大阪プライム法律事務所

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相続権を奪いたい~非行・虐待による廃除とは

17.12.08 | ニュース六法

オウム真理教による一連の事件で死刑が確定した元教祖、麻原彰晃死刑囚(本名・松本智津夫)の四女が、代理人弁護士と一緒に記者会見して、横浜家庭裁判所に、自分の推定相続人から両親を除外するよう申し立て、10月31日に、裁判所がこれを認める審判をしたことを公表しました。これは、推定相続人の「廃除」という手続きになります。「廃除」という言葉は、あまり聞きおぼえのない方が多いと思いますが、将来、自分が亡くなった際に、法律的に相続する予定の者を、相続人からはずすための手続きを言います。廃除された推定相続人は相続権を失い、相続人となることができません。

よく似た語感のものとして、勘当という言葉があります。ときどき、やんちゃで手に余った息子や娘などを「勘当したいが、どうしたらいいでしょうか?」という相談を受けることがありますが、現在の法制度では、勘当という制度はありません。廃除とはどういうものか、その手続き方法、今回のようなケースをどう見かについて、書いてみました。

■「廃除」とは
たとえば、ある人(Aさん)が、子であるB (推定相続人=遺産を相続する権利を持つ者)から虐待行為を受けることに腹を立て、自分が死んでもBには自分の遺産はやらぬと考えて、家庭裁判所において、Bに対する「推定相続人廃除の審判申立て」をして、裁判所がこれを認めると、BはAが亡くなってもその遺産は相続しないこととなります。つまり、Bの将来の相続権を剥奪する制度です。気を付けるべき点としては、廃除した相続人に子がいる場合には、その子に相続権が移行されることになります(代襲相続と言います)。 

■廃除できる場合とできない場合
Aさんの事例のように、子Bが気にくわないと考えても、いつでも自由に廃除することはできません。Bにおいて民法892条で定める以下の理由がなければ、家庭裁判所に申し立てても認めてもらえません。

①被相続人に対して虐待をした場合
②被相続人に対して重大な侮辱を加えた場合
③その他の著しい非行があった場合

この3番目がどういった行為を指すかですが、よく言われるのは、被相続人の財産を勝手に処分してしまったとか、賭博を繰り返して多額の借金をつくって被相続人に支払わせたりしたとか、浪費、遊興、犯罪行為、暴力団などの反社会集団に加入したり、異性問題でのトラブルを繰り返して困らせてきたとか、殺人や傷害などの重大な犯罪行為をして刑務所に入るなどの行為をしているとかなどがこれらに当たるとされています。

他方で、親の意に沿わない結婚をしたとか、家業を継がなかったとか、親が勧める職業を選ばず反対した職業を選択した等で廃除を求めても認められてはいません。子の婚姻の自由や、職業選択の自由を守るためと思われます。

■遺言書による廃除
被相続人は、遺言書への記載で、特定の推定相続人を廃除することも可能です。この場合、遺言執行者は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。しかしその場合でも、家庭裁判所は、上記の廃除すべき事由があったかどうかを審理して、あったと判断されないと廃除となりません。もし廃除となれば、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生じます。 

■今回の麻原死刑囚の四女のケース
今回のこのケースは、子が親を廃除したという非常に珍しいケースになります。四女にもし自分の子がいれば、四女の相続人はその子になりますが、現時点では子がいないので、親である麻原とその妻(四女の母)が相続人となります。四女は、その親を廃除してほしいと申し立てたということです。 

報道では、決定をした裁判長は、麻原死刑囚が四女に陶器入りのオムレツを食べさせ、母親も平手打ちをするなどの暴力を加えていたとし、母親は養育を信者らに任せて保育園や幼稚園にも通わせず、四女は麻原死刑囚らの子であることを理由に、いじめに遭い、これらの行為に加えて、死刑になる重大な犯罪を行ったことで、大きな不利益を被り、現在もその影響が続いていると認定したようです。その上で、「著しい非行」と「虐待」行為の存在が廃除の決定に至ったものと解されます。

■勘当とは違うのか
勘当という言葉があります。ときどき、息子を勘当したいという相談も受けます。この言葉は日本の昔からの風習で、親が子に対して親子の縁を切ることを指します。しかし、現在はそのような法的な制度はありません。それを伝えて、怒る父親をなだめることもあります。

ただ、その際に、その制度に近い手当を勧めることもあります。

例えば、
(1)分籍届 親子で一緒の戸籍に入っている場合に、戸籍を分ける手続きです。ただし、これによって親子関係はなくなりません。気分の問題です。
(2)遺言証書を作って、遺産をやらないとしておく。ただし、遺留分と言う権利は残ります。遺言書で廃除をすると書いても、上記のように難しい点はあります。
(3)遺留分放棄許可と遺言書のセット
これは、一度、依頼者に勧めて実際にしたことがあります。遺留分とは、相続に際して法律上取得することが保障されている遺産の一定の割合のことをいいます。例えば、父が亡くなって相続人が母と長男、長女の3名だったとします。通常であれば、法定相続分は母が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1です。この場合において、父親が生前にすべての財産を長女だけに渡すという内容の遺言書に書いて亡くなった場合でも、母が4分の1、長男は8分の1の遺留分が認められています。つまり、1年以内に請求することによって、長女に対して遺留分についての返還を求めることができます。
このような遺留分を有する相続人は、相続の開始前(被相続人の生存中)に、家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分を放棄することができます。

私がこれを実際に行ったケースとしては、若いときからぐれていた娘が、成人してからは暴力団と仲良くなって、何度か犯罪に加担したりしたことから、親として多額の被害弁償金を支払ったりするも、なお、暴力団員との付き合いをやめないことから、その娘が再び金をせびりに来た際に、一定のお金を渡す代わりに、遺留分放棄許可を得ることを条件としました。私は、その娘の家裁への許可手続きを代行してあげて、許可が下りたら、その親は、娘に遺産は渡さない旨の遺言書を作成しました。これによって、親が死んでも、その娘には遺産は渡さないとしても、遺留分請求はできないこととなります。 

どうにもならない息子や娘に対して、勘当したい気になるのは、致し方ないことだと思います。勘当は、いわば親子の縁切りですが、現在の法制度では、生まれた際の親子関係は一生涯消えないことになっていることは忘れてはなりません。

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