宮田総合法務事務所

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「親族後見が望ましい」旨を最高裁が表明

19.03.25 | 暮らし・人生にお役に立つ情報

朝日新聞の報道によると、最高裁判所は、3月18日、成年後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」との考えを示したとのこと。

我々、成年後見業務に関わる専門職からすると、至極当たり前の考え方だが、これを最高裁が示したことの意味を考えたい。

認知症や大病、知的障害、精神障害等により判断能力が十分ではない本人の生活と財産管理を支える成年後見制度に関し、本人の配偶者、子、孫、甥、姪等の親族が後見人になるケースを「親族後見」、その後見人のことを「親族後見人」と呼んでいるが、先日3/18に開催された後見制度の利用促進をはかる国の専門家会議で、最高裁判所が親族後見が望ましいとの考え方を示したことは、今後の後見実務にどのような影響があるのだろうか。

近年、全国の家庭裁判所では、親族後見人になった家族による横領事件等が続出する事態を背景に、不正事件の減少を図りたいという観点から司法書士・弁護士などの法律専門職(これを「職業後見人」という。)の選任が増えていた。
家庭裁判所によってこの傾向には差があったが、一部の家庭裁判所では、後見人の候補者となる親族がいても、敢えて職業後見人を選任するような動きを打ち出していたところもあり、後見人になりたいという意思がある家族・親族を排除することで親族から苦情・批判を浴びるケースもあった。

不正防止への監督強化や職業後見人選任への傾斜等の運用への批判もあってか、成年後見制度の利用件数は伸びず、国は2017年に利用促進の計画を策定し、見直しに着手した経緯がある。
利用者がメリットを実感できる仕組みに変える一環として、最高裁は今回初めて選任に関して具体的な考えを表明し、今年1月に各家庭裁判所に通知したという。

最高裁は基本的な考え方として、後見人にふさわしい親族など身近な支援者がいる場合は、本人の利益保護の観点から親族らを後見人に選任することが望ましい。
また、後見人の交代も、不祥事など極めて限定的な現状を改め、状況の変化に応じて柔軟に交代・追加選任を行うとする方針を明らかにした。
昨年6月~今年1月、日本弁護士連合会や日本司法書士会連合会など専門職団体と議論を重ね、考えを共有したという。


そもそも認知症患者数が500万人とも600万人と言われている中で、既に家庭裁判所の後見事務は容量オーバーなはず。
利用の促進を促すといっても、それを受け入れるだけの制度的備えはできていないようにも映る。

そこへきて、この最高裁の方針表明は、現実的に考えたときに一理あると言える。
つまり、定期的に被後見人に面会に行くべき職業後見人は、おのずと受任できる件数には限界があり、成年後見制度の利用者が増え続けると、専門職後見人のなり手が不足することは現状を見ても明らかである。
一人の法律専門職で担える後見人就任案件はそう多くはない中で、親族後見を原則とした中で利用件数を増やすことで、法律専門職が「後見監督人」に就いて3~6ヵ月に1回親族後見人からの後見報告をチェックし、時には相談にのるという関わり方においては、特に被後見人に定期的に面会に行くことも求められていない後見監督人は、後見人よりも多くの案件を受任できる。
現実的には、家裁の監督機能を職業後見監督人に担ってもらうことで増加する後見案件を、乗り切ろうという方針なのだと考えるのが無難だろう。

家族以外の人間が職業後見人として家族内にドカドカと入ってくるイメージとして語られることもある職業後見人。
やる気と時間、能力があるのであれば、親族後見をベースとすることは、利用者家族の心情面を考えると歓迎できる。
また、職業後見人の後見人報酬は月額2~6万円と言われている中で、後見監督人は月額1~3万円となり、経済的な負担も減らせる効果もある。


市民感覚からすれば、「親族に後見人のなり手がいれば、親族が後見人なるのが好ましい」というとても当たり前な理屈だが、 現場の運用もそれを踏襲するという方向性は、現時点では歓迎すべきと考える。

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