社会保険労務士 吉田事務所

[現場に身近な労働法 Q&A]過労死の認定基準における労働時間の考え方は?

17.06.30 | ビジネス【労働法】

深夜労働を含む長時間労働が続いた従業員が、くも膜下出血で死亡してしまいましたので、会社としてできるだけのことをしなければと考えています。

労災保険の給付を申請することになりますが、いわゆる「過労死」の認定基準における労働時間の考え方はどうなっているのでしょうか?

(結論)
残業80時間から危険水域
「精神的緊張」も考慮要素に

労災法は、労働者の業務上の負傷、疾病、障がいまたは死亡に対して保険給付を行うと定めています(7条)。

とりわけ業務上の疾病に関しては、その発症の時期を特定することが難しく、業務だけでなく労働者個人の素因や基礎疾病と競合して発症することがあるなどの理由から、業務起因性の立証が困難な場合が少なくありません。



そこで、予めそのような疾病の種類を規定しておき、一定の職業に従事する労働者に当該種類の疾病が発症した場合には、一応業務との因果関係を推定し、当該疾病を発生させるに足る作業内容、作業環境条件等が認められるならば、反証のない限り業務上として取り扱うことが労働者保護の見地からも望ましい(労災法コンメンタール)という解釈が示されています。

業務上の疾病の範囲は、労基則35条に基づき、労基則別表1の2に示されています。

くも膜下出血等は同表の8号に挙げられていますが(平22・5・7基発0507第3号)、脳・心臓疾患は、基礎疾患が日常生活上のさまざまな要因と影響し合って発症するものであるため、長時間労働だけを要因とすることは早計です。 

さらに、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(平13・12・12基発1063号)が出されています。
長時間の過重業務による疲労の蓄積が、脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務上の過重負荷として考慮され、その具体的な目安も示されています。 

くも膜下出血等の脳・心臓疾患も、業務の過重を原因とする死亡、いわゆる「過労死」の代表例と言えます。
しかし、脳・心臓疾患は、過重な労働のほか、労働者の素因(体質・遺伝)、基礎疾病、食生活、喫煙・飲酒の習慣、著しい心身の緊張・興奮など、さまざまな原因が相まって発症するとされています。

認定基準においても、発生直前の「異常な出来事」や短期間の過重業務に加えて、長期間の過重業務(とりわけ長時間労働)による疲労の蓄積も脳・心臓疾患の発症原因として考慮されます。

具体的には、

①発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
②発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重(時間・質)な業務に就労したこと
③発症前の長期間(発症前おおむね6カ月間)にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす過重(時間・質)な業務に就労したこと

などです。 

業務の過重性の具体的評価に当たって、労働時間の長さは、業務量を示す重要な指標と言えます。
上記③長期間の疲労の蓄積については、労働時間が長いほど、業務の過重性が増すとしています。

業務と発症との間の関連性が強いと評価できるものとして示されている、判断基準の目安は以下のとおりです。

イ 発症前1カ月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合
ロ 発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合

これらの基準を満たさないとしても、発症前1カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるにしたがって、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとして注意を促しています。

その他、疲労の蓄積の観点から、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交代制勤務・深夜勤務、作業環境、そして精神的緊張を伴う業務であるかといったことが考慮されます。

なお、違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた場合の「企業の経営トップに対する指導」「企業名の公表」について対策が強化されていることも留意しておきましょう。



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