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取締役が背任行為? 株主が要求できる会計帳簿の閲覧について

20.07.07 |

会社法は、取締役が会社の財産を不正に使用するなどの違法行為を行った場合、株主が取締役に対し、『違法行為の差止請求』『取締役の責任追及(損害賠償請求)の代表訴訟の提起』『取締役の解任請求』といった手段を用いることを権利として保障しています。
もっとも、それらの権利を十分に保障するためには、調査のうえ、取締役の不正行為を立証するための証拠を株主が事前に取得することが必要になります。 
そのために会社法が株主の権利として与えたものが『会計帳簿閲覧謄写請求権』です。 
今回は、この会計帳簿閲覧謄写請求権について説明します。

『会計帳簿』とは何を指すのか

そもそも、会社法が閲覧謄写を認めているのは『会計帳簿又はこれに関する資料』です。

この『会計帳簿』とは、計算書類およびその附属明細書の作成の基礎となる帳簿のことを指すと考えられており、主要簿と補助簿に分かれています。
それぞれ以下のものが該当します。

【主要簿】
●総勘定元帳
●仕訳帳

【補助簿】
●補助記入帳
現金出納帳、預金出納帳、固定資産台帳、売掛金に関する売上明細補助簿、仕入帳など
●補助元帳
仕入先元帳、得意先元帳など

次に、『これに関する資料』とは、会計帳簿作成の材料となった資料のこととされており、具体的には、伝票、受取証、契約書、信書等をいいます。

これらの資料はデータで保管しているケースが多くありますが、このデータは本来、会社で保管しておかなければならないものです。
しかし、総勘定元帳以外は、会社が顧問契約している会計事務所等には保管されているものの、会社には保管されていないことがあります。
これらの資料について、株主から閲覧謄写請求を受けた場合、原則として会社は開示しなければならないので、その場合は、会計事務所等から帳簿資料を取り寄せる必要があることに注意しましょう(データから取り出すだけなのですが、会計事務所が繁忙期だとすぐにデータをもらえないときもあります)。


会計帳簿閲覧謄写請求を行えるのは誰?
 
会計帳簿閲覧謄写請求を行えるのは、総株主の議決権の100分の3以上、または発行済株式の100分の3以上を有する株主です(なお、この100分の3という数字は、定款で引き下げることは可能です)。
親会社の社員でも、親会社の総社員の議決権の100分の3以上を有する社員は、裁判所の許可を得て子会社の会計帳簿の閲覧謄写請求が可能です。
なぜなら、親会社の取締役が子会社を利用した不正行為をするのを防止する必要があるからです。


閲覧請求は拒否できる?

株主が閲覧謄写請求を行ったとき、会社側は以下の場合、閲覧請求を拒否できます。

(1)当該請求を行う株主が、その権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
(2)請求者が、当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
(3)請求者が、当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき。
(4)請求者が、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
(5)請求者が、過去2年以内において、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

実際には、(3)の場合、すなわち、閲覧謄写請求を行った株主が、実はほかの会社の役員を兼任のうえ、会社と競業する業務を行っていながら、会計帳簿の閲覧謄写請求をしてくるという事例が多くあります。
この場合、判例は、閲覧謄写請求を行った株主が会社の利益を害する意図は不要で、客観的に競業の事実さえあれば閲覧謄写請求を拒否できると考えています。

なお、株主が、裏で競業を行いながらも会計帳簿の閲覧謄写請求をしてくる場合、競業の事実を立証するための証拠を取得するのは容易ではありません。
仮に、株主が取締役になるような場合などは、会社のメールサーバー内を確認し、その取締役が競業に関するメールのやりとりを他社と行っているか等を見定める必要があります。


会計帳簿の閲覧謄写請求は慎重に

会計帳簿は、会社の取引先の情報や、会社の内部資金の動きが記載されたものであり、悪用される危険性もないとは言い切れません。
また、会計帳簿として閲覧謄写請求がなされても、どこまで開示し、またどこまで開示を拒否できるかは裁判官によって判断が分かれることもあります。
会計帳簿の閲覧謄写請求が問題となった際は、開示する資料の範囲につき、専門家の意見を聞き、慎重に判断することが望ましいでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年7月現在の法令・情報等に基づいています。

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