社会保険労務士 吉田事務所

管理職の出退勤データ、保存の義務はあるか

18.12.10 | ビジネス【労働法】

【相談内容】
ブラック企業に対する社会的批判が強まるなか、当社でも労働時間管理の適正化に取り組む方針で、ICカードによる勤怠管理システムの導入を検討しています。施設の安全管理の観点から管理職もカードを持つことになるため、管理職分の出退勤データも蓄積されます。しかし、管理職は労働時間管理の適用除外であるため、データの保存は必要ないと思います。管理職分の出退勤データの保存義務はありますか?

【結論】 
労働基準法では、原則として管理職の出退勤データは保存義務の対象外です。しかし、深夜勤務をした場合に関しては、管理職であっても記録の保存、ならびに深夜労働手当の対象となります。また、労働基準法上の規定とは別に、『働き方改革推進法』では、健康管理の一環としてこれまで時間管理の適用対象とされていなかった管理職にも時間管理を課しており、こちらも注意が必要です。


3年間の保存義務がある
労働者の勤務データ

2017年1月、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署は、労働時間データの取り扱いルールとして『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(平29・1・20基発0120第3号)を新たに策定しました。

それによると、『使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること』とあり、使用者が労働者の労働時間を記録する義務を負っていることが明記されています。

次に、労働基準法(労基法)108条・労働基準法施行規則(労基則)54条では、使用者は各事業場ごとに賃金台帳を調製し記入しなければならないことと、労働者の氏名、性別、賃金計算期間、労働日数や時間数など、賃金台帳に記載すべき事項を細かく定めています。
使用者は、出勤簿やタイムカードなどへの記録によって把握した労働者の始業・終業時刻などのデータを基に、賃金算定期間ごとの『労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数』などを算出して、賃金台帳に記入します。
この元データは、賃金台帳に記入し終わった後でも、すぐに廃棄することはできません。
労働時間の記録は、労基法109条で定める『労働関係に関する重要な書類』に該当するので、『書類の完結の日から3年間保存する』必要があります。


労基法では、原則として管理職は対象外

しかし、最初にあげた『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』をもう一度見てみると、『労基法41条に定める管理監督者等およびみなし労働時間制が適用される労働者』は、労働時間の記録義務の対象外とされています。

労基法で定める『管理監督者』は、『経営者と同等の重要な権限を有している』『一般社員と比較して相応の賃金上の処遇を与えられている』などの要件を有した者をいいます。
管理監督者は自身の出退勤の管理を受けないため、労働時間・休日・休憩の規定が適用されず、残業代の支払い対象になりません。
このことから、出退勤の記録や保存の対象外となっているわけです。
つまり、管理職の職務内容が、この労基法における『管理監督者』の要件を正しく満たしているのであれば、その出退勤データの保存は、原則としては不要ということになります。


管理職でも把握が必要になる深夜勤務

しかし管理職でも、深夜勤務をした場合は、少し話が違ってきます。
ここで留意が必要なのは、管理監督者であっても、『深夜業の割増賃金に関する規定は適用を排除されない』(労基法コンメンタール)点です。

管理職がたまたま深夜の時間帯(午後10時~翌日午前5時)に勤務したときは、賃金台帳への記載およびその基礎データの3年間の保存義務が発生します。
さらにいえば、労基法では、管理監督者は労働時間に関する規定の適用対象外ですが、この労働時間に関する規定の中に『深夜勤務手当』は含まれていないため、管理監督者に対しても深夜勤務手当の支払いは必要となります。


働き方改革推進法では
全労働者の記録が義務に

なお、労基法上の規定とは別に、『働き方改革推進法』では、労働安全衛生法(安衛法)改正により、健康管理の前提としてすべての労働者(管理職を含む)の労働時間の把握義務』を課しています(労働安全衛生規則52条の7の3第2項)。
そしてその労働時間の記録は、3年の保存が義務づけられています(安衛法66条の8の3、平成31年4月1日施行予定)ので、こちらについても注意が必要です。


タイムレコーダーなどで正確な出退勤記録を残しておくことは、過重労働の抑制につながります。
そのため、従業員の健康や安全に配慮するという意味で、管理職であっても勤怠管理は大切なものといえます。
すべての従業員に安全かつ健康に働いてもらうためにも、勤怠管理システムを上手に運用し、会社の円滑な運営につなげていきましょう。

社会保険労務士 吉田事務所
TOPへ