大阪プライム法律事務所

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ゴルフ練習場のフェンス倒壊問題~災害ADR

19.11.10 | ニュース六法

本年9月の台風15号が直撃した千葉県市原市で、ゴルフ練習場「市原ゴルフガーデン 」のフェンスが倒壊した出来事は衝撃的でした。この倒壊で横に建っていた多くの家屋が破損したほか、長期間、撤去作業ができず、自宅に戻れない住民のストレスなど様々な問題が発生していました。ようやく、その状況を見かねて無償で撤去作業を申し入れた親切な業者が現れ、撤去作業がほぼ終わることになりました。

これからは賠償問題の解決が本格的になってきます。どうなるのか、他人事ながら気になっていましたが、千葉県弁護士会の「災害ADR」が賠償交渉の鍵になってきそうです。

■自然災害と賠償責任
このケースは、練習場の構築物が猛烈な台風という自然災害によって倒壊して生じたものでした。

一般的に、地震や台風などの自然災害が原因で、自分の家の瓦などが飛んで、隣家や他人の自動車などに当たって損害が生じても、原則として賠償問題は起こりません。

その理由は、損害賠償義務を定めた民法709条で、「故意または過失によって他人の身体や財物に損害を与えた者は、その損害を賠償する必要がある」としていて、「故意または過失」がある場合を要件にしているからです。つまりは、台風や地震などでの自然災害で起こった損害は不可抗力(故意過失がない)とされるからです。したがって、被害を受けた家や自動車の所有者は、各自が自分で保険をかけてそうした事態に対応するのが社会的な仕組みになっているといえます。

■今回のフェンス倒壊はどうか
このように、今回のフェンス倒壊問題で、ゴルフ練習場側が、当初には「賠償責任がない」旨を説明会で発言したというのも、台風という不可抗力での事故であるという前提からのものだったと思われます。しかし、本当に賠償責任がないと言い切れるかというと、そうではありません。

建物やゴルフ練習場のフェンスなどの「土地の工作物」に関しては、民法第717条で「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」としています。

つまりは、工作物に瑕疵(欠点)があって、他人に損害を与えた場合、第一次的にはそれを使用や管理をしている者(占有者)が賠償責任を負い、その占有者が他人に損害が生じないようにしっかりと注意を尽くしていながらも損害が生じてしまったという場合は、占有者ではなく所有者が賠償責任を負うということです。

具体例を言いますと、日ごろのメンテナンスが悪くて屋根瓦が剥がれかけているのを放置していたために強風で飛んで隣家に被害を与えた場合や、ベランダの不安定な位置に置いたままであった植木鉢が少しの揺れの地震で落下して被害を生じさせた場合などは、いくら台風や地震が直接の原因であったとしても、賠償責任が生じうることになります。

このため、今回のゴルフ練習場の件では、台風によって生じたフェンスの倒壊が、フェンス自体の施工方法に問題があったときや、日ごろの維持管理が不十分で安全確保を欠いていたという場合には損害賠償責任が生じてきます。

このため、本来は、賠償義務の判断にあたっては、そうした瑕疵の有無や管理不備の有無についての確認が必要となり、示談交渉などの場で折り合えればともかく、折り合いがつかなければ、訴訟の場で証拠を出し合って最終的には裁判官が判断することになります。訴訟までいけば、それに要する時間や労力、費用などの面でのロスが出てきます。できれば早期に話し合いでの解決が望ましいところです。

 ■災害ADR
この件で、ようやくフェンス撤去がほぼ済んだ11月8日に行われた説明会で、練習場側代理人弁護士が、千葉県弁護士会の紛争解決支援センターに「災害ADR」を申し立てたと発表したことが報じられました。災害ADRの場では、中立な立場の弁護士が話し合いに参加し、被災者への補償額を調整します。弁護士によると、住民側に説明したところ、「皆さんに参加いただける実感があった」と話したそうです。

ADRというのは、裁判外紛争解決手続き(Alternative Dispute Resolution)のことです。
裁判によることもなく、法的なトラブルを解決する方法、手段など一般を総称する言葉で、仲裁、調停、あっせんなど様々なものがあります。訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続です。柔軟、迅速、土日夜間の審理、非公開、あっせんに弁護士関与などの点が訴訟や調停とは違う特徴です。さまざまなADRがありますが、多くの弁護士会では自らADRを設置して運営しています。原則3回以内での解決を目指す場合が多いです。

「災害ADR」というのは、そのADR手続きの中で、災害関連の紛争を対象としたものを言い、いくつかのADR機関で、申立費用の軽減や手続きの簡素化などによって、混乱しがちな話し合いをスピーディに進めるなどの措置をとっています。千葉県弁護士会が運営しているADRである紛争解決支援センターは、今回、台風15号及び台風19号による災害トラブルに限って手数料を減免する制度を導入したようです。今回の手続きで、早く被害住民と練習所間での紛争が無事に解決するよう見守りたいと思います。

■大阪にあるADR「民間総合調停センター」について
公益社団法人 民間総合調停センター
〒530-0047 大阪市北区西天満1-12-5 大阪弁護士会館内1階
https://minkanchotei.or.jp/
TEL 06-6364-7644

ここは、弁護士会をはじめ多数の専門家団体、経済団体、自治体等の各種団体が参画して出来上がった専門家団体を横断するADR機関です。どのような民事的な紛争でも扱っていて、気軽に利用できます。

ここも災害ADRを扱っています。暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事、爆発等に起因する紛争の場合は、申立手数料が免除され、成立手数料も半額となっているほか、申立書類の一部が不足している場合でもとりあえず受理して開始する場合があるほか手続きの一部を簡素化し、ネットテレビ会議システムを利用して期日を開催することもできるようにしています。 

■認証ADRについて
「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」というのがあって、法定の基準・要件に適合した民間のADR機関に対して法務大臣が認証した場合は、「認証ADR」とされ、所定の要件の下で時効の中断効、訴訟手続の中止効等の法的効果が付与されています。
認証ADRに関する情報は、法務省のホームページ「かいけつサポート:で公表されているので、参考にしてください。

「かいけつサポート」
http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/tetsuzuki.html 

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