大阪プライム法律事務所

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SMAP問題と吉本興業 共通する問題点

19.08.01 | ニュース六法

吉本興業が揺れに揺れています。
所属する芸人が反社会的勢力の主催する会合に参加して金銭を受け取っていたとして、10数名を謹慎処分にし、宮迫博之さんとの契約を解消したと発表しました。その後、その宮迫さんと田村亮さんが会見して謝罪を行った際に、吉本側の対応に不信感を示したことから、吉本の岡本昭彦社長が会見して謝罪し、契約解消処分を撤回する意向を明らかにしましたが、騒動は収まる気配がありません。
そのような中、公正取引委員会の事務総長が、定例会見にて、吉本興業が所属タレントとの間で契約書を交わしていないケースが大半であることについて聞かれた際に、「独占禁止法上問題となるおそれ」について触れました。実は、芸能界やスポーツ界、フリーの技術者、アニメーターなど個人で仕事を請け負うフリーランス的な形で活躍する人たちの契約のあり方を巡って、公正取引委員会が最近、大きくメスを入れ始めています。ジャニーズ事務所から独立したSMAP3名の問題もその一連です。この動きは、さらに、ライターやIT技術者、コンサルタント、通訳・翻訳家などにも広がる話です。

■吉本興業と所属タレントの関係
吉本興業は、所属するタレントとの契約は口頭のみで、契約書を交わしていないのが大半だということです。そのことが、会社を通さず仕事を受ける闇営業につながり、結果的に反社勢力につながってしまう背景になっていると指摘されています。吉本興業の岡本社長は、会見の場で、「基本は契約書なしで、人間関係でというものはベースであることは変わらないと思いますけれども」と述べていました。

これに関し、公取委の山田昭典事務総長は、7月24日の定例会見の質疑で聞かれた際に、あくまでも一般論とした上で、「直ちに独占禁止法上の問題になるわけではないが、契約内容が不明確なことが会社側の『優越的地位の乱用』など、独禁法上問題となる行為を誘発する原因になりうる。契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」などと述べました。

この事務総長発言の趣旨は、口頭のみで契約書面は交わさないことについて、「契約書がないだけでただちに問題になるわけではない」としつつも、事務所が強い立場を利用して所属タレントを不当に低い報酬で働かせるなどすれば、独禁法で問題になる恐れがあるということを指しています。

■ジャニーズ事務所への「注意」
こにような渦中の7月17日に、公取委が、独占禁止法違反の疑いがあるとして、ジャニーズに事務所に「注意」をおこなったことがNHKから報じられました。

これは、「SMAP」の元メンバー、稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんの3人がジャニーズ事務所から独立したあと、民放テレビ局への出演がなくなっていた問題をめぐってのことです。ジャニーズ事務所がSMAPの元メンバー3人を出演させないよう、民放テレビ局などに圧力をかけていた疑いがあるとして、公取委が調査を行い、独占禁止法違反につながるおそれがあるとして事務所を注意したということでした。

確かに、この3人は、事務所を独立してからは、CM以外でのテレビ出演が激減していると噂されていました。調査の中で、「ジャニーズ事務所に所属タレントの出演を依頼した際、事務所の主要幹部から『元メンバーの3人が関わっている場合は、所属タレントは出演させられない』と圧力をかけられた」と民放関係者の証言が出てきていたようです。 

■公正取引委員会の「注意」とは
公取委は、独占禁止法に違反する行為があったと認めた場合には、課徴金納付や、再発防止の対策を命じる「排除措置命令」を出すことができます。「法律違反のおそれがあった場合」は「警告」という行政指導も行なうことができます。

今回のジャニーズ事務所になされた「注意」は、さらに軽いもので、独占禁止法に違反するおそれがあるとまでは言えないが、「将来的に違反につながるおそれがある」と認めた場合になされています。多くは口頭で行われます。

公取委は、圧力とも言えるような発言の情報を得ながらも、民放関係者がジャニーズ事務所の意向を忖度して動いていた構図になっていて、不当な圧力があったことを示す明確な証拠や証言までは得られなかったため、黒に近いグレーであるが、黒とまでは断定できなかった結果が、「注意」になったものと考えられます。 

■フリーランス保護の動き
この動きに関して、2018年2月15日に公取委の有識者会議が出した報告書に注目が集まっています。

これは、「人材と競争政策に関する検討会 報告書」というもので、個人事業者なので労働基準法の適用外になっていた芸能人などのフリーランスを、独禁法で守ろうという内容です。つまりは、芸能人、スポーツ選手、フリーの技術者、アニメーターなどでの「不当な取引慣行」は独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に当たる可能性があるとしたものです。特に契約や発注額を示さない、報酬支払いをひどく遅らせる、全く支払わない、不当な理由を付けての減額、理由すら示さない減額、移籍や転職の制限などを、独禁法が禁じる優越的地位の濫用の事例として挙げています。

これが発表された際には、日本音楽事業者協会が、2月15日に声明を発表し、加盟社で使用してきた「専属芸術家統一契約書」の全面改訂を表明しています(諸課題検討委員会「専属芸術家関係等に関する競争法上の論点に関する研究会」報告」)。ただ、芸能プロダクションは長年にわたって大金をはたいて、芽が出るかどうか分からない若手を育てていくことへの投資リスクも訴え、「専属契約」の必要性も強く主張しています。

また、昨年には、スポーツの実業団やリーグなどであった、選手の移籍制限などに対して、公取委が団体に注意をして、これら制限が無くなってきてます。

これらの動きが、いよいよ芸能界にも及んできて、今回のSMAP問題や吉本興業問題で姿を見せてきたと言うことになろうかと思います。 

■この問題の広がりと影響
フリーランスには、芸能人やスポーツ選手だけではなく、記者・編集者・ライター、著述家、プログラマー、システムエンジニア、コンサルタント、通訳、翻訳家など、幅広い分野に存在していて、人口は1000万人を超えるとも言われています。今回の公正取引委員会の動きは、さらに広がっていくものと思います。吉本興業も、その所属芸人も、今後は契約をきちんと交わして、伝え聞くようなひどい「奴隷的」「使い捨て」実態なども変わっていくかもしれません。また、弱い立場に置かれているフリーランスも、積極的に独禁法の考え方を押し出すことで、自身の生活を守れるようになっていくかとも思います。

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