TFSコンサルティンググループ/TFS国際税理士法人 理事長 山崎 泰

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『ふるさと納税』の出発点って!?~本来の趣旨を、立ち止まって考えてみたい~

17.05.15 | 税務・会計

■ “ふるさと”は「遠きにありて想うもの」

私ごとで恐縮ですが、私の生まれ育った東京都新宿区が今年、成立70周年を迎えました。
ちょうど2ヶ月ほど前、3月15日に行われた70周年記念式にも出席したかったのですが、ちょうど確定申告最終日と重なってしまい、さすがに仕事柄、どうにもならずやむなく欠席。。。

生まれ育った自治体に想いを馳せる貴重な機会を逸してしまっただけに、せめて想いだけでも“ふるさと”に寄せてみようと、こうして綴っている次第です。

東京で生まれ育った私や子ども達にとっては、“ふるさと”に郷愁を感じる機会も少なく、“ふるさと”というもの自体に、かなり鈍感になってしまっているようにも思えます。

“ふるさと”に、無意識に飢えているのでしょうか。

日曜日昼のNHKのど自慢は、ひそかな楽しみのひとつです。
それぞれの地元で“ふるさと”を背負って歌っている姿を見ているだけで、自分にはない“ふるさと”を感じて、かなり感動してしまうのです。

かつて、早大のお膝元・新宿区に「新宿稲門会」なる名称の稲門会がない疑問を、当時の早大総長にぶつけてみたことがあります。

その時の、総長曰く。。。「ふるさとは遠きにありて想うもの」

あまりにも近くにあり過ぎて、有難みが薄いという意味なのか、果たしてどういう真意なのか分からずに時を過ごすうちに・・・
城西稲門会が「新宿稲門会」に改組され、今では名実ともに地元の雄として大きな組織となっています。

もしかしたら、私のひと言が、少しだけ刺激になったのかもしれません??


(つづく)

■ “ふるさと”を思い出させてくれた“ふるさと納税”

しかしそんななか、この数年来、俄然“ふるさと”という言葉を意識するようなきっかけになったのが、
“ふるさと納税”でした。

どこが“ふるさと”
エッ、寄付する先は、自分が生まれ育った“ふるさと”でなくてもいいの?
それじゃ、どこの“ふるさと”にする??
どんな想いで、どんなつながりがある“ふるさと”を選ぼうか???

“ふるさと納税”が創設された当時は、
そんなウキウキするような気持ちで“ふるさと”に想いを馳せていたように思うのです。

しかしながら、制度スタートから10年近くが経ち、
制度そのものの定着と相反するように、
“ふるさと納税”のあり方自体が、かなりズレてきてしまっているのでは、と指摘する声が聞こえてきます。


■ 日本全国いつでもどこでも、我が“ふるさと”

そもそも“ふるさと納税”は、
生まれ故郷やかつて住んだことのある街などに寄付した場合、
一定額を住民税・所得税から控除できることで、
寄付者の負担を増やさずに、都市部に集まりがちな税収を地方へ還流できる仕組みとして
2008年に導入された制度です。

どこを“ふるさと”と考えるかは納税者の自由な意思に任せるという発想で、
“ふるさと”は日本全国とすることになった経緯があります。

生まれ育った地域や住所地であるかどうかにかかわらず、
日本全国いつでもどこでも、我が“ふるさと”として寄付することができるようになったのです。

もちろん、同時に複数の“ふるさと”を選んで、寄付することも可能になりました。


■ ブームのように、ふくらみ続けた“ふるさと納税”


“ふるさと納税”を活用した寄付金額は、年々増加の一途!。

2015年には、控除額の上限が引き上げられたこともあり、
前年度の約4.3倍にもなる約1,653億円にまで急増!!
2016年には、2,000億円をも突破!!!

最近、話題になった千葉県勝浦市では、
2016年度のふるさと納税寄付額が、約29億7千万円と、
前年度のナント約20倍!を記録したというのです。

このうち9割超の返礼品は、高い返礼率で話題を集めた商品券「かつうら七福感謝券」
この商品券は今年2月に廃止を発表したのですが、
発表した2月だけで約10億円分の駆け込み需要?ならぬ駆け込み寄付!

この商品券は、昨年4月から取り扱いをスタート。
1万円を寄付すると7千円分を返礼してくれるのが話題になり・・・
それまでは毎月約5千万円の申込だったのが、
昨年10月には1億円、12月には11億円に。
今年1月は1億2千万円、そして2月中旬に取り扱い中止を発表すると、
かえってまた申し込みが殺到する事態に。


■ “ふるさと”を思い出させてくれた“ふるさと納税”

“ふるさと納税”制度による税収増を目指して、
自治体のユニークな目玉商品が注目を集めるいっぽうで、
“ふるさと納税”による減税に苦しむ自治体も出始めているのも事実です。

そんな都心区の一例という意味で、新宿区の現状を少しだけご覧いただければと思います。

2015年、“ふるさと納税”を行った人数は9,436人。
前年の3,110人に比べて、なんと3倍以上の伸び率。
2016年度における“ふるさと納税”による区の減収額は約6億6,800万円。
前年度が約1億2,200万円だったことと比べると、約5億5千万円の大幅減収。

それでは、新宿区への“ふるさと納税”寄付金額の現状は?というと・・・
新宿区民87名から361万7千円、新宿区民以外からは349名、1,175万円。

増減収額の差がなんと45倍、金額にして一ケタも異なる現状です。

東京都の23区長会では、“ふるさと納税”制度が行き過ぎとの認識で、
東京都と連携して、地方財源不足の根本的解決策にはならない旨を、
税源の偏在是正措置とも併せて、国に対して意見として伝えているとのことです。


■ 総務省が通知を出すまでに、自治体間競争が加熱

確かに“ふるさと納税”は、
都市部に集まりがちな税収を地方へ還流するという
一定の効果は果たしているようにもみえます。

しかし、税収の歪みよりも、制度そのものが歪んでしまっては、
本末転倒です。

今年4月1日、“ふるさと納税”の返礼品を
寄附額の3割以下に抑えるように、
総務省が全国の地方自治体に通知を出した経緯は、
制度そのものの歪みを懸念した現れでしょう。

近年、地方自治体の競争があまりにも過熱して、
“ふるさと納税制度”の本来の趣旨・目的に反するような高額の返礼品が送られていることが、
その背景にあります。

さらに通知では、「金銭類似性の高いもの」や「資産性の高いもの」は
返礼品として送付しないことも求めています。
金銭類似性の高いもの(プリペイドカード、商品券、電子マネー・ポイント・マイル、通信料金等)や、
資産性の高いもの(電気・電子機器、家具、貴金属、宝飾金、時計、カメラ、ゴルフ用品、楽器、自転車等)、
価格が高額のものについても、返礼品として扱わないように求めているのです。


■ 本来の趣旨を、立ち止まって考えてみたい

やはり本来の趣旨を、一寸立ち止まって、考える時期に来ているように思います。
何がしかの縁や魅力を感じる“我がふるさと”に想いをめぐらせながら・・・
地方活性化のために、自発的な無理のない善意の寄付で
地方財政を助けていくというもの。

そもそも、寄付をするということ自体、自発的なものです。

決して、自治体の返礼品競争に煽られてするものでもないように思います。

“ふるさと納税”を活用した寄付を募る自治体側も、返礼品で競うのではなく、
地域振興や課題解決に向けて、自治体を広く知ってもらう好機と捉えて欲しいものです。

ふるさとを想う善意の寄付の輪を広げて、地方を活性化させる・・・
そんな素晴らしい発想でスタートしたふるさと納税“制度!

高額返礼品がなくなった途端に、寄付金額が大幅減少?!?

“ふるさと”を想い出させてくれる、日本人の温かい善意の心に期待して始まった制度が、
よもや・・・そんな“金の切れ目が縁の切れ目??”的なことにだけはならないように、
心から願うばかりです。


      平成29年(2017年)5月
                     山  崎   泰

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