大阪プライム法律事務所

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改正民法と桃太郎

20.03.29 | ニュース六法

2020年4月1日から、改正民法の多くの部分が施行されました。
この施行を控えて、法務省が、昔話「桃太郎」を題材にした啓発マンガを作成して公表しています。改正の大きな柱である4項目を題材にして以下の6話で構成されています。
第1話 はじまり  第2話 約款  第3話 賃貸借
第4話 消滅時効  第5話 保証  最終話
これは、法務省と東京大学法科大学院・法学部有志との共同制作ということで、マンガ家のほんままりさんが書いておられます。なかなかよくできたマンガだと思います。
ここに、マンガのあらすじ解説と、そこに出てくる改正民法の要点をお話します。特に、その中で出てくる「根保証」と「極度額」の話については、これから賃貸借契約を交わす家主さんなどは、必ずお読みになるのがよいと思います。

■マンガのあらすじ
このマンガは、鬼ヶ島退治で、鬼から財宝を奪って帰ってきた桃太郎が、鬼から不法行為で裁判を起こされて敗訴し、一文無しになってから、生活を立て直すために日本一の吉備団子屋を始めようとする第1話から話が始まります。
第2話は吉備団子の材料をネットで購入した際の約款をめぐってトラブルとなります。
第3話は儲けたお金で賃貸住宅を建てて、一緒に鬼退治に行った犬・猿・雉に貸すが、犬と猿がけんかして退去することになった際の原状回復と敷金トラブルです。
第4話は6年前の鬼退治の際に桃太郎が犬・猿・雉にお金を貸したことを持ち出して請求をした際の消滅時効をめぐるトラブルです。
第5話は鬼ヶ島リゾート開発を計画する鬼さんから頼まれて保証人を引き受けたところ、結果的に倒産し、多額の保証債務の請求を受けた際に、新しい民法の規定で助かったという話が出てきます。「根保証契約」と「極度額」の問題です。
このように、民法の日常生活上の新しいルールが、わかりやすく解説されています。
詳細は以下URLよりご確認いただけます。
URL:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

 ■第2話の約款について
新民法は、利用規約などのように、当事者の一方が契約内容を画一的に定めたいわゆる約款についてのルールを定めました。このような契約条項を「定型約款」と呼び、その中の条項がどのような場合に契約内容となるのかといった基本的なルールが決め、利用者の利益を一方的に害する不当な条項については効力が否定されることを明らかにしました。

■第3話の原状回復と敷金について
部屋を借りていた人は、退去する際に部屋を元の状態に戻して返す義務(原状回復義務)がありますが、一定期間生活すると汚れなども生じるので、借りた時と全く同じ状態にして返すのは困難です。新民法では、普通に使っていてもつく汚れや傷については直さなくてもよいことが明確にされました。また、敷金についてもルールが設けられました。

■第4話の消滅時効について
新しい民法では、時効制度が大きく見直され、特に時効期間の見直しがあります。これまでは、債権の消滅時効の原則的な時効期間を、「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年と定め、その上で商行為によって生じた債権については5年間とし、その他職業別に短期間の時効期間を別途定めていました。
新民法では、これが、権利を行使できる時(客観的起算点)から10年が経過したときに加えて、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年が経過したときも、債権は時効によって消滅するとして、短期間の時効規定は廃止されました。

■第5話の「根保証契約」と「極度額」について
貸金の返済や家賃の支払いなどにおいて、第三者が借りた本人の代わりにお金を支払う約束をすることを保証といいます。新民法では、こうした約束をした保証人を厚く保護するための改正がされました。
特に、保証する金額が特定されていない保証を「根保証」と言いますが、これについては、極度額を定める必要があることとなり、その定めがないとその保証契約自体が無効ということになりました。

根保証の実例として、マンガでの解説において以下のようなものを挙げています。
○誰かが住居を借りるときに、借り手が支払わなければならない賃料等について、その支払を保証すること
○誰かが入院するときに、患者が支払わなければならない入院費用等について、その支払を保証すること

そうした根保証契約を結ぶ場合、次のポイントに注意する必要があります。
(1)   極度額を定めて事前に合意すること
「極度額」とは限度額のことをいいます。つまり「極度額」を定めるというのは、保証人から見て、自身の負う負担額を明示される状態を意味します。
(2)   その合意を書面または電磁的記録で行うこと
(3)   これらを1つでも守らないと根保証契約全体が無効になること
なお、これらは個人が保証人になる場合の注意点ですので、会社などの法人が保証人になる場合はこの対象にはなりません。 

■賃貸借契約時の保証人について
賃貸借契約における賃借人の保証も「根保証」の一種です。つまり、賃貸借契約における賃借人との連帯保証人との間の保証契約も極度額を定めなければならない契約となりました。したがって、この4月1日以降に賃貸借契約をする場合に、個人の連帯保証人に署名捺印を求める場合は、保証人の責任限度額=極度額を定めるよう注意してください。これを定めなかった場合は、保証が無効となり、保証人に請求することができなくなります。
なお、4月1日以降に従前の賃貸借契約を更新した場合は、その連帯保証人は、その同一性を保った賃貸借契約の借主の保証を継続することになります。賃貸人と連帯保証人との間の新たな合意がないので、保証契約は従前の契約が維持され、この保証契約には新民法の適用を受けないことになります。

多方、賃貸借契約の更新時に、従前の賃貸借契約書と同一もしくはほぼ同内容の賃貸借契約書に、賃貸人と賃借人が署名・捺印するとともに、連帯保証人が署名・捺印をする場合はどうなるでしょうか、これについて、法務省は、2020年4月1日以降に賃貸借契約が合意更新され、この更新契約書に連帯保証人が署名押印したことにより新たな保証契約が締結されたと評価される場合には、改正民法が適用され、更新契約では連帯保証人の極度額を定めなければならないという見解をとっています。この法務省見解からすると、賃貸人の立場からすれば、更新の際にわざわざ連帯保証人の署名・押印を求めない方が良いようにも思います。

■極度額の定め方
極度額を定めないとならないと言っても、どのくらいの額を定めればいいのでしょうか。これについては改正民法では何も触れていません。あえて言えば、世間的に常識的な範囲でとしか言えないかもしれません。ただ、言えることは、法外に巨額を定めたら無効だろうということです。例えば、月額10万円の賃貸借契約で、保証人の極度額を5000万とか、1億円などと定めても、これでは事実上無制限に近い保証と同じで極度額を定めた意味がなく、保証契約は公序良俗に反して無効となると考えられます。

■極度額はどの程度が妥当か
極度額を定めるにあたって、平成30年(2018年)3月30日に国交省住宅局住宅総合整備課が出した「極度額に関する参考資料」が参考になると考えられます。平成9年 11 月~平成 28 年 10 月の間で、民間賃貸住宅の賃貸借契約における連帯保証人に負担を命じた裁判所の判決91件を調査した結果、裁判所の判決における連帯保証人の負担額の平均は、賃料の13.2カ月分となるということでした。これを参考にすれば、極度額は、1年分から、長くても2年分程度までが妥当なところではないでしょうか。

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