大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

出光創業家の戦い ~ 公益法人による株主権行使

17.07.01 | 非営利・公益

石油元売りで国内シェア2位の出光興産が、本年6月29日に開いた定時株主総会で、月岡隆社長らの再任議案が話題を呼びました。議案は可決されましたが、33.92%の出光株を保有もしくは支配する創業家側が再任に反対しました。

このような対立は、会社側が、国内シェア4位の昭和シェル石油との合併を計画したものの、創業家側が、「企業文化が違う」と言って反対し、対立しているからです。

創業者は、『海賊とよばれた男』のモデルとなった出光佐三です。出光は、創業者時代からメジャー(国際石油資本)と肩を並べる“民族系”の石油会社としてやってきました。その意気込みが今回の反対に繋がっているのでしょうか。

合併には、臨時株主総会で3分の2以上の賛成が必要ですが、33.92%を創業家が握っている今のままでは、合併承認決議は得ることができません。

しかし、この33.92%の中には、創業家個人保有のほかに、創業家の資産管理会社たる日章興産株式会社(16.95%)、「公益財団法人出光文化福祉財団」(7.75%)、「公益財団法人出光美術館」(5.00%)を加えての割合です。公益法人による株主権行使において、財団への資産提供者が、私的な影響力を行使することに問題は無いのでしょうか。

■公益法人による株主権行使における双方の言い分

会社側は、公益性の高い公益財団法人が議決権を行使することに疑問を呈しています。しかし、創業家側は、「配当が減れば事業目的を果たせなくなるため、議決権の行使は問題ない」と主張しています。

 



■上位11名の株主構成(%)(2017年3月31日現在)

1 日章興産株式会社        16.96 (創業家)

2 公益財団法人出光文化福祉財団   7.75 (創業家)

3 公益財団法人出光美術館      5.00 (創業家)

4 出光興産社員持株会        3.46

5~9 銀行、信託銀行等 合計   14.05

10  出光正和         1.51 (創業家)

11  出光正道(創業家)     1.51 (創業家)

創業家側の株式が33.92%あるとのことですから、上記以外に親族等で1.19%の株を保有しているものと思われます。

 

■公益法人による株主権行使とその可否

この2つの公益財団法人は、創業家から寄付をされた出光興産株などからの配当などを主な資金として運営されています。会社側は、そのような財団による株主権の行使が、財産支出者側の個人の思惑だけで行使されている点を問題視しています。

 

また、株主の中に、「財団法人」という存在があって、そこが、どのような議決権行動をするかが見えないと、他の投資家からは判断がしにくいことなども指摘がされています。また、会社が自社株を財団法人に移して、その株主権行使の方向を経営陣が握って、財団の名で安定株主つくることになれば、ガバナンス上での弊害が出る可能性もあります。

 

■公益認定法からの問題点の有無

公益法人については,「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」5条15号に保有株式に関連した基準が明記されています。

 

第5条  行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。

十五  他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の内閣府令で定める財産を保有していないものであること。ただし、当該財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合として政令で定める場合は、この限りでない。

 

このため、「他の団体の意思決定に関与することができる株式」を持っていては、公益認定がされません。しかし、ここでいう株式は、「過半数の株式を保有すること」と解されています。そうしますと、この2つの公益財団法人は、いずれも7.75%、5%のみであるので、これには該当せず、公益認定に影響はありません。したがって、創業家が財産を分散して公益財団法人を設立しておけば、合計が過半数を超えていても、それぞれの財団に関して超えていなければ、公益認定に支障が無いことになります。若干、法律の不備と思えなくもありません。

 

■租税特別措置法40条との関係

租税特別措置法では個人資産を公益財団法人に寄付した場合、国税庁長官の承認を得れば所得税などが非課税となっています。ただし、その優遇を受ける条件のひとつに、寄付を受けた財団法人は、

①定款で株式における議決権の行使ができないように制限するか、

②議決権行使に全理事の3分の2以上の賛成が必要と定めること、

のいずれかが求められています。

 

それからすれば、今回の公益財団法人による出光興産株式の議決権行使に関しては、この点で、定款上の制約がどうであるかが問題になってきます。

 

内閣府が出している“公益認定のための「定款」について”によると、以下のような記載がされています。

 

「個人が公益法人に対して財産の寄附をした場合において、一定の要件を満たし国税庁長官の承認を受けたときは、その譲渡所得等に係る所得税は非課税となります(租税特別措置法40条)が、この承認を受けるためには、公益法人の定款において、法人法及び認定法により記載しなければいけない事項のほか、次に掲げる要件を満たしていることが必要となります(租税特別措置法、同法施行令、関係通達等)。」

 

「贈与又は遺贈に係る財産が贈与又は遺贈をした者又はこれらの者の親族が法人税法2 条15号に規定する役員となっている会社の株式又は出資である場合には、その株式又は出資に係る議決権の行使に当たっては、あらかじめ理事会において理事総数(理事現在数)の3 分の2 以上の同意を得ることを必要とすること。

<例1>

第○条 この法人が保有する株式(出資)について、その株式(出資)に係る議決権を行使

する場合には、あらかじめ理事会において理事総数(現在数)の3 分の2 以上の承認を要

する。

<例2>

第○条 この法人は、保有する株式(出資)に係る議決権を行使してはならない。」

 

■定款変更の動き

日経新聞等の報道によるところでは、昨年の株主総会後の2016年7月4日に、公益財団法人出光美術館は、定款を変更し、議決権を制限していた条項を削除したようです。しかし、あわせて理事の3分の2以上の賛成が必要とするようにはしなかったようです。

 

そのためであろうと思いますが(たぶん、内閣府から指摘があったように思います)、その年の9月3日に、出光美術館と出光文化福祉財団の双方ともに、評議会と理事会を開いて、 「評議会では理事の3分の2以上の賛成があれば出光の株主総会で議決権を確実に行使できるよう定款を変更」し、「理事会では合併への反対を決議し、議決権の行使を両法人の代表を務める出光昭介氏(出光興産名誉会長)に一任すること」を決めたようです(日経新聞報道)。

 

■その他の法的抗争と今後

このような中では、会社側が創業家に対し打てる手立ては限られてしまっています。

増資することで、創業家の持ち株比率を薄めるという方法も考えられないではありません。しかし、それをすると、創業家以外の他の株主からも異議が出て、差し止め請求訴訟もされる可能性があります。

 

対等合併をせずに、出光興産がTOB(株式公開買い付け)で昭和シェルを子会社化するという案も取りざたされてはいますが、さすがに昭和シェルは拒否しているようです。

 

他方、創業家側は、会社が英蘭シェルからの昭和シェルの株式取得を進めることへの阻止に動いていて、創業家の出光昭介氏が昭シェル株の0.1%を取得したと報じられています。これによって、出光興産が取得を予定している33.24%と合わせると、関係者の比率が3分の1を超えてしまうため、金融商品取引法の規定で、英蘭シェルからの相対での株式売買はできなくなると言われています。ただし、これについては、昭介氏が昭和シェルの株式を取得した時期が、出光興産と英蘭シェルとの契約締結後だったため、金商法の規定に抵触しない可能性もあると考えて、金融庁などと協議をしているようです。

 

しかし、どのように工作をしても、最終的には、合併を実現するために必要な株主総会での3分の2以上の賛成が無いかぎり、どうしようもありません。創業家を、どのように説得するのかが焦点になっています。

TOPへ