由に、退職を申し出る従業員がいます。慢性的な人手不足のため、優秀な従業員が介護を理由に離職してしまうのは、企業としても相当な痛手をこうむります。介護離職は従業員のプライベートな事情による課題であり、会社としても従業員の処遇改善を試みたいと思っています。何か活用できる助成金などはありませんか?
そのような場合は、『両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)』が活用できます。
本助成金は、企業が従業員の介護離職を予防するために、さまざまな制度を作るなどの取り組みを行なった中小企業事業主に対して国から支援される助成金です。
本コースは該当労働者と面談して「介護支援プラン」を策定のうえ、プランに基づき労働者の円滑な介護休業の取得・復帰に取り組んだ場合(A:介護休業)、就業と介護の両立に資する制度を導入し利用者が生じた場合等(B:介護両立支援制度)の二つに大きく分かれます。
A、Bいずれも1事業主1年度5人までが支給の上限で、中小企業事業主のみが対象です。
本助成金の手続きの大まかな流れは以下の通りです。
A:介護休業
(1)従業員との面談、介護支援プラン作成
(2)プランに基づく業務の整理、引継ぎ
(3)介護休業取得(所定労働日 合計5日以上)
(4)休業取得時に支給申請
(5)職場復帰時、継続雇用3カ月後に支給申請※
※休業取得時と同一の対象介護休業取得者であり、休業取得時の助成金を受給しているなどの要件を満たす必要があります。
B:介護両立支援制度
(1)従業員との面談、介護支援プラン作成
(2)プランに基づく業務体制の検討
(3)介護両立支援制度の利用
対象の介護両立支援制度は下記の通りです。
・所定外労働の制限制度
・時差出勤制度
・深夜業の制限制度
・短時間勤務制度
・介護のための在宅勤務制度
・(法を上回る)介護休暇制度
・介護のためのフレックスタイム制度
・介護サービス費用補助制度
(4)継続雇用1カ月後に支給申請
【支給額】
A.介護休業:
休業取得時30万円/職場復帰時各30万円
※業務代替支援加算あり
B.介護両立支援制度:30万円
【主な要件】
A.介護休業
<休業取得時>
●介護支援プランにより労働者の介護休業等取得・職場復帰を支援するという方針を周知していること
●対象労働者の休業開始前に、介護休業制度および所定労働時間の短縮等の措置を労働協約または就業規則に定めていること
●合計5日以上の介護休業を取得したこと
<職場復帰時>
●対象労働者を介護休業の開始日から支給申請日までの間、雇用保険被保険者として継続雇用、職場復帰時は職場復帰した日から支給申請日まで、雇用保険被保険者として3カ月以上継続していること
●職場復帰後、原則として、休業前に就いていた職務(原職等)に復帰させること など
B:介護両立支援制度
●介護両立支援制度を利用したこと
●対象労働者を支給申請日までの間、雇用保険被保険者として1カ月以上継続して雇用していること
※申請期限は、A:『休業取得時』は対象となる介護休業取得日数が合計5日(所定労働日に対する休業日数)を経過する日の翌日から2カ月以内。介護休業の終了を待たずに申請期限が終了する場合あり。『職場復帰時』は介護休業終了日の翌日から起算して3カ月経過する日の翌日から2カ月以内。B:対象労働者による介護両立支援制度の利用実績が合計20日を経過する日の翌日を起算日とし、起算日から1カ月間が経過する日の翌日から2カ月以内(利用した視線制度の内容によって申請期限が異なります)。
【個別周知・環境整備加算について】(AまたはBに加算)
対象労働者への介護休業および介護両立支援制度に関する個別周知の取り組み、仕事と介護を両立しやすい雇用環境整備の取り組みの両方を行なった場合に『個別周知・環境整備加算』が支給されます。
なお、このほかにも細かい支給要件があります。
助成金について関心がある、もしくは活用を検討している企業は、厚生労働省のホームページに詳細が記載されていますのでご確認ください。
また、併せて専門家へのお問い合わせもおすすめします。
出典:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/001160257.pdf
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
CISGは条約であるため、条約を結んだ国にのみ適用されます。
日本も2008年7月に加入書を提出し、2009年8月1日からCISGの効力の下にあります。
CISGを締結した国同士の場合も当然、適用されます。
そのため、たとえば日本と米国のそれぞれの企業が物品売買契約を締結する場合、適用排除しない限り、CISGが適用されます。
また、CISGが適用される国の準拠法で契約をする場合も、適用排除しない限りCISGが締結されます。
つまり日本はCISGを結んでいるため、仮に条約を締結していない国の企業と日本法を準拠法として物品売買契約を締結する場合には、適用を排除しない限りCISGが適用されるということです。
では、CISGが適用されるとどうなるのでしょうか。
たとえば、企業Aが企業Bの販売する物を100万円で買いたいと注文をし、企業Bが120万円で売りたいといった場合、日本法によれば、企業Aが返事を忘れていると契約が成立しません。
しかし、CISGによると、企業Aが返事を忘れていてすぐに120万円では購入不可能と伝えなかった場合、120万円での売買契約が成立してしまいます。
これが何を意味するのかというと、最後に発送した人が勝つ(返事をしないままにしている企業が負ける)ということです。
この1点だけでも、日本法が適用されている場合と比べて、留意すべき点が違うことに気づくでしょう。
また、CISGに関する判例や学説は外国のものがほとんどであるため、調査にも手間がかかります。
そこで、海外企業との取引における日本企業の基本的な立場としては、契約の際に日本法を準拠法としつつ、CISGの適用を排除しておくのが無難だといえるでしょう。
ここで、英文契約における日本法を準拠法とする文例と、CISGの適用排除例およびその和訳を紹介します。
【This Agreement shall be governed as to all matters, including validity,
construction and performance, by and under the laws of Japan.
The parties agree to exclude the application of the United Nations Convention on Contracts for the International Sales of Goods (1980).】
「本契約は、有効性、解釈および履行を含むすべての事項について、日本法に準拠するものとする。当事者は、国際物品売買契約に関する国際連合条約(1980年)の適用を排除することに合意する」
CISGの存在意義は、相手方外国企業が日本法を準拠法とすることに同意しない場合で、かつ、相手方外国企業の国の法が整備されていないときなどに、中立的な準拠法としてCISGを適用することにより、(日本法とは違うものの)一定の規律をもって契約できる点にあります。
知らないうちに不利な条件で売買契約が成立してしまったなどということにならないよう、なるべく日本法を準拠法として、CISGの適用を排除しておくのが無難だといえます。
このようなことは、知っていなければそもそも対応ができません。
これを機に、ある程度の認識として持っておくとよいでしょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
会社分割とは、会社の事業(より正確にいえば、事業に関して有する権利義務)の全部または一部をほかの会社に承継させるM&A手法です。
会社分割には、新設分割と吸収分割の2種類があります。
新設分割とは、分割して切り離す事業を、新たに設立した会社に承継させることをいいます。
一方、吸収分割は、分割して切り離す事業を、既存の別会社に承継させることをいいます。
いずれの場合も、事業を承継する会社にとって分割対価を支払う先が、分割側の会社自体の場合(物的分割)と分割側の会社の株主である場合(人的分割)とで、さらに細かく分類することができます。
そのほかには、複数の会社から事業を切り離し、一つの会社に承継させる共同分割もあります。
では、会社分割は、ほかのM&Aとどのような違いがあるのでしょうか。
M&Aの代表的な手法として、よく耳にするのが合併です。
合併は、会社の事業のすべてが事業を承継する側の会社(存続会社)に引き継がれ、事業を渡した側の会社は消滅するため、会社分割と異なります。
また、合併のほかに、会社分割とよく比較されるのが事業譲渡です。
会社分割が、切り離す事業に関する権利義務のすべてを包括的に承継するものであるのに対し、事業譲渡は個々の権利義務を個別に譲渡します。
そのため、たとえば許認可の取得が必要な事業の場合、会社分割では、分割を受けた承継会社が改めて当該許認可の申請をしなくてもよい場合があります。
一方、事業譲渡では、改めて譲受会社の側で許認可を取得する必要があります。
それでは次に、会社分割の際の具体的な注意点について説明します。
会社分割については、原則として分割側の会社と承継側の会社の双方において株主総会の特別決議が必要です。
また、債権者保護手続として、効力発生日の1カ月前までに、債権者に対して会社分割に異議を述べることができる旨を官報で公告し、かつ知れている債権者への各別の催告が必要です。
加えて、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間は、反対株主から株式の買取請求権が行使される可能性があります。
会社分割に際しては、承継する事業(事業に関して有する権利義務)の内容について、きちんと事前調査し、承継することのリスクを見極めることが必要です。
会社分割の場合、事業譲渡と異なり承継する事業に関して有する権利義務を包括的に承継することになるため、特に負債としてどのようなものを抱えているのかを、デューデリジェンス(企業の経営状況や財務状況などの調査)において明らかにしておく必要があります。
また、会社が取引相手と締結している契約には、会社分割によって会社の支配権に変更があった場合に契約相手が契約を解除することができるという規定(チェンジオブコントロール条項)が入っている場合があります。
特に、当該事業にとって必要不可欠といえるような重要な契約にこのような規定があると、分割を受けた後の事業継続に支障を生じる可能性があります。
承継する事業が抱える負債や契約内容に隠れたリスクには、十分に注意しましょう。
そして大切なのが、労働契約についての手続きです。
会社分割に伴う労働契約の承継については、労働契約承継法(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)において、労働者に対する通知等の手続が定められています。
この点も忘れずに手続を行うことが必要になります。
会社分割で必要な手続きは、「新設分割」「吸収分割」のそれぞれで異なります。
会社分割を検討する際は、それぞれのコストやメリット・デメリットを洗い出し、専門家に相談しながら進めていくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
法定休暇には、年次有給休暇、産前産後休業、生理休暇、育児休業、介護休業、子の看護休暇などの種類があります。
事業者は従業員に対して、これらの休暇(休業)を付与する義務があり、休暇の取得に必要な要件を満たしているにもかかわらず、休暇を与えなかった場合は法令違反となります。
年次有給休暇は、雇用した日から6カ月間継続して勤務し、所定労働日の8割以上出勤した従業員に付与する休暇のことで、付与する休暇の日数は勤続期間に応じて増えていきます。
勤続期間が6カ月の場合、年次有給休暇の付与日数は年10日です。
その後、1年6カ月で年11日、2年6カ月で年12日といった具合に増えていき、勤続期間が6年6カ月の従業員には、年20日の年次有給休暇を付与します。
また、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど、週の所定労働時間が30時間未満で、週の所定労働日が4日以下(週以外の期間によって所定労働日を定める労働者は、年間の所定労働日数が216日以下)の従業員に対しても、規定に沿った労働日数の年次有給休暇を与えなければいけません。
年次有給休暇のほかに労働基準法では、第65条に産前産後休業、第68条に生理休暇も法定休暇と定めています。
産前産後休業と生理休暇はどちらも女性従業員を対象とした休業です。
産前休業は、当事者である女性従業員から請求があった場合、出産予定日をベースに、産前6週間(多胎妊娠は14週間)の休業を付与します。
産後休業は女性従業員からの請求がなくても、原則産後8週間の休業を付与する必要があります。
生理休暇は、生理に伴う体調不良などによって、就業が著しく困難な女性従業員に付与する休暇のことです。
原則として、女性従業員からの求めがあった場合には、就業が著しく困難である証明がなくても、休暇を付与する必要があります。
日数に関しては、生理による苦痛や就業できる程度は個人差があるため、企業側で決めることはできません。
育児休業、介護休業、子の看護休暇は、『育児・介護休業法』によって定められた法定休暇です。
育児休業は、原則として1歳未満の子どもを養育するための休業で、男女ともに求めに応じ、分割で取得させることが可能です。
介護休業は、要介護状態(負傷・疾病または身体上や精神上の障害により、2週間以上の期間に渡り常時介護が必要な状態)の家族がいる従業員を対象とした休業で、対象家族が一人の場合は年5日、二人の場合は年10日まで取得させなければいけません。
子の看護休暇は、小学校就学前の子どもを看護するための休暇で、従業員の求めに応じて、年5日(二人以上は年10日)まで取得させる必要があります。
法律で定められている法定休暇に対し、特別休暇はその企業が独自に定めるものなので、取得の要件や日数などの制限はありません。
一般的な特別休暇は、慶弔休暇、病気休暇、夏季休暇、冬季休暇などがあり、厚生労働省が公表した『令和4年就労条件総合調査の概況』によると、何かしらの特別休暇を設けている企業の割合は58.9%でした。
慶弔休暇は、従業員本人の結婚や、親族の忌引きの際に付与する休暇で、取得日数は通常1日~5日ほどに設定されています。
病気休暇は、病気になった従業員の通院や入院のための休暇で、休暇中は無給とするのが一般的です。
夏季休暇や冬季休暇は、多くの企業が採用している特別休暇で、夏季はお盆の8月中旬に付与するケースが多く、日数は3~5日ほどになります。
冬季は年末年始の前後に付与することがほとんどで、土日祝日と組み合わせることで、5日~9日ほどの休暇を実現している企業もあります。
このほかにも、特別休暇には、誕生日休暇やリフレッシュ休暇、ボランティア休暇などの種類があります。
特別休暇の付与は義務ではなく、日数や有給・無給も事業主が自由に決めることができます。
福利厚生として導入すれば、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
ただし、取得の要件や対象者の範囲などがあいまいだと労使トラブルに発展する可能性もあるため、取得のルールや申請手続きを明確にしたうえで、就業規則に記載し、全従業員に周知することが重要です。
まずは、法定休暇の種類や要件についてしっかり把握し、適切に従業員に取得してもらえるように企業として注意しておきましょう。
そのうえで、特別休暇を設けるのであれば、どのような休暇が自社の福利厚生として適しているのか、制度の設計と共に考えてみましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
東京商工リサーチが2023年10月に発表した『全国企業倒産状況』によると、2023年上半期(4ー9月)の企業倒産は4,324件と、前年の同期から約37%増となりました。
倒産件数が増加した理由の一つに、新型コロナウイルス対策として、中小企業向けに行われた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格化したことがあげられます。
ゼロゼロ融資は、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関のほかに、民間の金融機関も行なっていた施策でした。
企業の支払いは「手形の支払い」「従業員の給与」「原価(材料費・外注費等)」「諸経費」「税金や社会保険料」、そして、ゼロゼロ融資などを含む「銀行への返済」の6つに大別することができます。
もし、資金繰りが悪化して追加借入ができない段階であれば、これらの支払いの優先順位について、よく考えなければいけません。
多くの企業は運転資金として銀行から借入を行なっています。
借入金の返済が滞ると新しく借入ができなくなってしまうことから、資金繰りが悪化した際に、銀行への返済を優先してしまう経営者が少なからずいます。
しかし、新たな借入ができなくても、すぐに会社が倒産するわけではないのです。
実は、銀行への返済は必ずしも最優先しなければいけないわけではありません。
なぜなら、交渉によって、元金の返済を止めたり毎月の返済額を減額してもらったりすることが可能だからです。
こうした返済のためのスケジュール調整のことを、「リスケ(リスケジュール)」といいます。
リスケはビジネス用語で「スケジュールの見直し」を意味しますが、金融用語では「返済計画の見直し」や「条件の変更」を指します。
リスケの交渉を行えば、銀行からの信用は下がるかもしれません。
しかし、ある程度の返済の猶予はできます。
半年から1年程度、利息分の返済のみ(元金返済なし)というかたちで対応してもらえるのが一般的です。
しばらくは借入ができないかもしれませんが、その間に業績を回復することができれば、再び融資を受けることも可能です。
実際に、ゼロゼロ融資においても、すでにリスケを行なっている企業は存在します。
では、会社の資金繰りが悪化したら、どのような順番で考えていくのがよいでしょうか。
具体的には、まず銀行と相談のうえリスケをして、返済を待ってもらいます。
そして、後回しにした銀行の返済分を、ほかの支払いにあてます。
キャッシュフローに苦しんでいる企業は、「手形の支払い」「従業員の給与」「原価(材料費・外注費等)」「諸経費」「税金や社会保険料」の順番で支払いをしていき、最後に銀行への返済を行いましょう。
まず、手形はどの支払いよりも優先させなければいけません。
振り出した手形は、支払期日までに当座預金に入金し、受取人が引き出せるようにしておく必要があるからです。
受取人が決済できないことを「不渡り」と呼び、法律上は1回目の不渡りから6カ月以内に2回目の不渡りを出すと銀行取引停止処分となり、事実上の倒産となります。
一日でも支払期日を過ぎると不渡りとなるため、会社を潰さないためには、手形の支払いがどの支払いよりも優先されます。
次に優先されるのは、従業員の給与です。
給与の支払いが遅れると労働基準法違反になり、30万円以下の罰金刑または6カ月以下の懲役刑が科される可能性があります。
そればかりか、従業員のモチベーションの低下や、大量の離職を引き起こすかもしれません。
交渉によって多少は待ってもらえる可能性がありますが、用意ができ次第、迅速に支払うようにしましょう。
原価(材料費・外注費等)は仕入先となる取引企業に支払う費用で、相談すれば多少は支払いを待ってくれる可能性があります。
ただし、あまりに滞るようだと今後の仕入れに影響するため、この支払いも速やかに行う必要があります。
事務所の家賃も交渉次第ですが、水道光熱費などの諸経費は、状況によって1~3カ月ほどは待ってもらうことが可能です。
電気やガス、水道などの公共料金はすぐに止められるものではないので、余裕ができ次第、払うようにしましょう。
税金と社会保険料は、税務署や年金事務所、市町村などに相談することで、分割払いにしてもらうことも可能です。
その際、行なってはならないのが、催促を無視することです。
無視し続けると、差し押さえが行われる可能性もあるので注意しましょう。
最後に、リスケを行なった銀行へ元本を返済します。
一般的に、元本の返済を止めても金利は支払い続けることになります。金利の支払い方も含めて、銀行とよく相談することが大切です。
優先順位に従って支払いを行うことで時間の猶予ができ、業績回復のチャンスも生まれます。
資金繰りが悪化したときこそ、支払いの優先順位を意識しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
1年を通して起きる食中毒のおよそ半数はノロウイルスによるものといわれ、厚生労働省の『食中毒統計(2018年~2022年の平均)』でも、原因別の食中毒患者数の1位はノロウイルスとなっています。
また、同資料によるとノロウイルスが原因の食中毒の53%は11月~翌年2月にかけて発生しており、飲食店では特に冬場のノロウイルス対策に力を入れる必要があることがわかります。
ノロウイルスは手指や食品などを介した経口感染がほとんどで、感染するとウイルスが腸管で増殖し、24~48時間の潜伏期間を経て、おう吐、下痢、腹痛、微熱などの症状を引き起こします。
飲食店では主に、ウイルスに感染しているお客や従業員が利用したトイレを介して感染が広がるケースと、感染している従業員が調理した食品を介して感染が広がるケースが考えられます。
それぞれのケースでノロウイルスを防ぐには、「消毒」と「処理」と「健康管理」がとても重要です。
ノロウイルスは人によって感染しても症状が出ないことがあるため、その場合、感染者は自分が感染していることを知らずに通常通りの生活を送ってしまいます。
ノロウイルスの感染を防ぐには、感染の有無とは関係なく、日頃からお客や従業員が使用するトイレや洗面所の清掃を徹底的に行う必要があります。
清掃の際は、使い捨てのマスクや手袋、エプロンを着用し、ノロウイルスに有効な塩素消毒液を使用しましょう。
塩素消毒液は次亜塩素酸ナトリウムを水で薄めて作ることもできるほか、次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用の塩素系漂白剤でも代用することができます。
これらの塩素消毒液はトイレ以外に、衣類、ドアノブ、食器、調理器具、店内の家具などの消毒にも有効です。
ただし、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性があるため、金属部の消毒後は特によく拭き取るようにしてください。
また、アルコール類を提供する飲食店では、お客のおう吐物を処理することもあります。
その際は、お客がノロウイルスに感染している可能性もあるため、すみやかに処理をしなければいけません。
処理をする際は前述同様、使い捨てのマスクや手袋、エプロンを身に着けて、市販の凝固剤で固め、ペーパータオルなどで拭き取り、塩素消毒後に水拭きをします。
ノロウイルスは乾燥すると空中に漂い、人の口に入る可能性があるので、十分に注意しながら迅速に処理することが大切です。
拭き取ったおう吐物や使った手袋などはビニール袋に入れて密閉し、塩素消毒液に浸して破棄します。
すべての処理が終わったら、石けんと流水でよく手を洗いましょう。
飲食店でのノロウイルスの感染経路のなかでも、特に注意したいのが、食品を調理する従業員が感染を広げてしまうケースです。
ノロウイルスに感染している従業員が調理した食品や触れた食器などを介して、お客が感染してしまうことがあります。
従業員に下痢やおう吐、風邪のような症状がある場合は、食品を直接取り扱う作業には従事させず、場合によっては出勤を控えてもらうといった判断も必要になります。
石けんと流水による手洗いの徹底や、食器や調理器具の消毒、食材の適切な調理などはもちろんですが、経営者は従業員の健康管理にも気を配ることが大切です。
従業員には出勤時などに自身の体調について報告してもらい、常に健康状態を把握しておくようにしましょう。
従業員に感染の疑いがある場合は、すみやかに医療機関で受診するように促し、感染の有無を確認することも重要です。
ノロウイルスに効果がある抗ウイルス剤や特効薬は存在せず、対症療法が一般的で、症状が改善するまでは安静にするしかありません。
ノロウイルスの感染者は、1週間~1カ月程度はウイルスの排泄が続くこともあるため、症状が改善した後も、しばらくは食品を直接取り扱う作業に従事させないようにしてください。
感染した従業員が調理した食品を介して感染が広がるケースや、トイレを介して感染が広がるケースのほかにも、感染者の会話や咳、くしゃみなどによる飛沫感染や、汚染された井戸水、汚染された二枚貝などが要因となることもあります。
飲食店は厚生労働省のサイトやリーフレットなどを参考にしながら、ノロウイルスの感染者を出さないように、対策を講じることが何よりも重要です。
もし、自店のお客のなかからノロウイルスの感染者が複数出てしまった場合は、保健所に連絡して指示を仰ぎましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
美容サロンが美容器具や薬剤を調達する場合は、主に「美容メーカー」「問屋」「美容ディーラー」「通販サイト」のいずれかの仕入先から購入するのが一般的です。
美容メーカーとは、美容商品の企画・開発や製造、販売を行う会社のことで、メーカーによっては美容サロンに商品を直接販売する、いわゆる「直販」を行なっているところもあります。
サロンにとっては、メーカーと直接やり取りすると仲介を挟まないため、商品を安く仕入れることができます。
また、メーカーと関係を深めておけば、メーカー主催のセミナーやイベントに招待されたり、商品の取扱サロンとして優遇されたりすることもあります。
ただし、美容商品を取り扱う化粧品製造業は全国に4,000社以上ありますが、直販を行なっているのは極少数のメーカーに限られるうえに、すべての店に門戸を開いているわけではありません。
特別な取引のある美容サロンだけに商品を卸すメーカーも多く、紹介やコネがないと取引が叶わないことも少なくありません。
さらに、仕入先として複数のメーカーと取引する場合には、会社ごとにやり取りの手順が異なるため、非常に時間や手間がかかります。
通常、美容メーカーは美容商材専門の問屋と美容ディーラーに商品を卸すことがほとんどです。自店で使う美容器具や薬剤のうちの一部を美容メーカーから仕入れ、あとはそれ以外の方法で仕入れるなど、バランスを取るとよいでしょう。
美容サロンの仕入先で最も多いのは、美容ディーラーです。
美容ディーラーとは、美容器具や薬剤などを美容サロンに販売する会社、もしくは個人のことを指し、業態として問屋を兼ねている場合も少なくありません。
特定のメーカーの専売ディーラーでなければ、基本的に複数の美容メーカーの商品を取り扱っているため、店にマッチする商品を選びやすいという特徴があります。
また、美容ディーラーは自社で取り扱っているさまざまな商品を売ることが仕事なので、担当者が店舗に足を運んで営業を行います。
そのため、商品の特徴や使い勝手などを直接聞けるのも、購入する商品を選ぶ際には大きなメリットだといえるでしょう。
さらに、美容業界の流行や話題の商品などの情報提供も受けることができます。
店に合わせたおすすめ商品の提案はもちろん、美容ディーラーによっては、店のブランディングから経営アドバイスまで、コンサルタント的な役割を担うケースもあります。
一方、美容サロンのパートナーともいえる美容ディーラーですが、よい担当者とマッチングできなければ、信頼関係を築けずに、有効なサポートを得られないというリスクもあります。
こうしたミスマッチを回避するために、あえて人とかかわらずに済む通販サイトから美容商品を仕入れている美容サロンもあります。
美容商品を取り扱う通販サイトは、美容ディーラーが運営していることも多く、会員費や送料などがかかる場合はあるものの、美容ディーラーを経由した場合とあまり変わらない価格で商品を購入できることが魅力です。
美容系の情報収集に力を入れており、美容ディーラーの助けを必要としないオーナーであれば、通販サイトも仕入先の有力候補になるでしょう。
どの仕入先があっているのかはサロンのメニューや経営状況にもよりますが、どの仕入先を選んだとしても大切なのは、自店にマッチしたクオリティの高い商品を仕入れることです。
美容サロンが購入する美容商品は、一般には流通していない専売品も多く、仕入れたシャンプーやトリートメントが店のウリになることもあります。
特に美容業界は、ヘアスタイルや美容商材など、いかに流行を素早く正しく得るかが重要な世界です。複数の情報を参考にしながら、オーナーが本当によいと思った商品を、信頼の置ける仕入先から購入するようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。