宮田総合法務事務所

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老親の不動産を確実かつスムーズに売却できる“スポット信託”とは?

18.06.07 | 暮らし・人生にお役に立つ情報

家族信託の話題がテレビ・新聞・雑誌等で頻繁に取り上げられるようになり、遺言や任意後見と並んで、老い支度・老後の認知症対策や争族対策に有効な選択肢として注目度が高まっています。


家族信託の活用場面は、〈老親の認知症による資産凍結対策〉〈将来の相続発生時における遺産争いを予防するための方策〉としては勿論、〈共有不動産のトラブル回避〉〈親なき後問題へのアプローチ〉など様々。


今回は、特に不動産業者の方々必見!


特定の不動産を確実に売却したい場合に、低コスト・軽負担で気軽に活用できる家族信託の活用術、いわゆる“スポット信託”をご紹介します!


【事例】

鈴木龍之介さん(80)は、3年前に病気で妻を亡くし、持ち家の自宅に一人で暮らしていました。
家族・親族は、一人息子の鈴木太郎(50)さんがいますが、結婚をして家族4人で仲良く他県で暮らしています。

昨年、脳こうそくで倒れた鈴木龍之介さん。
今は順調にリハビリ中ですが、後遺症で利き手が不自由なこともあり、火の不始末など独居生活への不安や不便さを解消すべく、先日有料老人ホームに入所をしました。


その結果、空き家になった自宅は、息子家族が戻って住む可能性も無いので、龍之介さんの毎月の施設利用料を確保するためにも、この1~2年を目安に売却したいと考えています。
最近、脳こうそくの後遺症だけではなく、物忘れがみられるようになってきたので、1~2年後の自宅売却時に、もし万が一認知症が進行して、龍之介さん自身で自宅をスムーズに売却できず、成年後見制度を利用せざるを得ない事態を心配しています。


≪解決策≫

龍之介さんは、息子・太郎との間で、自宅不動産を信託財産とする信託契約を締結します。
その内容は、受益者(=自宅財産のオーナー)を父・龍之介さん、受託者(=自宅の管理や処分を担う者)を息子・太郎さんとして、龍之介さんが亡くなるまでを信託期間とし、今から龍之介さんを看取るまで長きにわたる財産管理(施設利用料・介護費用の管理・支払)を家族信託の仕組みの中で担います。

信託契約締結後の自宅の売却活動は、龍之介さんのご意向を踏まえながらも、手続き自体は受託者たる太郎さんが単独で進めることができますので、今後龍之介さんの体調により売却手続きが延期や頓挫するような事態は一切防ぐことが可能となります。

無事受託者として太郎さんが売却をできた際には、売却代金から、不動産仲介手数料その他売却に際して発生した諸費用を精算し、手元に残った売却代金を太郎さんが管理する「信託専用口座」(又は「鈴木龍之介 信託受託者 鈴木太郎」名義の信託口口座)に入れて管理をしていきます。


≪ポイント解説≫

龍之介さんが元気なうちに、将来に備えて太郎さんに、自宅不動産の管理処分権限を与えることが重要です。
そうしておけば、龍之介さんの健康状態に左右されることのない、安定的な管理と処分の体制が作れます。

なお、信託契約の締結までを第一段階とすれば、信託契約締結後は、第二段階としてこの自宅不動産の登記簿に、管理処分を担う者として「受託者 鈴木太郎」の名前を記載する登記手続き、いわゆる「信託登記」が必要となります。
そして、売却手続きは、受託者が形式的な所有者として売買契約書への調印や買主への所有権移転登記手続きをすることになりますので、以後龍之介さんの署名押印を求められることは一切ありません。

もちろん、信託登記を入れたからといって、その不動産が売却しづらくなったり、売却価格の下落要因になったり、不動産仲介業者が仲介できなくなったり(受益権売買ではないので、通常の宅建業免許による仲介が可能です)することは一切ありません。


なお、もし自宅不動産の売却により、家族信託導入の目的は果たせた、家族信託の役割は終えたということであれば、 売却代金をお父様の年金受取口座兼施設利用料引落口座に送金することで、龍之介さんの生前中に敢えて信託契約を取りやめること(合意解除すること)も可能です。


また、あまり大きな声では言えませんが、もう一つの“裏技”があります。

現時点で“保険”の意味で信託契約は交わしておくが、敢えて前述の信託登記はしないで置いておく(いわゆる「登記留保」)という策を講じることができます。
そうすると、1~2年後の実際の売却時に龍之介さんが無事お元気であれば、信託契約を龍之介さん・太郎さんの合意により解除して、 龍之介さん売主として通常どおりの売却手続きを行ってもらうことができます(そもそも信託登記を入れておらず、登記簿上は龍之介さんが所有者になったままですので、外部の人からすれば、信託契約が締結されたことすら分かりません)。

こうすることで、とりあえず第二段階の信託登記の費用をかけることなく、どっちに転んでも(龍之介さんが元気でも、元気でなくても)、確実にスムーズな売却ができるような仕組みを作れます。
一方、もし実際の売却の段になって、残念ながら龍之介さんの判断能力(物事を理解する力)が喪失してしまっていたら、原則通り当時の信託契約に基づき信託登記を入れて、受託者・太郎さんから売却することになります。


最初にご紹介した通常の信託による売却方法と裏技との違いは、コスト面です。
龍之介さんがお元気で売主の役目を果たせる可能性が高くなければ、通常通り、信託契約後すぐに信託登記を入れて将来に備えることになります。
一方で、龍之介さんがお元気で売主の役目を果たせる可能性がある程度見込めるのであれば、第二段階の信託登記費用を節約できる可能性にかけ、“裏技”を利用するという選択肢が出てきます(龍之介さんが売却時にお元気でなければ、通常通りの第二段階の信託登記をするだけなので、そもそも想定内のコストが発生するだけで済みます)。


【まとめ】

家族信託は、≪生前の財産管理≫≪資産承継≫の2つの局面で活用可能と言われますが、実際には多種多様なニーズ、様々な場面で活用が可能です。
自宅等の老親所有の特定不動産を売却したいという単純な場面であっても、家族信託を活用する選択肢を持ち得ているかどうかで、 お客様にとっての利便性に差が出ます。
また、お客様側のあらゆる事態に対し実務的に対応できる力こそが、我々専門職に求められている部分であり、我々専門職の存在意義が問われるところです。

特に今回ご紹介した、“スポット信託”については、不動産仲介業者の方々が知っておくと大変便利です。


もし詳しいお話をご希望の方や弊所との業務提携の中でそのようなサポートをご希望される不動産事業者がいらっしゃいましたら、宮田総合法務事務所までお気軽にお問合せ下さいませ(メールアドレス:miyata@legalservice.jp)。









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