大阪プライム法律事務所

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相続法改正で生まれる「配偶者居住権」

19.01.27 | ニュース六法

昨年、約40年ぶりに相続法の改正が公布されました。本年(2019年)1月13日からは、自筆でつくる遺言書でも財産目録はパソコンで作成できるようになりました。これ以外にも、施行はこれからですが、法務局での自筆証書遺言の保管制度や配偶者居住権が創設され、被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能となるなどもあり、大きな改正です。
今回は、このうち「配偶者居住権」についてお話します。自分が亡くなったあとで、残された配偶者が、他の相続人から何を言われても、自分の所有する自宅に住み続けさせたい場合には、これを活用した事前対策なども取ることができます。

■配偶者居住権の創設
これは、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物を無償で使用することができる権利です。2020年4月1日の施行が予定されています。この制度は2種類が用意されました。

なぜこうした制度ができたか、その背景ですが、近年の高齢化社会の進展で、相続開始時点で配偶者も既に高齢となっているケースが増えました。しかし、平均寿命が伸びたことに伴って、残った配偶者がなお長期間にわたって生活をしていかないとならないことも少なくありません。その配偶者としては、住み慣れた自宅で住み、その後の生活資金も一定程度相続したいと考えるのは自然なことです。ところが、これまでの制度では、配偶者が住んでいた建物に住み続けたい場合に、配偶者がその建物の所有権を取得するか、またはその建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結するなどの方法が考えられました。しかし、前者の方法だと建物の評価額が高額な場合、配偶者はそれ以外の現金や預貯金などの遺産をあまり取得できず、その後の生活が困るか大きな不安となります(場合によってはゼロ、もしくは代償金の支払いを求められる場合もあり得ます)。後者の方法では、取得者との間で賃貸借契約など住まわせてもらう合意が成立しなければ居住権は確保できず、やはり大変に不安です。これを解決できるものとして導入されたのが配偶者居住権です。

以下、自宅を所有していて亡くなったA夫さんと、その妻B子さんの夫婦を例とします。

■(1)配偶者居住権
配偶者B子さんの居住権を長期的に保護する制度として、「配偶者居住権」が新設されました。

配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった人=A夫さん)の配偶者B子さんが相続開始時にA夫さんの持ち家に住んでいた場合、相続開始後にその家を他の相続人等が取得しても、B子さんが引き続き無償で使用(居住)したり、人に貸して家賃収入を得たりすること(ただし、人に貸す場合には居住建物を取得した相続人の承諾が必要です。)ができるとする権利のことです。後述する配偶者短期居住権と区別するために、配偶者居住権のことを長期居住権とよぶこともあります。

配偶者居住権の存続期間は、その配偶者(B子さん)の終身の間(B子さんが生きている間)です。短期居住権と異なり、数ヶ月しか建物を使用できないようなことはありません。ただし、遺産分割協議や遺言によって配偶者居住権の存続期間に関して終身とせず、一定の期間を定めることも可能です。 

■配偶者居住権は、次の要件が揃えば成立することになります。
・配偶者が、被相続人の遺産である建物に、相続開始の時に居住していたこと
・以下の(ア)(イ)(ウ)のいずれかを満たすこと
(ア)遺産分割によって、配偶者が配偶者居住権を取得したとき
(イ)配偶者居住権が遺言によって遺贈の目的としたとき
(ウ)被相続人と配偶者との間に、配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき

具体的には、配偶者B子さんが、相続開始時に、相続財産に属する建物(建物の一部でも可)に居住していた場合は、遺産分割(相続人全員の合意又は審判)や遺贈・死因贈与契約により、配偶者B子さんは、終身又は一定期間、無償で建物全部を使用収益(居住)できる「配偶者居住権」という財産的価値分を取得することができるということです。

遺産分割で協議が調わないときは、裁判所によって分割を進めることになります。家事調停で協議をしても合意に至らなかった場合は、裁判所は、次のような場合は、配偶者居住権に関して審判で決定してもらうことも可能です。
(1)共同相続人間に、配偶者が配偶者居住権を取得することについての合意があるとき
(2)配偶者が配偶者居住権を取得したい旨を申し出た場合に、居住建物の所有者が受ける不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき

この「配偶者居住権」は、自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なっていて、他人に売ったり、自由に貸したりすることができないため、評価額を低く抑えることができます。このため、配偶者B子さんは、これまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産もより多く取得できるようになり、その後の生活の安定を図ることができます。

表現の方法を変えて言えば、建物についての権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」に分け、遺産分割の際などに、配偶者B子さんが「配偶者居住権」を取得し、配偶者B子さん以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得することができるようにしたものです。
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例:相続人が妻及び子、遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)だった場合、現行制度では、妻と子の相続分 = 1:1 (妻2500万円 子2500万円)となり、妻が自宅を取得すると、預貯金は500万だけとなって、住む場所は確保できても生活費が不足しそうで不安となります。

これについて、新しく導入される制度では、配偶者居住権が1000万円となる場合、配偶者居住権と預貯金1500万円(合計2500万円)を取得することができ、住む場所の確保とその後の生活費も確保できるようになります。
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 ■(2)配偶者短期居住権
A夫さんが死亡した際に、A夫名義の不動産に残された配偶者B子さんが住んでいたときは、一定期間の「配偶者短期居住権」を認める制度も作られました。

「配偶者居住権」とは、配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で居住している場合に、居住建物に無償で居住できる点は同じです。しかし、この「配偶者短期居住権」は、配偶者居住権と異なり、遺産分割や遺贈、家庭裁判所の審判がなくても認められるものです。

配偶者が、相続の開始時点で亡くなられた配偶者所有の建物に無償で住んでいた場合に、例えばその建物が他の相続人に相続された場合、追い出されてしまうケースがありました。これについて、最高裁が、これを救済するために、亡くなられた方との間で使用貸借契約が成立していたと推認し、配偶者には住んでいる建物を無償で使用する権利があると認め、出て行かなくてもよいとしました。しかし亡くなられた方が、配偶者が無償で建物を使用し続けることを認めていなかった場合や、第三者に建物が遺贈された場合には、配偶者は、直ちに建物から退去しなければなりません。そこで、これらの場合でも配偶者が一定期間建物に住み続けることができる権利として新設したものです。

具体的には、配偶者B子さんが、A夫の相続開始時に、相続財産に属する建物に無償で居住していた場合、他に相続人がいたとしても、以下の期間は無償で使用(居住)する権利が認められます。
①遺産分割により居住建物の帰属が確定するまでの間(最低6ヶ月間)
②居住建物が第三者に遺贈されていた場合や配偶者B子さんが相続放棄した場合は、新所有者から居住権の消滅請求を受けてから6ヶ月間

配偶者短期居住権により、配偶者は、この間は、居住建物に住み続けることができ、新たな住居を見つける等の準備を行うことができます。

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