大阪プライム法律事務所

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所有者不明土地の活用~自治体・企業・NPOも

18.07.29 | 非営利・公益

超高齢化社会の急速な進展と、核家族化によって亡くなった時点でだれも住んでいない空き家が大量に生じてきたこともあって、空き家対策法が平成26年11月に成立し、利用促進のほかに、「特定空家」に対する指導・命令などができることとなり、各自治体も空き家バンクなどを通じて活用を推進するなど、積極的な対策をとるようになってきました。

そこで次に「空き地」問題が大きくクローズアップされるようになりました。何代も相続登記がされていないなどの理由で、所有者が不明のまま放置されている土地が全国で九州の面積以上になっていることが報告されて、これからの日本のまちづくりにとって大きな脅威となってきました。政府は、本年3月9日に所有者不明の土地を公園や駐車場など公共目的で利用できるようにする特別措置法案を閣議決定し、6月6日の参議院本会議で成立しました。この新しい制度では、「所有者不明土地」を活用して事業をしようとする自治体、民間企業、NPO法人などに、10年間の一時利用権(土地利用権)が与えられる道筋ができました。来年の6月までに施行され、今後の活用が期待されます。 

■なぜ所有者が不明な土地が生じるのか
2017年6月に法務省が公表した『不動産登記簿における相続登記未了土地調査について』によれば、最後の相続登記から50年以上経過した土地は大都市で6.6%、中小都市・中山間地域で26.6%にものぼっています。 この中には、相続が起きているのに所有権移転登記を行っていないものが相当数含まれていると考えられます。

空き地と違って、空き家は放置すると危険な状態になったり、周囲への悪影響が大きく、過疎対策の面でも問題化しやすいのですが、更地である空き地の問題は後回しにされがちでした。しかし、空き地も放置ごみが大量の廃棄されたり、周辺地域に迷惑を及ぼすものが多く、何をおいても利用されないで放置されることで、地域の活性化にとってマイナスであることも事実です。そのような土地の中には、何十年も相続登記がされていない結果、ついには所有者不明のままどうしようもなく放置された土地が多くなってしまいました。
つまりは、遺産分割がされないまま何代にもわたってそのままになり、遺産分割がされていないので、相続人の共有状態になっているが、その数が「半端ない」数になってしまうわけです。

私も、明治時代に亡くなられた方の名義のままで止まっている土地登記を見たことが何度もあります。中には、そのような土地についての相続処理を相談されて、明治時代に亡くなられた方の相続人を、戸籍を追いながら調べていくと、4代にもわたる相続が発生していて、相続人が100人近くになっていたケースもありました。そうなってくると、大半は知らない者同士であって、中には海外に移住したまま生きているか亡くなっているかも分からない方や、国内であっても住民票所在地には実際は住んでいないため連絡がつかないとか、高齢過ぎて、遺産分割協議をしようにも成年後見の申し立てから始める必要が出てくるとか、そういったことでもたもたしているうちに、さらに死亡する方が新たに出てきて、どんどんと相続人が増えていくという状況があって、到底、解決しにくい状況になっていき、ついには遺産分協議を経て解決しようと考えておられた方が断念をされたケースもありました(依頼を受ければ、時間と労力と費用はかかるも、何とか解決に持っていける道もあったのですが、依頼者があきらめてしまわれました。)。その後も数年たっていますから、もはや解決難度はさらに上がっているものと思います。このような所有者不明土地(正確に言えば、相続人の把握不明土地とも)が生まれ続けています。 

■どうなるか
こういった土地は、長年使用されずに放置されたままであるから、これを整備して公園や地域の公共建物を建てて有効に活用しようと考えても、どうしようもありません。共有状態の所有者が多数いるとは言っても、あくまでも私有物ですから、他の誰であっても、勝手に使用したり処分したりすることができないからです。日本国憲法第29条には、財産権の保障が定められていて、所有財産を国といえどもそれを奪ったり制限することは原則としてできないことになっているのです。 

■新しい今回の制度
このように、人の所有権たる土地は厳重に憲法29条で保護はされていますが、他方で、憲法29条はその第2項で、財産権といえども「公共の福祉」のためには制限されることも定めています。もはや手が付けられないような土地を、そのままにしておくことは、社会公共の観点からしても、大きなマイナスでしかありません。
今回できた制度は、所有者不明の土地を、学校や公民館、図書館、福祉事業、病院、公園、駐車場など公共目的で利用できるようにする仕組みを導入したものです。 

今回成立した新しい法律「空き地対策法」(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法)では、「所有者不明土地」を活用して事業をしようとする者(自治体、民間企業、NPO法人などが想定されています)が、
① 都道府県知事あてに「事業計画書」を提出し、知事が事業計画に公共性があると判断すれば「地域福利増進事業」として認定され、10年間の一時利用権(土地利用権)が与えられる。
②所有者が現れた場合のために、その利用期間の賃料相当額を「補償金」として法務局に供託する。
③その一時利用期間の間に所有者が現れて明け渡しを求めた場合は、原則として、原状回復して返還するが、もし所有者が了解すれば利用を延長できる。現れなければ期間を延長することも認められうる。という内容で、所有者の権利と、土地の社会的な有効活用とをバランスよく組み合わせたものと言えます。 

■どのような事業が対象か
ここで対象となる「地域福利増進事業」とは、以下の事業のうち、地域住民その他の者の共同の福祉又は利便の増進を図るために行われるものをいいます。
(1)道路、路外駐車場その他一般交通の用に供する施設
(2)学校又はこれに準ずるその他の教育のための施設
(3)公民館又は図書館
(4)社会福祉事業の用に供する施設
(5)病院、療養所、診療所又は助産所
(6)公園、緑地、広場又は運動場
(7)被災者居住用住宅(災害救助法が適用された市町村の区域内)
(8)(7)の市町村の区域内又は周辺地域において著しく不足している購買施設、教養文化施設その他の施設(9)上記各事業のために不可欠な通路、材料置場その他の施設

 ■対象事業主体は?
自治体、民間企業、NPO法人などが想定されているとしていますが、これらにとどまらず、公益性を持つと認められる法人には利用権を認めるほうこうであると言われています。つまり、町内会などの地縁団体法人や、公益または一般の社団法人・一般財団法人、社会福祉法人等にも認められる道があるものと思います。 

■建物がある場合
今回のこの所有者不明空き地の活用制度は、土地の上に建築物(簡易な構造で小規模なものを除く)がない場合だけが対象です。空き地対策ですから、当然とは言えますが、家屋自体も所有者不明のものが多くあることは事実で、それらについては、空き家対策でしか対応ができません。空き家の多くは、建物自体に手を加えないと活用できないことから、現時点ではやはり、他人の建物に勝手に工作を加えたり、中の動産などを勝手に廃棄したりすることまでを認めるのは行き過ぎだと考えられたからだろうと思ますので、仕方がないとも言えます。ただ、所有者が現れる見込みが薄い場合に何とか有効活用できないか、この辺りも知恵を絞っていくことが必要かもしれません。

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