大阪プライム法律事務所

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女性専用車両は「違憲」?

18.03.10 | ニュース六法

2月16日午前8時40分ごろ、東京メトロ千代田線の国会議事堂前駅で、女性専用車に乗った男性客が、駅員の要請に応じずに居座るトラブルが起きたことが報じられました。この影響で千代田線の運行が最大で約15分遅れたそうです。
当日の朝日新聞記事によれば、同線は午前7時10分から同9時半まで全列車で1両を女性専用車にしていて、駅員に女性客から「専用車に男性がいる」と申告があり、駅員らが乗っていた男性3人に降りるように説得したが応じなかったとのことでした。列車はしばらく停車後、男性を乗せたまま出発し、男性は3駅先の表参道駅で降りたということです。
このようなトラブルが、いま東京で相次いでいるそうで、どうやら女性車両に反対する男性のグループが、計画的か無計画なのか分かりませんが、各地で意図的にトラブルを起こしているようです。彼らの主張は、女性車両は男女差別で憲法に違反し、自分たち男性を排除するのは不法行為だと言っているようです。本当でしょうか。

■鉄道各社の対応
都市圏の鉄道会社の多くが「女性専用車両」を導入しています。大阪でも主な鉄道では導入されています。その理由は、痴漢などの迷惑行為の抑止を図り、女性客などに安心して利用して頂くため、というのが理由となっています。 
ただし、各社のスタンスは、全てが「法的強制力」としてではなく、男性乗客への協力要請という立場で維持しています。 

■「鉄道営業法」との関係
明治33年にできた法律で、鉄道営業法というのがあります。鉄道の職制、運転、運送等に関する法律で、昔ながらのカタカナ漢字交じりの条文ですが、今でも生きています。昨年でしたか、松本伊代さんと早見優さんが線路に立ち入って写真を撮ったとかで、この法律違反で書類送検されたとのニュースが流れました。

その34条に、婦人車両に関する規定があります。
第三十四条 制止ヲ肯セスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス
二 婦人ノ為ニ設ケタル待合室及車室等ニ男子妄ニ立入リタルトキ

 「妄ニ」は、「みだりに」と読みます。また10円以下の科料とありますが、罰金等臨時措置法という法律で、1000円以上1万円未満の科料となっています。カタカナ漢字交じりで読みにくいのですが、「婦人のために設けた待合室や車両に男子がみだりに立ち入ったら科料にします」となります。

このような法律があるのですが、現代の女性専用車両は、この法律でいう「婦人のために設けた車両」には当たらず、あくまでも男性乗客への協力要請で成り立っているとするのが、国交省や鉄道会社の考え方のようです。 

■裁判例
女性専用車両を違法として男性が裁判で争った事件は過去にいくつかあります。東京地裁の事例や、大阪市営の地下鉄での事例などがありますが、東京地裁の判決について、国民生活センターが公表しています。http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/201712_1.html 

その件は、事前に予告したうえで女性専用車両に、女性専用車両に反対するグループのメンバーとともに、4人で乗車した男性が、鉄道会社に対して、女性専用車両は本来誰でも自由に乗車できるものであるにもかかわらず、健常な成人男性の乗車を事実上禁止しており、その行為は憲法に違反し不法行為に該当するなどと主張して、事実上乗車したい列車・車両を利用して目的地まで乗車することができなかったうえに、公衆の面前であたかも犯罪者のように扱われ、その名誉が毀損されるなどの著しい精神的苦痛を被ったとして、鉄道会社に対して、①損害賠償(慰謝料300万円)、②謝罪広告の掲載、③女性専用車両の表示をしないこと、を求めたものでした。 

これに対して東京地方裁判所は、鉄道会社が女性専用車両を設定した目的、時間帯などから、鉄道会社が女性専用車両を設置したのは正当であり、その旨表示することも正当である等と判断し、男性の請求をすべて棄却しました(東京地裁平成23年7月12日判決)。
その際の裁判所の判断を要約すれば、以下のような内容でした。

①原告ら男性には、憲法上、居住・移転の自由、法の下の平等が保障されてはいるが、他方で、被告の鉄道会社には、営業の自由が保障されている。
②女性専用車両の設定は、平日の通勤通学の時間帯に相当な混雑をする首都圏等大都市圏の通勤電車において、痴漢犯罪の被害を受けるおそれのある女性の乗客に対し、少しでも安心、快適な通勤通学環境等を提供するために行われていると解せられ、これは目的において正当である。
③女性専用車両が設定されるのは、平日の通勤時間帯の一部電車、しかも、同車両が設定されるのは6両編成の車両のうちわずか1両のみに過ぎず、成人男性乗客をして他の車両を利用して目的地まで乗車することを困難ならしめるものではなく、成人男性の乗客に格別の不利益を与えるものでもない。 

■みなさまはどう思われますでしょうか。
私は、格別、これで不便も感じませんし、混雑時に女性が安心して乗れるだけでなく、私たち男性も、痴漢冤罪を受けるリスクが少しでも減少することの方が嬉しく思います。

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