社会保険労務士 吉田事務所

労働基準法に違反したら、誰がどんな罰則を受ける?

19.12.19 | ビジネス【労働法】

労働基準法は、労働者を守るための法律です。
労働環境はもちろん、労働時間や賃金など、従業員を就労させる際の細かなルールが定められています。 
近年、働き方改革推進の流れもあって経営者は労働基準法に基づいて会社を経営することが強く求められています。
労働基準法を遵守できなかったときは、労働基準監督署から指導や是正勧告を受けることになります。 
では一体、労働基準法に違反すると、具体的にどうなるのでしょうか。

労働基準法を守るのは経営者の義務

労働基準法は、正社員のみならず、アルバイトやパート、契約社員や派遣社員など、雇用形態を問わず、雇用関係のある全ての労働者を対象とした法律です。

たとえば、賃金の未払いや最低賃金を下回ることは禁止されています。
また、労働時間や産後の育休、解雇予告などに関しても取り決めがあります。
要は、働くこと全般において、労働者を守ろうというのがこの法律の主旨であり、経営者側はこれを遵守する義務を負っています。

労働基準法に違反すると、さまざまな罰則規定があります。
しかし、労働基準法自体が非常に多岐にわたるため、何を違反したらどのくらいの罰則を受けるのか、違反するとどうなるのかを把握している人は多くありません。


労働基準監督署の調査は拒否できない

まず、企業が何らかの形で労働基準法に違反すると、労働基準監督署が本当に違反があったのかを調査します。

労働基準監督署とは、都道府県の労働局によって管轄されている厚生労働省の出向機関で、現在、321署と4つの支署が全国に配置されています。
労働基準監督署は労働基準法のほか、最低賃金法や労災保険法など、労働にまつわる法律を企業に遵守させるための機関で、事業所に対する監督・指導や、労災の原因究明・再発防止策などを行っています。

調査は原則として事前の予告などはないことになっていますが、対象者が不在の可能性がある場合や、事前に帳簿や書類などを用意しておく必要がある場合などは、電話連絡で調査予告日を告知するケースもあります。
また、文章による出頭要求書が届き、事業主が労働基準監督署に出向いて、調査を受けるケースもあります。

労働基準監督署の監督官による調査は、拒否することはできません。
再三調査を拒んだり、調査の際に虚偽の報告をしたりすると、検察庁に書類送検されることもあります。

監督官は多くの場合1名で対応し、身分を明かしたうえで、事業主または責任者との面会を要求してきます。
事業主はこれに応じ、監督官のヒアリングに対し、嘘偽りなく答えなければいけません。


指導後、報告を怠ると再調査になる可能性も

そして、調査の結果、法令違反や改善点が見つかった場合には、是正勧告や指導を受けることになります。
違反していた場合は、違反の内容と是正の期日が記された是正勧告書を、違反ではないが改善する必要があるとされた場合は、指導票が交付されます。
これらの書類は、労基署に出頭して調査が行われたときはその場で、会社で行われた場合は労基署に出頭するか、または後日郵送で受け取ります。

指導票が交付されたら指摘された事柄を改善し、改善状況について労働基準監督署に報告します。
報告を怠ると、再調査になる可能性もあります。

是正勧告書に関しても同様で、違反している部分を是正し、報告書にまとめて労働基準監督署に提出しなければいけません。
是正して報告しない場合は再調査が入りますし、何度勧告しても是正しない悪質な場合は、刑事手続に進み、検察庁に送検されることもあります。

この際、対象になるのは、事業主はもちろんですが、店長や部長、所長など、その事業所で実質的に従業員への指揮監督を行う立場の人も、『使用者』として罰せられるおそれもあります。
さらに会社自体も罰則の対象になり、罰金を支払うことになります。

罰則は、違反した内容によって、『1年以上10年未満の懲役または20万円以上300万円以下の罰金』『1年以下の懲役または50万円以下の罰金』『6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金』『30万円以下の罰金』に分かれます。
実際は、労働基準監督署の是正勧告書を受けて是正する企業がほとんどなので、罰則を受ける会社は多くありません。

厚生労働省が発表している労働基準監督年報によると、2016年の労働基準監督署の監督数は、定期監督(計画的に実施)、申告監督(労働者等からの申告により実施)、再監督を合わせて16万9,623件にもなりました。
このなかには、意図せずに違反してしまっているケースも含まれています。
自分の会社が労働基準法を遵守できているかどうか、経営陣や現場の指揮監督者たちと話し合ってみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2019年12月現在の法令・情報等に基づいています。

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