大阪プライム法律事務所

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国会の証人喚問と「証言拒否」

17.04.01 | ニュース六法

大阪府豊中市の小学校創設をめぐって国有地が破格の安さで売却されたことなどが問題となった『森友学園』問題が、大きくクローズアップされました。その籠池泰典理事長(当時)が、3月23日に衆参両院の予算委員会での証人喚問に応じ、合計で約4時間半も証言を行いました。

 

後ろには弁護士が控えていて、小学校の校舎建設にあたって金額の異なる3つの契約書を用意していた問題については、「刑事訴追を受ける可能性があるのでお答えすることはいたしません」と述べて証言を拒否しました。こういった証人喚問で、証言を拒否できるのは、どういった場合かご存知でしょうか。また、「記憶にございません」は許されるのでしょうか。いくつかの雑知識にお付き合いください。

■国会の証人喚問

日本国憲法62条で、「国会の各議院は、議案等の審査及びその他国政に関する調査のため、証人を喚問し、その証言を要求することができる」としています。いわゆる、「議院の国政調査権」です。これを具体化したものとして、証人喚問権を定めた「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律」(議院証言法)があります。

 

この法律に「各議院から、議案その他の審査又は国政に関する調査のため、証人として出頭及び証言又は書類の提出を求められたときは、この法律に別段の定めのある場合を除いて、何人でも、これに応じなければならない。」と定めています(第1条)。

 

この証人喚問権は衆参の「各議院」の権限とされており、衆参それぞれ独立して行使できます。実際は、各議院規則によって、委員会にその権限を行使させることとなっています。

 

■罰則

証人喚問を受け、宣誓した証人が「虚偽の陳述」をしたときは、3か月以上10年以下の懲役となります。

 

■証言拒否ができる場合

議院証言法4条で、以下の場合を明記して、宣誓、証言、書類提出を拒むことができるとしています。ただし、証人が証言などを拒むときは、その事由(理由)を示さなければならないとしています。籠池氏が、自分が「刑事訴追を受ける可能性がある」のでとして証言を拒んだのはこの規定によるものでした。

 

(1)自己又は次に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるとき

①配偶者、②3親等内の血族、③2親等内の姻族、

④自分がこれらの親族関係があつた者

⑤自分の後見人、後見監督人、保佐人、

⑥自分が後見人、後見監督人、保佐人をしている本人

 

(2)以下の者で、「業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するもの」

(注)本人が証言することについて承諾したような場合は拒否できません。

①医師、②歯科医師、③薬剤師、④助産師、⑤看護師、

⑥弁護士、⑦弁理士、⑧公証人、

⑨宗教の職にある者、

⑩これらの職にあつた者

 

■民事裁判・刑事裁判での証言との相違

民事裁判の場で、証人として呼ばれた場合、虚偽の事実を述べませんという宣誓をしますが、その上で虚偽の証言をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処されます(刑法169条)。この場合でも、国会の議院証言法と同じよう内容で証言拒否ができる規定があります。

ただ、親族や対象職種等の範囲がやや広くなっています。(配偶者・4親等内の血族・3親等内の姻族まで広がっていることや、これらの者の名誉を害すべき事項、公務員の職務上の秘密、技術又は職業上の秘密に関する事項なども含めています。)

 

刑事訴訟法での証言拒絶に関しては、ほぼ議院証言法と同じような範囲で規定されています。

 

■新聞記者の取材源に関する証言拒絶権

民事訴訟の場面では、NHK記者が民事裁判で取材源に関する証言を拒絶した問題で、最高裁判所は「報道関係者は原則として取材源にかかわる証言を拒絶できる」とする決定をしています(最高裁判所第3小法廷決定 平成18年10月3日)。

 

他方、刑事訴訟の場面では、新聞記者の取材源に関し、最高裁判所は、現行刑事訴訟法に証言を拒むことができる場合として列挙されていないことから証言拒否権は認められないとしています(朝日新聞石井記者事件、最高裁判所大法廷判決 昭和27年8月6日)。

 

■刑事被告人の黙秘権との違い

刑事被告人の場合は、「黙秘権」というのがあります。この権利は極めて強く保障されていて、黙秘することの理由を問うことも出来ないことになっています(刑訴法311条1項 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。)。

この点、国会での証人喚問では、証言を拒むときに理由を示さなければならないですが、この点は大きく違っていいます。

 

■補佐人とは何者か

籠池氏の後ろに控えていた弁護士は、「補佐人」と呼ばれる者です。

 

国会証人は、各議院の委員長等の承認を経て、宣誓・証言の拒絶に関して助言できる補佐人を選任することができ(議院証言法1条の4第1項)、弁護士から選出されるとされています(同法1条の4第2項)。

 

補佐人は、「証人の求めに応じて」、「宣誓及び証言の拒絶に関する事項」に関して助言することで、それ以上のことはできません。したがって、証人が補佐人からのアドバイスが欲しいときは、委員長の許可を得てから求めることになります。決して補佐人自身が発言することや、補佐人から積極的にアドバイスすることは認められていません。したがって、開始前にそのあたりを十分に打ち合わせしてから望む必要があります。

 

■一般人の証人喚問について

今回、籠池氏を証人喚問するに際して、「一般人を国会に証人喚問することはいいのか」ということが、当初、自民党などが喚問に反対する立場をとっていました。しかし、籠池氏が、総理大臣から寄付金100万円を受け取ったとメディアの前で発言したことで、「総理を侮辱した」とかの理由で、喚問に同意したように報じられています。かような理由で反対から賛成になるというのも変ですが、そもそも、一般人だから慎重にというのは、実はある理由があります。

 

それは、1950年に生じた「徳田要請問題」という事件での前例からです。この事件は、シベリア抑留から帰還した引揚者の一部が、「帰国が遅れたのは日本共産党書記長であった徳田球一の要請によるものだ」と主張した事件でした。これに関して、ロシア語通訳だった一般の学生が、衆議院・参議院の両院で証人喚問を受けました。その二回目の衆議院での証人喚問がなされた翌日に自殺しました。証人喚問が証人自身に極めておおきな精神的苦痛をあたえた事例として国会での記憶に残されていて、一般人に対する証人喚問には慎重にするという慣例が残ったわけです。しかし、堂々と、自己の主張を立て板に水を流すように述べた籠池氏の証言を聞いていると、この慣例も緩くなるかもしれません。

 

■「記憶にございません」

ロッキード事件の際の証人喚問で、国際興業社主であった小佐野賢治氏が「記憶にございません」を連発したことがありました。流行語にもなったほどのこの言葉は、理由をつけて答弁を拒否するわけでもなく、虚偽証言とされにくいことから、まことに使い勝手のいい言葉として、その後多くの証人が用いるようになりました。議員の鈴木宗男氏が証人喚問された場合も「記憶にございません」を連発していました。

 

訴訟での法廷証言の場でも、ときどき出てきます。最近では、野々村元兵庫県議の刑事裁判で、この言葉が何十回も飛び出したとのことでした。刑事事件で被告が使いすぎると逆効果になる事例と言えそうです。

 

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