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公益法人理事に前科発覚で公益認定取消し(役員の欠格事由)

17.05.01 | 非営利・公益

埼玉県は、公益社団法人入間市シルバー人材センターに対して、3月31日に公益認定を取り消しました。処分理由は、「平成24年2月に刑法第235条(窃盗)の罪により懲役1年6月の判決を受け、刑が確定し、平成25年7月に刑の執行を終えた者が、刑の執行を終わった日から5年を経過しない日に法人の役員に就任した」ということからでした。

 

これは刑の執行を終えてから5年を経過しない者は役員になれないという、公益認定法の定める欠格事由(公益認定法第6条第1号ハ)に該当していたために、同法29条第1項第1号での公益認定の取消しとなったものです。この法人は、この理事が刑の執行を終えて5年を経過していないことを知らなかったようですが、埼玉県は法を厳格に適用したようです。

 

公益認定を取り消されると、一般社団法人としては存続しますが、公益法人のステータスに伴う名誉や税制上の恩恵が失われることになります。さらに最も厳しいのは、公益認定の取消しの日から1か月以内に、公益目的で取得した財産の残額を、類似の事業を目的とする他の公益法人か、国や地方公共団体などに贈与しなければなりません。また、今後5年間は、公益認定の再申請ができません。このような事態は、実はどこの公益法人にも起こりうることと言えます。法人としては、どうすればよかったのでしょうか。

■公益認定の取り消しとは

公益認定取り消しになる場合は、強制的に取消しになる事由と、行政庁の裁量で取り消される場合とがあります。

 

強制的取り消し事由(公益認定法第29条第1項)の中に、「理事、監事、評議員のうちに禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者」がいる場合というのがあります。今回の入間市シルバー人材センターは、この理由で公益認定が取り消されました。

 

この取り消しに至るまでの経緯、特に、埼玉県がどういったことから、窃盗で刑を受け終わった人物が理事になっていると知ったのかなど、気になる点はあります。

 

■「禁固以上の刑を受けた場合」とは

刑罰には重い順に「死刑、懲役、禁固、罰金、拘留、科料」があります(刑法9条)。行政法規違反に対する「過料」は刑罰ではありません。このうち、重い順で上から3番目までが禁固刑以上の刑となります。死刑はともかく、実質的には懲役刑と禁固刑となります。

これらの刑の言い渡しを受けて確定すれば、その罪名に関係なく、刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年間は欠格となります。

 

■「刑の執行を終わり」とは

これは、文字通り、禁固以上の刑を終えて刑事施設から出てきた日を言います。判決確定後から欠格は始まり、入所期間中だけでなく、刑を終えた日からさらに5年間は欠格となります。

 

■「刑の執行を受けることがなくなった日」とは

以下の3つがあります。

①仮釈放(刑法28条)後の残刑期間経過した日

②刑の時効成立(刑法31条)した日

③恩赦法による大赦、特赦、刑の執行免除となった日

これらの事由が生じたときから5年間は、欠格があることになります。

 

①の仮釈放(いわゆる仮出所)とは、改悛の情がある場合、有期刑では刑期の3分の1(無期刑では10年)を経過したときに地方更正保護委員会の判断により仮に釈放されます。その場合には、仮釈放を取消されることなく、残りの刑期を無事に経過すれば、刑の執行が終了したものとなります。つまり、「刑の執行を受けることがなくなった日から5年間」とは「残刑期がすべて終了した日から5年間」という意味となります。

 

②の時効(公訴時効)とは、犯罪行為が終わったときから一定期間が経過することにより、検察官が公訴提起(起訴)することができなくなるという制度です。そのため、時効が完成した日が「刑の執行を受けることがなくなった日」に該当すると解釈されています。つまり、時効完成の日(=刑の執行を受けることがなくなった日)から5年間は欠格となります。

 

■執行猶予期間の経過について

結構、勘違いが多いのですが、「執行猶予期間の経過」の場合も、そこから5年待つ必要があるという誤解があります。これは、執行猶予期間が経過した場合は、「刑の言渡しは効力を失う」(刑法27条)とされていて、判決の言い渡し自体が無かったことになり、その経過と同時に欠格ではなくなります。

 

ちなみに、執行猶予とならず実刑となった場合は、執行終了等から10年間を経過した時点で、刑の言渡しが失効します(刑法34条の2第1項前段)。

 

■罰金刑の場合

今回の公益認定取り消し事例は、「禁固刑以上の刑」を受けた者に関する取消事由でしたが、暴力や背任など法律で定めた一定の範囲の犯罪については、「罰金刑」であっても、刑の執行を終わった日(または刑の執行を受けることがなくなった日)から5年間は、欠格事由となります。

 

その犯罪の範囲は、公益認定法上の刑罰、一般法人法上の刑罰、一定の刑罰法規違反(傷害罪、現場助勢罪、暴行罪、凶器準備集合罪、脅迫罪、背任罪、暴力行為等処罰法違反など)、一定の税法違反などで罰金以上の刑に処せられ、執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者も公益認定の欠格事由となるとしています(認定法6条1号ロ)。これは、公益法人の存否にかかわる法律や悪質な税法違反などは、高い社会的信用が求められる公益法人にあって重大な非違行為であることから、特にこれに係る罰金刑を受けたことを欠格事由としたものです。

 

罰金の場合は、金銭を納付することが執行にあたるので、「刑の執行を終わった日」とは罰金を納付した日となるので、罰金刑が確定したあと、納付した日から5年間経過までが、欠格事由となります。

 

■具体的事例

(1)懲役刑の執行猶予期間満了から2年経過

執行猶予期間が満了した時点で刑の言渡しが失効しているので、そもそも「禁錮以上の刑に処せられ」た者にあたらず、役員の就任に制限はありません。

(2)懲役刑で服役し、その執行終了から2年経過

「禁錮以上の刑に処せられ」た者に該当し、まだ執行終了から5年経過していないので、役員に就任してはなりません。

(3)懲役刑で服役し、その執行終了から6年経過

既に執行終了から5年以上経過しているので、役員の就任に制限はありません。

(4)懲役刑の執行終了から11年経過

既に執行終了から5年以上経過している上に、10年以上も経過しているので、そもそも「禁錮以上の刑に処せられ」た者に該当せず、役員の就任に制限はありません。

(5)背任罪で罰金刑を受けて、罰金を納付後2年経過

これは、罰金刑ではあるが、認定法6条1号ロでの対象となり、5年経過をしていないため役員に就任してはなりません。

(6)窃盗で罰金刑を受けて、罰金を納付後2年経過

これは、罰金刑ではあっても、窃盗罪は認定法6条1号ロでの対象となっていないため、役員の就任に制限はありません。

(7)道路交通法違反で反則金を納めてから2年経過

そもそも反則金は交通違反行為をした者が、刑事訴追を免れる代わりに金銭を国庫に納付する制度であって、罰金とは違っているため役員の就任に制限はありません。

(8)道路交通法違反で罰金を納めてから2年経過

道路交通法違反での罰金は、認定法6条1号ロでの対象となっていないため、役員の就任に制限はありません。

 
■対策について

理事を依頼する際に前科の有無やその時期、刑の内容まで聞くのは、なかなかできることではありません。他方、こっそりと調べるのも困難ですから、問題は深刻です。5年以内に刑の執行を受けていないことの証明と言っても、結局は本人の申告によらざるを得ないのが現実で、誓約書を提出してもらって真実性を担保するのがせいぜいですが、それでもそういう書面を出させることで担保するのが防御策としては最低限必要でしょう。それでも虚偽を述べられた場合はどうしようもありません。しかし、そういった対策をしながらでも、事実として欠格事由のある役員がいただけで直ちに取消となるのは、厳しすぎる気もします。制度的には、法人が分かりながらあえて役員に選任していた場合に限るようにすべきかと思いますが、法人としては十分に気をつけないとなりません。

 

なお、欠格事由が発生したときは自動的に失職する旨の定款規定の導入を推奨する意見もあるので参考にされてはどうでしょうか(全国公益法人協会「非営利法人」2010年8月号 星さとる氏)。

 
(2017年5月1日午後5時 一部加筆修正)

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