大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

路線価に基づく相続財産評価を不適切とした判決の波紋

19.11.30 | ニュース六法

日経新聞が、本年11月18日に、「相続税で路線価を否定、地裁判決、節税に警鐘」という見出しで、「路線価に基づく相続財産の評価は不適切」とした東京地裁の判決が波紋を広げていると報じました。通常、国税庁では不動産の相続税での算定基準を「路線価」としていますが、実際の時価が路線価の約4倍の事案で、その時価を前提に課税した国税当局を裁判所が認めたものです。路線価は、通常は取引価格の8割程度のために、節税策として不動産を購入する人も多いのですが、そうした相続対策に大きな影響が出そうです。
日本経済新聞電子版2019年11月18日▼
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52324200Y9A111C1CR8000/

■波紋を呼んでいる判決とは
東京地裁令和元年8月27日判決です。実際の判決文から、事案を要約すると、94歳で亡くなった男性が、亡くなる2、3年前に東京都内と川崎市内のマンション2棟を購入していたところ、その相続人は路線価などから2棟を「約3億3千万円」と評価し、銀行借り入れもあったので相続税額を「ゼロ」として国税側に申告していました。

しかし、亡くなった男性が購入した際の価格は2棟合計13億8700万円で、路線価の約4倍でした。国税当局の不動産鑑定でも評価は約12億7300万円で、路線価とはかけ離れていたのです。このため国税当局は「路線価による評価は適当ではない」として、相続人全体に計約3億円の追徴課税処分を行ったため、相続人らがその課税処分の取り消しを求めたのがこの裁判でした。 

■今回の判決の要旨
この東京地裁判決では、「特別の事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価することが許される」として、今回の事案は「近い将来に発生することが予想される相続で、相続税の負担を減らしたり、免れさせたりする取引であることを期待して実行したもの」と認定し、国税の主張する不動産鑑定の価格での課税が妥当と判断したのでした。

日経記事では、路線価は取引価格の8割のため節税策として不動産を購入する人もいるが、相続税の基準となる路線価と、取引価格に大きな差があれば注意が必要だと、注意を喚起しています。

 ■不動産の価格と相続課税
不動産は「一物五価」とも言い、実勢価格(時価)の他に複数の評価額が存在します。
複数の評価額といいますと、以下の5方式が紹介できます。
(1)実勢価格(時価) 実際に売買されている相場の価格
(2)基準地価     都道府県が発表するもの(時価の約90%程度)
(3)公示地価     国土交通省が発表するもの(時価の約90%程度)
(4)路線価      国税庁が発表するもの(時価の約70~80%程度)
                              相続税の計算はこの路線価(建物は次の固定資産税評価額)を基準にして税率を掛け                               て計算するのが通常
(5)固定資産税評価額 市町村が固定資産税を徴収するために定めた評価額(時価の約60%程度) 

■今回の事案での価額
国税庁が出している「財産評価基本通達」では、相続税の不動産の算定基準を「路線価」とすることが定められています。

今回の裁判での事案でも、相続人は、通常通りこれにもとづいて、路線価で不動産を評価して相続税の申告をしたところ、税務署が不動産鑑定業者に時価評価を依頼し、そこで出された高い鑑定評価額が「あるべき課税価格(時価)」であるとして、相続税を再計算し更正処分を行ったというものでした。

まるで、後出しじゃんけんではないのと思うような話ですが、その処分の根拠となったのは、上記通達の6項で、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という規定があって、それが適用されたということです。

つまりは、本件各不動産を通達通り評価することは「著しく不適当」だから通達の定めにない鑑定評価額で評価したということで、東京地裁は判決でこれを是認したわけです。

ただし、判決をよく読みますと、単に評価額が大きく離れているかどうかだけで判断をしたわけではなく、相続開始間際での不動産取得とそのための借り入れという一連の行為をもって「特別の事情」とし、不動産の相続税法上の時価は鑑定評価額だとしています。つまりは、通達評価額と時価との乖離に乗じて節税するという対策に対して、ダメ出しをしたということになります。

■困惑
原則があって、例外があるのはよくあることです。今回は、その例外が適用されたものですが、どんな場合に例外となるの明確な基準はありません。このため、日常において、不動産購入を相続税対策として勧める税理士なども困惑していると思われます。

相続税の不当な税逃れ対策への課税ということでしたら、ある意味で当然なのかもしれませんが、日経新聞の記事では、「正当な不動産投資をも萎縮させる可能性がある。国税当局は通達を適用する基準を明確にすべきだ」との弁護士による指摘も紹介されていました。もっともかと思います。地裁の判決で、これから高裁での判断もでてくるかもしれません。

TOPへ