大阪プライム法律事務所

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音楽家支援の楽器税務処理に失敗 CoCo壱番屋創業者

19.07.07 | 非営利・公益

「カレーハウスCoCo壱番屋」創業者の宗次徳二氏は、自己の資産管理のために「ベストライフ」という会社を持っていて、同氏が2007年に設立したクラシック専用音楽ホール「宗次ホール」の運営や管理をしています。その会社が、名古屋国税局の税務調査を受け、法人税約20億円の申告漏れを指摘されたことが、今年の6月に大きく報道されました。

あのイタリア製バイオリン「ストラディヴァリウス」などの超高額楽器などを購入したが、本来は減価償却できないこれらを減価償却していたという税務上の誤りがあったということです。有能なバイオリニストにストラディヴァリウスなどを貸与するなど、クラシック音楽への多大な貢献をしている中で、どうしてこのようなことになったのでしょうか。

■どういうことか
過少申告加算税を含む追徴税額は約5億円で、既に納付したようです。
ストラディヴァリウスなど希少価値の高い楽器は、購入後年数を経ても価値が下がりません。そのため、本来は減価償却が認められないのですが、同社はこれら高価な約30丁を誤って経費として計上していた点での申告漏れが指摘されたということでした。宗次氏は「当時の顧問税理士に楽器を『減価償却できる』と言われ、税の知識が無く信じてしまった。」と反省しているとも報じられています。 

■減価償却について
クラシック音楽に用いる楽器などは高額なものが多くあります。楽器に限らず、10万円未満のものならば、何も考えずに「消耗品費」として経費処理できますが、10万円以上の備品は「減価償却」という特別な処理をしないと経費にできません。

例えば、100万円の楽器を購入した場合には、一括では経費にできませんが、国税庁の耐用年数表で「音響機器の減価償却は5年で計算」するとしているので、5年間かけて分割に毎年20万円ずつを経費にできるようになっています。これが「減価償却」というものです。これによって、毎年の収入から20万円ずつ経費控除できるので、その分だけ税金が安くなります。この点は、さらに細々と税務規定があるので、詳細は税理士などの専門家にお聞きください。 

■減価償却できないものについて
今回、問題となったように、古美術品のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないものなど、希少価値の高いものは、何年たっても価値が下がらないことから、通達で減価償却の対象外となっています。この点を失念して、ストラディヴァリウスなどの高級楽器を減価償却してしまっていたので、今回のようなことになったという次第です。 

【参考】減価償却が認められない資産(法人税法基本通達7-1-1)
(1)古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないもの
(2)(1)以外の美術品等で、取得価額が1点100万円以上であるもの(時の経過によりその価値が減少することが明らかなものを除く。)

このような細かい通達があるのですが、確定申告全般に言えることですが、減価償却ができるかできないかの線引きは、きわめて曖昧で、ときには税務当局と意見相違が出てくる場合もあります。ただ、さすがに今回のような超のつくような高級楽器については、勘違いしていたでは通らなかったようです。宗次氏は自らの生活は質素で、シャツは980円のものでいいと言っているそうで、そのような性格からして、故意的に税逃れをしたわけではないと思われますが。 

■宗次氏について
宗次徳二氏は、株式会社壱番屋(カレーハウスCoCo壱番屋)の創業者ですが、両親は不明で、生後まもなく兵庫県尼崎市の孤児院で育ち、3歳のときに雑貨商をしていた養親と養子縁組みするも、その養父母の生活も不安定で、雑草を抜いて食べるほど困窮した生活を送りながら、各地の廃屋を転々とし、同級生の父が経営する豆腐屋でアルバイトしながら学費、生活費などを稼ぎ高等学校商業科を卒業したという非常なる苦労人で有名です。

卒業後、不動産会社に勤務したあと、大和ハウス工業名古屋支店に転職した際に、同僚だった女性(直美氏、のちに株式会社壱番屋社長・会長・相談役)と結婚。その後独立して自宅宅で不動産仲介会社を開業したが、収入が不安定だったために、名古屋で妻と喫茶店を開業。そこで妻・直美が作ったカレーが人気を呼び、カレー専門店への転身を決断して、1978年(昭和53年)に『カレーハウスCoCo壱番屋』を創業し、その後全国展開に至ったというまさに立志伝中の人物です。2015年にハウス食品グループ本社が壱番屋の51%の株式を保有し子会社化することを発表し、23・17%保有していた宗次夫妻はその株すべてをハウスに売り渡したようですが、その譲渡益は約220億円といわれています。 

高校生のときに聞いたクラシック音楽に魅せられて、生涯にわたって音楽家を支援してきていて、53歳で経営から退いた後は、音楽やスポーツ振興、福祉施設支援などを行なうNPO法人イエロー・エンジェル設立し、クラシック好きが高じて28億円の私財をなげうって名古屋にコンサートホール『宗次ホール』を建設し、その運営に力を注いでいます。ストラディヴァリウスの中でも名器中の名器といわれるエクス・ピエール・ローデを購入して、NPO法人、イエロー・エンジェルから若い五嶋龍に無償で貸与したことは有名です。

こういった社会貢献活動に力を注ぐ際に、高額の楽器を購入して音楽振興に寄与するにあたって、もう少し、税務対策などの手法が使えなかったのでしょうか。公益財団法人の設立など工夫の余地はあるように思うのですが、資産管理の詳細が分からないのでこれ以上の言及は避けたいと思います。こうした社会貢献活動に対する税務上の配慮がもっとあってよいのかもしれません。

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