税理士法人SKC

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「日伊国交150周年祝祭オペラ」を観賞

16.09.26 | 堺俊治の独り言的情報

 今月22日、北九州シティオペラ主催の日伊国交150周年祝祭オペラコンサートを観賞しました。北九州市に於いてオペラを定期に公演できる団体(NPO法人)の存在は、文化砂漠の地という言葉も聞かれた都市である当地にとっては稀有な存在であり、25年以上に渡り当地で活動されてきたことは北九州市民にとって誇りと出来ることでもあるように思います。今回の公演はイタリアからの歌手や指揮者、舞台監督などが参加して催されてもので、素晴らしいオペラ公演でした。

 演目は、プッチーニ作曲「ジャンニ・スキッキ」とマスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ」でした。ここで皆様にご紹介したいのは「ジャンニ・スキッキ」ですが、この作品は14世紀に繁栄を極めたイタリアのフレンツェが舞台で、大富豪の遺産相続をめぐる相続人の騒動をテーマにした喜劇仕立てのオペラです。

 大富豪の被相続人の遺産が、当然に自分たちに配分されると思っていた相続人である9人親族が、莫大な遺産が全て修道院に寄付すると遺言書に記載されているのを知って、公証人を欺いて、遺言書を書き直して遺産を取り戻そうとする話です。最後には、欺いたつもりが欺かれて莫大な遺産を失ってしまうという結末を迎えます。全編イタリア語ですが、字幕入りで喜劇なので内容も分かりやすく、歌曲も心地よく楽しく観賞できました。しかしテーマであるこんな遺産相続のトラブルは、もちろん14世紀というかなた昔から存在したのでしょうが、こんな昔から遺言の公証制度が既に設けられていたということは、この時代からいわゆる争続事件が多かったということなのでしょうね。

 私もこれまで相続の案件は数多くお手伝いしてきましたが、幸いなことに、このオペラの結末のような経験をしたことはありません。しかしながら、相続人間での揉め事には数多く出会ってきました。ですから、このオペラのテーマが身近でないという訳ではないのです。わが国では昨年から相続税法の改定が行われ、今後は課税対象者が倍くらいに増加するといわれていますが、私どもが相続の相談をお受けしてもっとも難題と感じることは、相続税を下げることではなく、遺産をどのように分けるかということの方です。もちろん、相続税の税額軽減することや納税資金の対策も重要ですが、最後の最後で揉めてしまって、相続税の申告期限までに、遺産を分けることが出来ないと、相続税の申告は法的には未分割遺産という状態で申告することになります。わが国の相続税法は、遺産が未分割でも相続税を申告し納税しなければなりません。私どもの体験でも申告期限までに分割出来なかったという例は何件もあります。未分割遺産の相続税の申告で厄介なことは、最も軽減を受ける税額が大きい「配偶者の税額軽減制度」や「小規模宅地の特例」の適用が受けられないということです。その結果、分割が終わっていれば、殆ど納税額が生じない場合でも、多額な相続税を納税せざるを得ないという事例が多々あります。申告後3年以内に分割が出来れば、その後に納税額を取り戻すことは出来ますが、揉めたままで分割の確定がなされないと、不適切に多額に払った税金を取り戻すことが出来ないという結果になります。

 そこで、最初のオペラの話に戻るのですが、遺産を分ける上で、争続を避ける最も有効な対策とは何かということで、それが遺言書の作成という訳なのです。わが国でも、もちろん公証制度がありますし、他にも法的に効力を持たせる遺言書の作成方法もあります。ただし遺言書に記しておけば全て大丈夫かと言えば、そういう訳でもありません。最近は遺留分の減殺請求の例も多く、遺言書を作成する際にはある程度、相続の法律的な要件なども調べておく必要はあります。相続税は掛からないから遺言書は関係ないではなく、相続税の対策は必要なくても、争続対策には、まず遺言書の作成をしておきましょう。皆様のご親族には、オペラの登場人物のような親族は居ないし、揉めるほどの財産もないと言われるかも知れませんが、皆様に不測の事態が起きた際、皆様が大切に保管してきたコレクションの数々、書架骨董といわないまでも絵や書籍、時計やオーディオ関係、楽器やレコードなどは、遺族にとっては大概が処分に困る遺物ではないでしょうか。これらの処分方法も遺言書の中に記しておいてはどうでしょう。また、最近よくありますのは、遺産は被相続人(亡くなった方)が住んでいた持ち家しかないという場合でも、いざ相続となると争続になったりもします。かつての様な家長制度の慣習が全く無くなった現代では、相続人間で遺産を分けるということが、いかに繊細な事柄となっているかということの表れだと思います。

 最近は、書店やネットで「エンディングノート」という遺言書を記載できる書式のノートも販売されています。私も1年に1度くらい充分に時間をとってエンディングノートに向き合う歳になっているなあとつくづく実感するこのオペラ観賞でした。

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