大阪プライム法律事務所

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仮想通貨~取引所の破綻と被害回復

18.01.28 | ニュース六法

出川哲朗さんが出て派手なCMが流れていた、仮想通貨取引所大手の「コインチェック」が、1月26日に会見して、不正アクセスによって仮想通貨「NEM(ネム)」約580億円相当分が流出したと発表しました。仮想通貨というと、何やらわかりにくい世界ですが、値上がっているなどとして、投機の対象として関心を呼んでいただけに、大騒ぎの様相です。28日未明に、被害を受けた26万人に日本円で返金する方針を発表しましたが、時期や手続きについては検討中としています。

本当に返金が可能なのか、その原資はどうするのかなど疑問点は多く、資産の回復は難しいのではないかとも思われます。ただ、ビットコインの消失を招いたかつてのマウントゴックス社の破産手続きにおいては、全額弁済の可能性も取り沙汰されるという驚きの動きもあります。

■突然の会見
コインチェックの和田晃一良社長は、写真で見るとずいぶんと若いのには、まず驚きました。27歳だそうです。その経緯説明によると、1月26日になってNEMの残高が異常に減っていることに気づいたということで、原因は外部からの不正アクセスであったとしています。社長側は否定をしていますが、セキュリティに不備があったためではないかと言われています。
(右図は、仮想通貨ビットコイン) 

■仮想通貨とは
仮想通貨とは何なのでしょうか。ネットで調べてみても、詳細な説明のものは複雑でかえって分かりにくく、簡単な説明では簡単すぎて分かりません。どちらにせよ、ここでは詳細説明は省かせて頂きますが、金融庁が仮想通貨業界を監督するために仮想通貨取引所に登録制を導入した際に、「資金決済に関する法律」の第2条5として盛り込んだ定義規定では、以下のように定めています。 

この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

■種類
仮想通貨と言われるものは、朝日新聞掲載「キーワード」によれば、なんと1000種類ほどあるそうです。ただ、実際に取引に使えるのはビットコインなど一部にとどまるようで、日本国内では金融庁が登録を認めた交換業者を通じて売買でき、量販店での買い物や電気料金の支払いなど使える場が増えているとしています(2018-01-01 朝日新聞 朝刊 3総合)。最も有名なのが「ビットコイン」ですが、今回のNEMも仮想通貨の一種だそうです。 

■補償について
26日の会見時に盗まれた資産の補償についての質問に対して、取締役からは「検討中」、「このような事態に陥ってしまったことを、深く反省しております」と言うだけで、和田社長は放心したような表情だったと報じられています。
ここを通じていた顧客は、日本人と中国人が圧倒的に多いとのことですが、預けていた顧客の資産は、今回の盗難で消えた可能性があると思われます。仮想通貨ブームと、出川哲朗さんの派手なCMで新たに参入した人が多いのではないかと思います。今後の補償などはどうなるのでしょうか。 

■法的リスク
仮想通貨については、ビットコインのケースが参考になります。
ビットコインでは、かつて、マウントゴックスという取引所の社長が、顧客や会社のビットコインを盗んで逮捕されました。その際に議論がされましたが、仮想通貨は円やドルのように紙幣や硬貨という形では存在していないため窃盗罪が成立しません。もしもハッキングによって盗まれた場合ならば不正アクセス禁止法違反とはなります。

ただ、仮に不正アクセス禁止法違反が成立しても、盗んだ側は簡単に自分の資産にしたり売買したりするのがいとも簡単に出来てしまい、盗んだ相手を特定するのが難しく被害回復は困難な状況です。

しかし、仮想通貨を預け保管していた管理会社には、セキュリティ不足などを根拠に損害賠償が請求できると解されます。ただし、その会社に返済能力がなければ、実際は回収できないというのが現状です。

■裁判例(預けた「モノ」として返還を求められるか)
ビットコインでかつて破綻したマウントゴックス社は、その後破産して、裁判所が選任した破産管財人によって破産手続きが進められています。その中で、ある被害者が破産管財人に対して、「マウントゴックスに預けているビットコインを引き渡せ」という訴訟を起こした件での判決が出されています。
この訴訟では、原告となった方は、自分が預けた仮想通貨ビットコインの「所有権は自分にあり、破産した会社(マウントゴックス社)の財産ではないために、管理する破産管財人は所有者に返還する義務があるというのが主張内容でした。

そこでの争点として、(1)ビットコインは所有権の客体となるか、(2)原告が破産管財人に対しビットコインの取戻権を行使できるかなどがありました。これらが認められるためには、①仮想通貨に「有体性」が認められ、かつ②その人に仮想通貨への「排他的支配性」が認められることが必要となります。

これについて、東京地裁平成27年8月5日判決では、概要以下の解釈を示して、原告の主張を認めず請求を棄却しました。
①仮想通貨に「有体性」が認められるかについては、
ビットコインは、「デジタル通貨」あるいは「暗号学的通貨」であるとされているほか、その仕組みや技術は専らインターネット上のネットワークを利用したものであることからすると、ビットコインには空間の一部を占めるものという有体性がない。
②仮想通貨に「排他的支配性」が認められるかについては、
特定の参加者が作成し、管理するビットコインアドレスにおけるビットコインの有高(残量)は、ブロックチェーン上に記録されている同アドレスと関係するビットコインの全取引を差引計算した結果算出される数量であり、当該ビットコインアドレスに、有高に相当するビットコイン自体を表象する電磁的記録は存在しない。上記のようなビットコインの仕組み等に照らせば、ビットコインを排他的に支配するものとは認められない。

■マウントゴックス社のその後
マウントゴックス社では、破産手続きが進められていますが、以前に、債権者に全額お金が戻ってくる?とも言えそうな驚きのニュースがありました。
その記事によりますと、マウントゴックスについての債権者への配当を「コイン」で行うことが検討されているというものです。その背景に、コインの価値が破綻時から急騰し、債権総額を上回っているという状況があるようです。このために、昨年11月24日に債権者がビットコイン高騰を受け、東京地方裁判所に、破産から民事再生手続きに移すようにとの申し立てをしたと、12月1日に東京商工リサーチが情報を流しています。

その情報によると、ビットコイン価格が急上昇し、同社が保有するビットコインの価値も大幅に高くなり、破産債権に対して100%配当が見通せる状況となっていること、債権者が民事再生法の適用を申し立てたとのことです。破産手続きでは現金での配当しか認められていないが、民事再生手続きではビットコイン債権者に対してビットコインで配当することを再生計画に定めることも可能とされることとなります。今後、調査委員による調査結果を踏まえ、東京地裁が判断していくこととなります。

破産では、大半がよくても数パーセントの配当で、むしろ配当ゼロもかなり多いのが実態です。しかし、破産後に、所有不動産価格が高騰して、配当時に換価額が債権総額を上回ってしまうことは、極めてまれですが生じる場合があります。実は、当事務所がバブル前に破綻した老舗工場の破産管財人をした際に、実際にそのような事態が生じて、100%配当をして報酬を引いてなお残った残余額を、株主に渡したことがありました。同じようなことがマウントゴックスでも起こりかけているという話ですが、現在の状況はどうなっているかは分かりません。

このようなことが、今回のコインチェックでも起こるとは思えませんが、どうなるのでしょうか。

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