大阪プライム法律事務所

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役員資格と「成年後見」

20.01.04 | 非営利・公益

令和元年12月14日から、NPO法人、医療法人、宗教法人、社会福祉法人などでの役員の欠格事由に変更が生じました。この日から、従来は役員としての欠格事由となっていた成年被後見人・被保佐人(成年後見人や保佐人が選ばれた人)について、欠格事由から外されました。つまりは、成年被後見人・被保佐人だからといって、直ちに役員になれないということではなくなりました。
その結果、役員選任の際に求めている「就任承諾及び誓約書」の形式に変更を加えないとならない場合がありますので、お気を付けください。なお、株式会社の取締役と一般社団・財団法人の理事等については、今回の改正対象とはなっていません。

■改正法
令和元年6月7日、第198回国会において、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」が可決・成立し、令和元年12月14日から施行されました。

これまで、成年被後見人や被保佐人は、国家公務員、地方公務員、医師、弁護士、警備員、NPO法人の役員等になることができない等、成年後見制度の利用者であること自体が数多くの資格・職種・業務等の欠格事由とされていました。しかし、上記の法律で、200近くの法律において規定されていたこれらの欠格条項を見直したのです。

どのように見直したかと言うと、法人役員の欠格事由に関しては、一律に排除するのではなくて、各人の心身の故障等の状況を個別的、実質的に審査し、各制度で必要な能力の有無を判断する規定にしたものです。

制度全体としては、①公務員等(国家公務員、自衛隊員等)は、原則として現行の欠格条項を単純削除(公務員などの資格保有にふさわしい能力があるかどうかは面接や試験での個別判断)、②士業等(弁護士、医師等)は、原則として現行の欠格条項の削除を行い、併せて個別審査規定を整備、③法人役員等(医療法人、信用金庫、NPO法人等)は、原則として役員の欠格事由から成年被後見人等を削除し、併せて個別審査規定を整備、④営業許可等(貸金業登録、建設業許可、法人営業許可等)は、原則として現行の欠格条項の削除を行い、併せて個別審査規定を整備となっています。

■どうしてか
この法律改正は、ノーマライゼーションやソーシャル・インクルージョンの観点から、成年被後見人であることをもって一律に排除されるのは適当でないとして、様々な資格制限を廃止し、年齢や障害等にかかわりなく、誰もが互いに人格と個性を尊重し支え合う共生社会の実現に向けて行なわれたものです。つまり、成年後見制度を利用している方々の人権を尊重し、不当に差別されないよう、数多くの法律で規定されていた成年被後見人等に係る欠格条項を一律に削除し、資格等にふさわしい能力の有無を個別的・実質的に審査・判断する仕組みへと改めたものです。

これによって、認知症の方や障害のある方など、成年後見制度の利用を必要とする方が、欠格条項による失職や資格の剥奪等を心配することなく、制度を利用できるようになりました。成年後見制度を利用する方もそうでない方も、誰もがその能力を発揮し、社会参加できるための第一歩になるものと期待されています。

 ■「株式会社の取締役」と「一般社団・財団法人の役員」については対象外
「会社法」と「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」については、今回の改正では対象となっていません。今後の会社法の改正と併せて欠格条項の見直しを行うべく検討が進められています。したがって、現時点では、これら法人での役員についての成年被後見人等の欠格事由は残っています。

■NPO法での改正
特定非営利活動促進法(NPO法)及び同法施行規則についても、一部改正され、NPO法人の役員の欠格事由が変更になりました。各NPO法人においても、今回の欠格条項の見直しに係る法改正の趣旨について理解し、適正な運用が求められるところです。

役員の欠格事由のうち、「成年被後見人又は被保佐人」を削除し、「精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意 思疎通を適切に行うことができない者」に改めました。

それに応じて、各所轄庁でも、NPO法人の役員が就任時に提出する「就任承諾及び誓約書」の誓約内容が変更となるため、様式例・記載例を変更しています。

改正前の条文            

改正後の条文

(役員の欠格事由)
第二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、特定非営利活動法人の役員になることができない。
一 成年被後見人又は被保佐人  【削除】
二 破産者で復権を得ないもの
三~六 (略)

(役員の欠格事由)
第二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、特定非営利活動法人の役員になることができない。
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
二~五 (略)
六 心身の故障のため職務を適正に執行することができない者として内閣府令で定めるもの 【追加】

 

特定非営利活動促進法施行規則(内閣府令)
(改正により以下の条を追加)
第二条の二
法第二十条第六号に規定する内閣府令で定めるものは、精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

■「就任承諾及び誓約書」の修正について
この改正によって、役員の「就任承諾及び誓約書」をとる際に、「私は、特定非営利活動法人○○○○の理事に就任することを承諾するとともに、特定非営利活動促進法第20条各号に該当しないこと及び同法第21条の規定に違反しないことを誓約します。」という本文は変更する必要はありませんが、その誓約書に、「特定非営利活動促進法第20条の要件」として、条文を記載する場合は、以下のように修正が必要となるので、注意が必要です。
(従来は一のところに「成年被後見人又は被保佐人」とあったのを削除し、二以下の番号をすべて繰り上げたうえで、最後に六として、「精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者(特定非営利活動促進法施行規則第2条の2)」を加える。) 

一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
三 以下の理由で罰金の刑に処せられ、その執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
・  特定非営利活動促進法の規定に違反した場合
・  暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に違反した場合
・ 刑法第204条(傷害)、第206条(現場助勢)、第208条(暴行)、第208条の2(凶器準備集合及び結集)、第222条(脅迫)、第247条(背任)の罪を犯した場合
・ 暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯した場合
四 暴力団の構成員(暴力団の構成団体の構成員を含む。)若しくは暴力団の構成員でなくなった日から五年を経過しない者
五 設立の認証を取り消された特定非営利活動法人の解散当時の役員で、設立の認証を取り消された日から二年を経過しない者
六 精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者(特定非営利活動促進法施行規則第2条の2

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