宮田総合法務事務所

宮田総合法務事務所

『家族信託』を不動産共有回避策として活用する!

18.03.08 | 暮らし・人生にお役に立つ情報

 不動産オーナーたる老親世代が、子らへの承継を考えるときに、複数の子に同じような財産評価の不動産等をそれぞれ渡せるのであれば、気苦労は少ないでしょうが、上手な遺産分配の妙案も無く、どうしても複数の子に共有で不動産を承継させざるを得ないケースも出てきます。

  今回は、そんな場合にも、将来の不動産共有相続を見越した備えとして『家族信託』が活用できるという具体的な事例を交えたお話です。

【主な資産が収益不動産1つだけのケース 】

甲さん(80歳)は、戸建の自宅とその隣地に建てた大型の賃貸アパート1棟を所有しています。
賃貸アパートからの収入が老後の生活資金であり、預貯金はそれほどありません。
甲さんの推定相続人は、長男A・次男B・長女Cの3名になります。
将来の相続時には、同居する長男が自宅を継ぐことで家族内の合意が取れていますが、資産の大半を占める大型アパートの行く末についてはまだ未定です。
甲さんとしては、なるべく平等な相続を目指し、賃貸アパートの収入は子供3名に分配してあげたいと思っていますが、アパートを共有にすることは長期的に見てABCの3家族が共有持分を細分化して持ち合うことになりかねず、共有者が増えていく中で、関係性も薄くなったいとこ同士などで賃貸物件の管理をしていくことの難しさ(大規模修繕や建替え、売却などには共有者全員の同意が必要)に不安を感じています。


共有相続を回避して管理処分権限を集約

そこで、将来的な不動産の共有(共有相続)を避けつつも、兄弟間で公平感のある資産承継を実現するための方策として、『家族信託』をすることに決めました。
甲さんは、実質的にアパートの管理を担っている長男Aとの間で、信託契約を交わしました。
その内容は、賃貸アパートを信託財産とし、Aを「受託者」(=信託財産の管理をする人)として賃貸管理権限を託します。
「受益者」(=賃料収入を受け取る人)を甲さんとしますので、家賃収入はこれまで通り甲さんの老後の生活資金として使えます

甲さんの死後も信託契約を継続させ、第二受益者をABCの兄弟3名にすることで、引き続き受託者Aが今までと変わりなく管理を継続しつつ(実質的に煩わしい相続手続きを簡素化できます)、家賃収入は兄弟で仲良く分け合うことができます。

つまり、実質的には、兄弟3名でアパートを共有相続したのと同様の効果が出せます。子ABCのうち、BとCは、賃料収入を得ることができますが、アパートの管理に関することは全て受託者たるAに一任するイメージです。


不動産の共有相続に家族信託を導入するメリット

甲さんのケースにおける家族信託の仕組み導入のメリットは次のとおりです。
まず、甲さんの≪老後の財産管理≫を安心なものにできるメリットがあります。
甲さんが認知症や病気・事故等で判断能力を喪失しても、賃貸借契約の新規・更新・解除、修繕・建替え工事の請負契約、売却処分する際の売買契約などの契約当事者は、受託者となったAさんが行いますので、いわゆる“資産凍結リスク”や成年後見制度を利用しなければならない事態も防げます。
もう一つは、甲さん亡き後において、≪円満な資産承継≫が実現できるメリットです。
つまり、甲さんが望む公平感のある相続、子供たちが望む納得感と負担の少ない相続、という継がせる側・継ぐ側双方が望む資産承継を目指せるのです。

このように、「家族信託」仕組みを活用して、財産(甲さんのケースでは主に家賃を受け取る権利=受益権)は複数の相続人でシェアしつつも、管理処分権限の集約化ができますので、不動産の共有相続後の“塩漬けリスク”を回避する方策としても、ご家族間で事前の策を検討することは大きな価値があると言えます。
「家族信託」は、その実務に精通した専門家でないと対応できない難しいコンサルティング業務の一つですので、信頼できる専門家を探すことから始める必要があるでしょう。


≪老親所有の賃貸不動産に家族信託を導入するメリットのまとめ≫ 

財産管理の負担から解放:不動産の賃貸管理は子に任せ、老後を楽しむ
認知症による資産凍結対策:判断能力喪失による賃貸事業の停滞を防げ安心
公平円満な資産承継:賃料収入を複数の相続人でシェアして争族を防ぐ
不動産の塩漬け回避:実質的な共有相続後も管理処分権限の集約化により全員の合意は不要





TOPへ