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倒産しても企業の責任は残る? 従業員に認められる『労働債権』とは

23.05.30 |

事業を続けていれば、倒産といった事態に陥ることもあるかもしれません。
しかし、倒産したからといって、従業員に対する企業の責任がなくなるわけではありません。
たとえば、未払いの賃金は『労働債権』といい、倒産しても支払う必要があります。
今回は、労働債権の概要と倒産手続きによって変化するその優先順位などについて解説します。

企業倒産後の従業員を守る労働債権

事業が継続不能に陥り、企業が倒産すると、従業員は働く場を失うことになります。
倒産という事態になれば、給与や退職金を支払う余裕がない場合もあるでしょう。
そのような場合に、従業員の給与はどうなるのでしょうか。

従業員にとっては賃金を受け取る権利、企業にとっては賃金を支払う義務を『労働債権』といい、労働債権は倒産手続きにおいて、ほかの債権に対して優先して保護されます。
労働債権以外にも倒産手続きにおける従業員への支払いに関する債権には以下のようなものがあります。

●労働債権
企業が倒産するような状態では、給与などの賃金を支払う余裕もないことが通常です。そのため、『未払い賃金等請求権』が従業員に認められています。

●退職金債権
退職金にかかわる債権です。退職金のある企業の場合、退職金債権も保護の対象となります。

●解雇予告手当債権
従業員を解雇するためには、原則として解雇予告が必要です。解雇には、一定の予告期間が必要ですが、手当を支払うことで短縮可能となっています。倒産するような状態の場合、倒産前に人員整理を行うケースもあるでしょう。その際、解雇予告手当が発生したものの支払われていなかった場合、従業員の債権として保護されることになります。


労働債権保護の優先順位が下がることも

企業が倒産した場合、労働債権以外にもほかの権利者がいたり、未払いの税金や社会保険料が存在することは珍しくありません。
企業の資産が少なければ、全ての債務を弁済することは困難なため、倒産手続きの種類によって、債権の優先順位が設定されています。
各手続きにおける労働債権の優先順位は、次の通りです。

●会社更生手続き
会社更生手続きにおける労働債権は、納期未到来の税金と同じく最優先で扱われ、抵当権つきの債権よりも優先されます。ただし、全ての労働債権が同じ扱いを受けるわけではなく、手続き開始前6カ月以降の給与に限ります。

●民事再生手続き
民事再生手続きにおいて、労働債権は抵当権つきの債権に次ぐ順位になります。そのため、税金や社会保険料と同じく、一般債権より優先的に支払われることになります。

●破産
破産における労働債権は、破産手続き開始3カ月前の未払い賃金に限って、抵当権などの被担保債権に次ぐ優先順位で扱われます。そのほかの未払い賃金は税金などの支払いよりも下位の扱いとなります。

●任意整理
任意整理においても、労働債権は、一般債権より優先されます。しかし、抵当権つきの債権や税金の優先順位より低い順位です。

上記の説明の通り、労働債権は原則として、担保のない一般債権より優先して扱われます。
しかし、経営状態の悪化により倒産した企業は、支払う資力がない場合もままあります。
そのような場合には、従業員に対して『未払賃金立替払制度』も用意されています。

未払賃金立替払制度は、未払賃金や退職金の8割を、企業に代わって国が支払う制度です。
労災保険の『社会復帰促進等事業』として行われ、制度の実施主体は、独立行政法人労働者健康安全機構となっています。
立替払を受けるには、倒産した企業が1年以上事業を継続しているなど、一定の条件を満たすことが必要です。
また、従業員の退職時の年齢に応じて88万円から296万円の上限額も設定されています。

従業員を守るためには、できるだけ倒産や破産といった最悪のケースを避けたいのはいうまでもありません。
しかし、不測の事態に備え、倒産手続きにおける労働債権の優先順位についても理解しておくことをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2023年5月現在の法令・情報等に基づいています。

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