江原会計事務所

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やむを得ず従業員の給与を減給。その際の注意点は?

19.07.09 | ビジネス【労働法】

従業員の問題行動に対する処分、あるいは経営の悪化などによって、やむを得ず従業員の給与を減給しなければならないケースがあります。 
減給は従業員のモチベーションの低下にもつながりますし、従業員と雇用者との間でトラブルに発展する可能性も高いため、避けたいところです。 
しかし、それでも減給しなければならないときには、いくつかのポイントを押さえて慎重に行う必要があります。 
今回は、減給をする際の注意点をケースごとに説明していきます。

『減給』は大きく二つのケースに分けられる 

減給は、従業員の問題行動に対する『懲戒処分』としての減給と、それ以外の理由による減給の二つのケースに分けられます。 
まずは、“懲戒処分としての減給”に関してご説明します。 

『懲戒処分』とは、会社に不利益を生じさせたり、秩序に反する行為を行ったりした従業員に課せられる処分のことで、処分の軽い順に次のような種類があります。 

・戒告:上長から口頭で注意を受ける 
・譴責(けんせき):始末書を提出させる 
・減給:給与を減らす 
・出勤停止:一定期間出勤を制限する 
・降格:役職、職位、職能資格を引き下げる 
・諭旨解雇(ゆしかいこ):企業と従業員とで話し合い、解雇処分を進める 
・懲戒解雇:会社から一方的に労働契約を解消する 

懲戒処分が下される基準は、原則として会社の就業規則に定められています。 
1週間連続で遅刻しても懲戒処分とならない会社もあれば、3日連続の遅刻で懲戒処分となる会社もあるというわけです。 


『懲戒処分』では減給できる額に上限がある 

“懲戒処分としての減給”の場合、減給できる額が法律によって決まっています。 
労働基準法91条では、『上限として1回の額が平均賃金の半日分』と定められています。 
つまり、1回の問題行動に対する減給は1日分の給料の半額までで、これを超える減給を課すことはできません。 

計算方法は、減給の前3カ月の給与の総額を計算し、その額を3カ月の総日数で割ります。
その額をさらに半分に割ると、減給できる額となります。 

たとえば、毎月30万円の給与を受け取っている従業員が何かしらの問題行動をして、“懲戒処分としての減給”というペナルティーを受けるとします。 
3カ月を90日とした場合、90万円÷90日で1万円となり、減給できる額はその半分ですから、5,000円程度になります。 
つまり、30万円の給与をもらっている従業員に対しては、1回の減給処分でわずか5,000円しか減給することができません。 

当然、1回の問題行動に対して、懲戒処分が行えるのは1回だけ。
その月の給与を減給したら、次の月には元の給与に戻さなければいけません。 

また、『減給処分』は就業規則に沿って課す必要があります。
就業規則に記載していない事案について課すことはできませんし、就業規則に記してある場合でも、社内で『懲戒委員会』を開いて、その処分が適切か判断したり、処分を行う前に本人に弁明の機会を与えたりしなければなりません。 

このように、『懲戒処分』はあくまで慎重に進めなければいけません。
不当な懲戒を課して従業員に裁判を起こされたケースも少なくないため、その懲戒が本当に適切なのかを見定める必要があります。 


“懲戒処分ではない減給”を行う場合に大切なこと 

一方、給与制度の変更や経営悪化などによる、いわゆる“懲戒処分ではない減給”を行わなければならないケースもあります。
つまり、会社には人事権がありますので、その行使として行う減給です。
人事権の行使は会社に一定の裁量が与えられています。 

これまでの企業では当たり前だった年功序列による昇給を撤廃し、能力や仕事の成果に対して昇給を行う制度を取り入れる企業が増えてきました。 
定期昇給を廃したことで、高い年齢給を得ていた一部の従業員の給料を減給しなければいけないケースもありますし、会社の経営悪化や成果不足に伴い、やむを得ず従業員の給与を減らさなければいけないケースもあるでしょう。 

たとえば、従業員に対し、「ほかの従業員よりも成果を出していない」「現在の給与額と業績が見合っていない」などの理由で『減給』することは、懲戒処分とは異なります。 
そのため、懲戒処分のような『上限として1回の額が平均賃金の半日分』という制限はありませんし、1回限りではなく継続的に行うことができます。 
人事評価によって降格されたり、以前よりも低い評価をつけられたりした従業員が、以前と同じ給与を得ることはできないという理屈が成り立つわけです。 
ただし、各自治体で定められている最低賃金を下回ることはできません。 

また、この場合でも、就業規則への記載の有無や評価制度の正当性が問われると同時に、従業員との話し合いや丁寧な制度の説明の場も設けなければなりません。 
「あなたの能力が低いから」など減給する理由をしっかりと伝え、その内容に合理性があって減給が可能になります。 
一方、業績不振で倒産の危機にある場合なら、全従業員の同意が必要になります。 

減給を行う際は、懲戒処分か否かを問わず、ルールに則った対応が必要になります。 


※本記事の記載内容は、2019年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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