大阪プライム法律事務所

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休眠預金活用に向けての期待と不安

19.05.04 | 非営利・公益

銀行等の預金口座で、10年以上入出金が確認できない「休眠預金等」について、これを民間公益活動を促進するために活用することとした「休眠預金等活用法」が、昨年1月1日に全面施行されました。そして、同法に基づく指定活用団体として、この1月に、経団連を母体にした一般財団法人日本民間公益活動連携機構(略称:JANPIA、所在地:東京都)が指定されました。

続いて、現場の団体への資金助成の窓口となる「資金分配団体」の公募が6月に始まろうとしています。それを前にした先日、公募要領が公表され、そのための説明会が全国各地で開催されています。その後、6月3日(月)から応募受付がされて、8月~9月に審査され、9月には全国で20団体ほど決定がされる予定です。

■休眠預金とは
長い間引き出しや預け入れなどの取引がされていない、「眠っている銀行預金など」のことです。最後に出入金があった日や定期預金の最後の満期日から、銀行では10年、ゆうちょ銀行では5年以上経ったもののうち、預金者本人と連絡のつかないものをいいます。

多くは、子供の頃や結婚前などに使っていた口座、死亡した方で相続人がそのままにしている口座などがそれに当たります。その金額は、日本全体で毎年700億を超えるといわれています。これを、NPOなどの民間活動に充てて有効に活用しようとする休眠預金等活用法が2018年1月に施行されました。

その後、休眠預金活用に関する基本方針の策定を巡って、パブリックコメントに市民団体からの多数の意見を受け付けながら、その意見を完全に無視し、ごく短時間で一言一句修正なく原案が承認されたことや、休眠預金等活用審議会での議論も不透明で不十分であることが指摘されてきました。

■指定活用団体の指定
休眠預金の活用にあたって、その実施主体になるものとして、全国で一法人だけが指定される「指定活用団体」は、休眠預金の移行を受ける預金保険機構から資金の交付を受け、「資金分配団体」を通じて、現場で活動する団体に休眠預金の分配を行うことになっています。そして、内閣総理大臣の監督と、休眠預金等活用審議会による業務の実施状況についての監視を受けます。

そういう意味で、非常に重要な役割を担う「指定活用団体」の選定には、全国から4つの団体が応募していました。大阪の非営利組織が集まって設立した「一般財団法人民都大阪休眠預金等活用団体」、経団連を母体にした前述の「日本民間公益活動連携機構(JANPIA)」、日本財団が母体となった「一般社団法人社会変革推進機構」、ソーシャルベンチャーが結集した「一般財団法人みらい財団」の計4団体で、内閣府の休眠預金等審議会での審議を経て、JANPIAが選ばれました。

東京以外の地域から申請がないことは東京一極集中を暗黙に是認することになるという声に推され、「地方の代表としての大阪」の力を結集して、大阪から名乗りを挙げた民都大阪も、健闘しましたが敗退しました。私も多少関わっただけに残念でした。

■資金分配団体の公募
「指定活用団体」に続いて、「資金分配団体」の公募が始まります。これは、地域の事情や情報に詳しい団体として、現場の団体の選定、休眠預金の分配、現場の団体の監督等を行う団体です。

「基本方針」では、「民間公益活動を行う団体に対し助成、貸付け又は出資を行う団体であって」、「民間公益活動を行う団体に対して資金支援を行うという法で規定された役割にとどまらず、革新的な手法による資金の助成、貸付け又は出資や事業実施に係る経営支援や人材支援といった非資金的支援を必要に応じ伴走型で行うこと等を通じ、民間公益活動の自立した担い手を育成する中心的な役割を担うことが期待される」と位置付けられています。

このため、従前からは、資金分配団体には地域の活動をよく知る既存の市民ファンドやコミュニティ財団などがイメージされてきました。ところが、先日、指定活用団体であるJANPIAから「公募要領」が公表され、その中に、資金分配団体となる団体には事業費の20%は自己負担が必要との記載が入ったことが、やや波風を立てています。

これについて、市民社会創造ファンドの坂本憲治氏が、Facebookで、以下のような意見を述べていたのが目につきました。これから資金分配団体の申請を考えている団体にとって大きなハードルが現れたという話です。誰かからの何かの力が加わったからでしょうか。これによって、真に役目にふさわしい団体が断念を余儀なくされないか、気になります。

(以下、坂本氏意見https://www.facebook.com/kenji.sakamoto.127 より(一部抜粋))
「この中で、これまで休眠預金審議会の議論を経て策定された「基本方針」にも、JANPIAの指定活用団体への申請書にも記載されていなかった、資金分配団体となる団体には事業費の20%は自己負担が必要との一文が盛り込まれた。なぜ、20%の自己負担が必要なのか、理解に苦しむ。そもそも、資金分配団体に対して現場団体への助成金の原資と助成プログラムの管理費を含めた経費を助成するという仕組みは適切だったのか。委託にすべきではなかったか(資金分配団体に対して注文が多い仕組みでもあるし)。この自己負担が求められたことによって、既存の市民ファンドやコミュニティ財団は資金分配団体にはなれないだろう。」

■休眠預金を、公益のために活用しようという発想自体は素晴らしいものと思います。問題は、これをいかに有効に、最も望ましい方法で活用していけるか、そのための仕組み、よき判断者をいかにうまく組み込めていけるかだと思います。こういった資金を、社会で一番必要としているところに届けるためには何をしていくべきか。制度の開始時にはうまくいかない場合もあるかもしれませんが、無駄な使い方はしたくないのも事実です。批判すべき批判しながら、みんなの力で少しでもいい制度にしていくことが必要かと思います。市民公益活動への良薬とされたものが、毒薬にならないようにしなければなりません。成熟に向けて進みつつある日本の市民社会が、大きな岐路にさしかかっているものと思います。

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