大阪プライム法律事務所

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悪質NPOと法人制度改革

18.07.01 | 非営利・公益

毎日新聞社が、特定非営利活動法人(NPO法人)が詐欺的な手法に悪用されている実態を連載的に取り上げています。

6月7日に「NPO法人 脱法売買 全国11法人売り出され、仲介業者も 口座乱造、詐欺に悪用」という見出しで、市民の善意で運営し、営利を目的としないはずの「特定非営利活動法人(NPO法人)」が売買されている実態を取材で明らかになった事例を取り上げて紹介していました。
また、6月9日には、「販売目的で設立 活動歴なし100万円でネットに」という見出しで、東京都内の業者が自らNPO法人を設立し、何の活動もしないまま売って約100万円の利益を手にしていた事例を取材で明らかにしました。いずれも、市民が行う自由な社会貢献活動の健全な発展の促進を目的として導入された法人制度の裏をついたような利用と言えるもので、こうした「悪用」を指摘して社会に警鐘をならす意味では意義のある取材であろうと思います。
ただ、こういった事例があるからとして、やはり行政による監督強化へという流れにならないかという不安もあります。どうしてでしょうか。

■「NPO法人 脱法売買」の記事とは
6月7日の記事では、全国で11法人が仲介業者などを介して売りに出され、うち6法人は実際に売買され、買い取られた直後にその法人名義で口座を多数開設し、詐欺に悪用したNPO法人もあったという内容でした。

記事で紹介された、詐欺に用いられたという事例は、「生活困窮者の支援」などを目的に設立された埼玉県のNPO法人「ライフプラン」(解散)で、15万円で都内の業者に売却され、その後に詐欺グループに転売されたあと、直後に法人名義で多数の口座を開設して投資名目で被害者をだましてお金を振り込ませていて刑事事件化し、被害総額は約1億円に上り、犯罪に利用された15口座が凍結されたとのことです。法人売買の仲介をした業者は「売り主はすぐに金になる。買い主は購入後すぐ(NPO法人を)使える」と相互のメリットを強調し、売買後の悪用については「買い主の問題」と述べたとあります。施行から20年を迎える特定非営利活動促進法(NPO法)は売買を禁じていないが、法の趣旨に反する脱法行為だとして、専門家から制度改善を求める声が上がる、と記事は述べています。

NPO法では、法人の売買自体は違法とはしていません。毎日新聞社が、NPO法を所管する内閣府に売買の是非を尋ねたところ「特に見解はない」とのコメントを出したとありましたが、そう答えるしかないかと思います。しかし、そもそも制度を作る際に想定していなかったともいえます。法が規制をしていない中で、その隙間をついた経済活動と言ってしまえば、その通りなのかもしれません。

■「販売目的で設立 活動歴なし100万円でネットに」の記事とは
6月9日のこの記事は、東京都内の業者が自らNPO法人を設立し、何の活動もしないまま売って約100万円の利益を手にしていた事例を紹介しています。この事例は、6月7日の記事で触れられた11法人の一つだそうで、東京都内の業者が自らNPO法人を設立し、何の活動もしないまま売って約100万円の利益を手にしていたという内容です。

この法人は法人売買を手掛ける専門業者が設立したもので、理事3人はすべて同社の社員で、「設立趣旨書」や議事録、事業内容や目的などを明記した「定款」などを自治体(東京都)に提出していたが、そこには「失業者、求職者、アジアの留学生に、パソコンや語学教室などの職業訓練をする」「生活困窮者支援を行い、生活安定に寄与する」などと記載していて、無事に東京都から認証を受けたとあります。しかし、内情をよく知る関係者は取材に対し、「売るために作った」と明言したとのことです。業者は設立したNPO法人を販売目的でネットにアップしたところ、設立から9カ月後に100万円で売却されたそうです。購入したのは、IT関連会社で、その関係者は「IT分野の人材を育てるためにNPOで活動しようと思った。新たに設立すると手間がかかるので、あるものを使ってすぐに活動しようと思った」と説明したが、計画は進まず、今は休眠状態になっているという記事でした。

 ■どう考えるべきか
この2つの記事は、本来のNPO法人制度の趣旨からすれば明らかに外れるものと言えます。2つの記事に共通する点は、法人自体が売り出されていたものであるということで、最初の事案は、購入後に犯罪に使用されていたということがショックな内容になっています。

そして2番目の記事は、認証申請の時点から、もともと本来の活動をする予定もなく、単に販売目的だけで法人の設立認証を得て法人を立ち上げ、予定の活動は最初から一切せず、予定通り売却しているという点で、定款の事業目的と活動計画書、活動予算書の記載は最初からする予定のないことを記載しているという意味では虚偽記載とも言え、ある意味で所轄庁の判断をかいくぐった行為と言えるかもしれません。しかし、NPO法人の認証審査は、申請書の記載から判断をするという形式的審査主義を採用していて、本当にその活動をするのか否かを調査するという実質的審査主義は取っていません。したがって、所轄庁としては、書面さえ問題なく作成されていれば、認証せざるをえないことになります。そこまで踏み込んで考えると、「虚偽記載」という表現が正しいのかどうかも分からなくなります。

いずれにせよ、最初から活動をするつもりもなく、内心では法人売買のみを予定して法人認証を受けるということは、NPO法の本来予定している制度趣旨に反することは明らかであろうとは思います。

■法改正をすべきか
こういった事例を前にして、この記事を読んだ人々は、このようなけしからんNPO法人制度は間違っている、行政がもっと目を光らせて、認証時点で排除できるような仕組みにすべきだとか、もっと厳しく監視すべきだという意見を持ったとしてもおかしくはないかと思います。もしかしたら、このような悪用されるNPO法人制度などはなくしてしまえばいいという極論まであるかもしれません。毎日新聞がNPO法人制度そのものを批判的にみているとは思いたくはありませんが、行政による監視強化を訴えていくというつもりならば、少し違いのではないかとも思います。

NPO法人制度が市民側の運動で生まれてきた背景は、旧公益法人で採用されていた主務官庁による許可主義ではなく、最も行政庁による内容への介入が行われにくい認証主義という形態を採用したわけで、認証取消しによる解散など行政庁による指導監督の権限がなくなったわけではないですが、行政庁の監督指導による統治の代わりに、市民への情報公開による団体統治を志向したもので、従来よりも簡便に自由に法人格を取得でき、比較的自由に活動を展開できることを目指したものです。ここに、一部のけしからん法人が出てきたからと言って、行政庁による踏み込んだ調査権限を付与したり、行政官に「こいつらは怪しいから認証しない」というような判断裁量を与えてしまうならば、本来の制度趣旨を壊してしまうことになります。

そもそも、法人を悪用するという意味ならば、営利法人たる株式会社でもいくらでもある話です。だからと言って、株式会社の設立時に、行政官庁がその都度に審査をして設立を認めるかどうかを判断させていたのでは、自由な経済社会は実現できません。同じことは市民が行う自由な社会貢献活動の発展でもいえるものと思います。

NPO法人制度に行政による規制強化を図ることで、それによって失うものは、いくつかの悪質法人を駆逐することで得られる社会的利益をはるかに超えるものであるものと思います。その点で、毎日新聞社の方向性には気になるところです。 

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