TFSコンサルティンググループ/TFS国際税理士法人 理事長 山崎 泰

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「撤退」とは、「他日を期す」こと(松下幸之助翁)---今月のメッセージ(11月号)

14.05.30 | 【バックナンバー】山崎泰の月刊メッセージ(2014年5月まで)

2010年11月5日02:07:00

「撤退」とは、「他日を期す」こと

●世間が驚いた、大型コンピューター事業からの撤退

 1964年(昭和39年)10月、電機業界が驚くような撤退劇がありました。 
 まさに東京オリンピックが開催された同じ年月、日本の高度成長とともに新規技術開発が注目されていた時でした。 
 
 なかでも注目されていたのが、大型コンピューター。 
 松下電器も、松下通信工業を中心に量産化を目指して5年前から研究開始。 
 それまでにつぎ込んだ研究費は、すでに10数億円。試作品は実用化の段階まで進み、この時期にはフィリップス社(オランダ)と提携して、新会社を設立する準備まで進んでいたのです。 
 
 成長分野ということで、さらに電機業界7社がそれぞれ2億円を出し合い、日本電子計算機株式会社を設立し、より高性能な機種に向けた共同開発も始まっていました。 
 丁度そんな折、米国チェース・マンハッタン銀行副頭取が来日。松下電器の松下幸之助翁と面会するのです。

副頭取 「松下さん、あなたの会社は電子計算機を出がけているそうですが?」 

松 下 「難しい仕事なので、慎重に手がけています」 


副頭取 「ところで、日本に電子計算機メーカーは何社ありますか?」 


松 下 「一流メーカーとしては、7社ですな」 


副頭取 「私の銀行は世界中にカネを貸していますが、電子計算機メーカーは経営が思わしくない。米国でも、IBMやGMなど数えるほど。ましてIBM以外は衰退してきている」 

   「日本に7社もあるのは、多すぎると思いませんか」

●『素直な心』で判断することが大切や

 以前から、電子計算機分野への進出競争の過熱ぶりに一抹の不安を抱いていた 松下幸之助会長の心にピンとくるものがあったといいます。

松 下 「確かに、多過ぎますな。我々のような総合メーカーが片手間にやるよりも、2、3社の専門メーカーがやる方が電算機事業の発展のためにもよいと思いますな」 

副頭取 「松下さん、あなたのお考えはとても賢明だと思います」

 松下幸之助会長のこの判断により、松下電器は大型コンピューター事業への進出中止を決定したのです。 
 確かに大きな投資をしてしまっている。ここで松下電器が撤退を表明すれば、投資金額的にも、またさらに世間体という面でも大きなダメージを受けかねない。 
 
 しかし、松下幸之助翁はきっぱりと徹底を決断したのです。 
 経営に、意地やとらわれがあれば、必ず判断を誤る、と常々自戒してきた松下幸之助翁。

 「意地になってはいけない。素直な心で、自らを見つめ直さなければいけない。批判は甘んじて受けよう。」

 決断からわずか一年後、この撤退は結果的には正しい経営判断だったと、賞賛されることとなるのです。

 「傍目八目というけれど、渦中にいる自分にはなかなか自分というものが分からない。だからこそ、素直な心で見るということが大事や」

 

●孟子曰、『天時不如地利。地利不如人和』

 私ごとで恐縮ですが、これまで多くの皆様のご支援を頂いて、自治体経営者と しての改革に挑戦すべく、事業経営と並行して様々な活動を進めて参りました。
 職業会計人として納税者の代理人を務める中で、納税後の税金の使いみちをも徹底してチェックし、変えていくことが、納税者の願いに叶う道との思いが原点にありました。   

 しかしながら、政党等との調整含めて諸条件が整わず、この挑戦は他日を期すという決断をいたしました。 
 まさに渦中にいる私としては、苦渋の決断でしたが、人生経験豊富な尊敬する多くの事業経営者はじめ皆様方からのアドバイスは、まさに松下幸之助翁の理に適うものであり、大きな財産でした。 
 意地になっていたとしたら、別の判断をしていたかもしれません。

 とりわけ短い時間の中での活動は、「天の時」「地の利」よりも大切な「人の和」を築き上げるには、あまりにも時間が短か過ぎました。 
 ご理解・ご支援を頂いて参りました皆様には、心よりお詫び申し上げます。 
 しかしながら、これから事業経営者や地域の皆様とともに歩むにあたっても、「人の和」の大切さを心の底から痛感することができたことは、何にもかえ難い経験でした。

 実は、「撤退とは、他日を期すこと」という松下幸之助翁の言葉は、前原誠司外相がかつて民主党代表を辞任する際、最後の「次の内閣」閣議冒頭の挨拶の中でもふれているのです。

 私の恩師の一人、松下幸之助翁の言葉に、撤退は他日を期すという言葉がございますが、次には「次の」という言葉を除いて、本当の内閣でともに仕事ができる日を、そう遠くない日が来ることをしっかりと期して、また一から出直して頑張らせて頂きたいと思います。

 松下政経塾以来の同志でもある前原外相も、この言葉を胸に刻みながら、まさに他日を期されたのだろうと思います。 
 私などは及ぶべくもありませんが、しっかりとこの言葉だけは胸に刻んで日々努力して参りたいと思います。

 何卒、今後ともご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

平成22年(2010年)11月

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