大阪プライム法律事務所

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芸能界と独禁法

19.09.07 | ニュース六法

公正取引委員会が、芸能分野の契約や取引について独占禁止法で問題となり得る行為の具体例をまとめ、8月27日に開かれた自民党の競争政策調査会で提示したことが、朝日新聞や日経新聞などで報道されました。芸能事務所がタレントとの間で交わす契約や取引について、具体的なケースを明示しているということです。この見解は、今後、実質的な指針として業界への周知にも活用するということです。(朝日新聞 2019年8月27日記事「芸能事務所の問題行為、公取委が例示 TV出演妨害など」、日経新聞 同日記事「芸能分野の問題行為、公取委が例示 移籍妨害など」。)

この具体的事例は、今後、芸能界のみならず、フリーランスで活躍している方々や、そうした方々と契約をしている事業者にも大きな影響があるものと思われます。

■公取の当該文書の内容そのものは、公取のサイトには掲載されていないので、詳細なことまでは分かりませんが、日経新聞記事をみると、以下のような事例が挙げられ、実際に独禁法に違反するかどうかは個別に判断するも、「優越的地位の乱用」や「取引妨害」などに当たる恐れがあるとしたようです。 

1   移籍・独立について
(1)所属事務所との契約終了後に一定期間は芸能活動ができない義務を課す、あるいは移籍した場合に活動を妨げると示唆する(優越的地位の乱用)
(2)タレント側が拒絶しても事務所が一方的に契約を更新する(優越的地位の乱用)
(3)過去の所属事務所がテレビ局や移籍先に圧力をかける(取引妨害、取引拒絶)

 2 待遇面について
(1)一方的に著しく低い報酬での活動をタレント側に要求する(優越的地位の乱用)
(2)事務所側が肖像権などの権利の対価を払わなかったりする(優越的地位の乱用)

吉本興業の「闇営業」問題をきっかけに注目された書面を交わさない契約形態については「独禁法上の問題を誘発する原因となり得るため望ましくない」としたようです。 

■公取委は、ここ最近、芸能やスポーツなど幅広い分野の人材の問題について、監視を強めてきています。先般は、ジャニーズ事務所に対しての調査で、元SMAPのメンバー3人を起用しないようにテレビ局に圧力をかけた疑いがあるとして注意しました。

この動きは、2018年2月15日に公取委の有識者会議が出した報告書から注目されていました。これは、「人材と競争政策に関する検討会 報告書」というもので、個人事業者なので労働基準法の適用外になっていた芸能人などのフリーランスを、独禁法で守ろうという内容です。つまりは、芸能人、スポーツ選手、フリーの技術者、アニメーターなどでの「不当な取引慣行」は独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に当たる可能性があるとしたものです。特に契約や発注額を示さない、報酬支払いをひどく遅らせる、全く支払わない、不当な理由を付けての減額、理由すら示さない減額、移籍や転職の制限などを、独禁法が禁じる優越的地位の濫用の事例として挙げたのでした。

今後、芸能界を皮切りに、フリーランス全般において、新たな警告事例などが出てくるかもしれません。

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