宮田総合法務事務所

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気を付けて!遺留分への対応次第で譲渡所得税課税のリスク!

20.08.04 | 暮らし・人生にお役に立つ情報

「遺留分」とは、相続に際し、法定相続人の生活保障のために民法が最低限保証した遺産を貰える権利のことを言います。
この遺留分については、2019年7月1日施行された民法改正により、大きな変更がなされました。
この大きな変更により、遺留分への対処次第で譲渡所得税の課税のリスクがあることをご存知でしょうか?

  2019年の民法改正により、遺留分の取り扱いが、「遺留分侵害額請求」という制度に変わりました。
従来は、「遺留分減殺請求」という名称であり、遺留分請求をされた場合、原則その遺留分に相当する遺産(不動産など)を現物で遺留分権利者に引き渡す必要がありましたが、今回の新制度になったことで、遺留分権利者に対する支払いは「金銭」に限定されることになりました。
それを受け、多額の遺産を貰った相続人(又は受遺者)と遺留分権利者が、敢えて金銭以外の財産を引き渡すことで合意できた場合、もちろん法的には有効ですが、税務上は、現金に代えて「代物弁済(だいぶつべんさい)」した取扱いになります。(「代物弁済」とは債権者の承諾を得て、本来の金銭等の債務の支払いに代えて、別の財産で返済する契約のことを言います)。

  たとえば、遺留分侵害請求に伴う金銭の支払に代えて、遺留分権利者の承諾を得て、自宅の共有持分など不動産を引き渡した場合、税務においては、その時点で当該財産が遺留分権利者に有償譲渡(売却)されたものとして、譲渡所得税の課税対象となります。 

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【根拠となる法令・通達等】
国税庁「所得税基本通達について」(法令解釈通達) 
『(遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転)
33-1の6:民法第1046条第1項《遺留分侵害額の請求》の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の基因となった遺贈又は贈与により取得したものを含む。)の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。』
(所得税法 第 3 3 条《譲渡所得》関係)
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【結論】

2019年民法改正で遺留分侵害に対して金銭以外を給付すると、「代物弁済」として譲渡所得税が課税されるリスクがありますので注意しましょう!
このリスクを回避すべく、後述する事前対策・事後対応についてきちんと対処できるように、この分野に詳しい税務・法務の専門家に相談すべきです。

【結論に対する補足説明】

相続が開始した日が2019年7月1日(改正民法施行日)以降である場合、遺留分侵害額請求権が行使されると、この請求権は絶対的な「金銭債権」となるので、この遺留分侵害額に対して金銭以外の財産(例えば不動産)を両者の合意により給付する場合であっても、これは「代物弁済」(民法第482条)となり、譲渡所得税・住民税の課税対象となります。

【対策】

≪相続発生前の事前対策≫
①円満な家族関係であれば、親子が一堂に会する「家族会議」で、将来の資産承継について親の想い・希望を子供にきちんと伝え、多少不均衡・不公平でも子が納得し、将来に遺恨を生じさせないように話しておく。

②遺留分を侵害されたとして請求できる相続人(以下、「遺留分権利者」と言う)が納得をしてくれれば、念のため、親の生前に家庭裁判所で「遺留分放棄」の手続きをしてもらう(遺留分を放棄する前提としてある程度の「生前贈与」をすることも多い)。

③遺留分侵害額相当の支払原資を生命保険(死亡保険金)で賄えるように、遺留分を請求される側を保険金の受取人に指定しておく。

④(円満な家族関係であるとは言い切れない場合)遺言において、遺留分権利者に対して、重要ではない不動産等の財産の受取りを敢えて指定しておくことで遺留分侵害額を少しでも減らす工夫をする。

遺言において、多くの遺産を取得する相続人(又は受遺者)が、遺留分権利者に対し、遺留分侵害額にみつるまで分割して金銭の支払いをすべきという義務を課す(分割払いの「負担付遺贈」の仕組みを作っておく)。

≪相続発生後の対応策≫
①遺留分侵害額請求に関する合意ができたとしても、敢えて法定相続人全員による「遺産分割協議」の中で遺産の分配を取り決める。遺言書や死因贈与契約を使わないようにすることで、譲渡所得税の課税の概念を排除できる。

 

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