小林修税理士事務所

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導入する前に知っておきたい年俸制のメリットと注意点

20.06.23 | ビジネス【労働法】

年俸制とは、年間で支給する賃金をあらかじめ決めておく賃金制度のことです。 
月を単位として賃金を支払う月給制、日を単位とする日給制、時間を単位とする時給制とは異なり、基本的には前年の成果を踏まえて翌年の年俸額が決まります。
一般的にはスポーツ選手などの報酬形態を思い浮かべる人も多いでしょう。
賃金支給の基準となる期間が長くなるほど、自由度は増しますが、その分責任や求められる成果は重くなります。 
もともと外資系企業などによく見られる報酬形態でしたが、成果主義の台頭や企業間競争激化の影響などもあり、近年では日本企業にも多く導入されるようになってきました。 

年俸制における時間外労働の注意点と合わせてご紹介します。

年俸制が適している労働形態とは

本来、年俸制とは、年を単位として労働の成果や業績に応じて年間の賃金額を決定することをいいます。
特に野球やサッカーなどのスポーツ選手は、単純な労働時間で判断するのが難しく、また、100%の成果主義の世界ということもあり、年俸制が導入されています。
一定の課題をクリアした場合の追加報酬や出来高払いなどの契約もありますが、基本的には毎年、その年の成果や成績を踏まえ、雇い主側が翌年の年俸額を決めています。

この年俸制は一般企業でも多く導入されていますが、年俸額を労働時間ではなく成果で判断するのであれば、割増賃金を支払う必要はないと考えている事業者も少なからず存在します。
そのため、残業代を払いたくないために導入している企業もあります。
しかし、これは大きな間違いで、年俸制であっても、実際の労働時間が法定を超えれば時間外手当を支払わなければなりません。

原則的に、労働基準法は労働の成果ではなく、労働の『時間』を賃金の判断基準にしています。
労働時間が法定の労働時間を超えていれば、月給制であろうと年俸制であろうと、時間外や休日または深夜の労働に対する割増賃金を支払うように事業者に義務付けているのです。

ただし、労働基準法41条では、事業の種類に関わらず、管理・監督する地位にある者や、機密の事務を取り扱う者などについては、労働時間や休憩及び休日に関する規定が適用されないとしています。
ほかにも、土地の耕作や植物の栽培など、林業を除く農林事業や、動物の飼育や水産動植物の養殖、その他畜産などの事業に従事する人にも、これらの規定が適用されません。

つまり、上記の労働者に関しては、労働時間の規制がないため、法定労働時間を超えても、割増賃金を支払う必要はないということです。
また、裁量労働制などのみなし労働時間制で働いている労働者に関しても、みなし時間に対応した年俸額を設定していれば問題ありません。

そういった意味では、本来、年俸制は上記の条件にあてはまる労働者に適した賃金制度であり、通常の労働時間に応じて働く労働者には、あまり適さない制度といえそうです。


年俸制の給与、割増賃金とは?

月給制でも年俸制でも、法定労働時間を超えると、時間単価の1.25倍の割増賃金を支払う必要があります。
では、どのように算定すればよいのでしょうか。

通常、年俸制であっても一度に全額を支払うわけではなく、賃金支払の原則から、年俸額を12分割して、毎月、12分の1ずつを月例給与として支給するのが一般的です。
割増賃金を求めるための算定基礎額は、年俸額の12分の1となる平均賃金÷月平均の所定労働時間×1.25という計算をすればいいわけですが、企業によっては、年俸額の一部を賞与として支給し、残りを12分割した月例給与として支給している場合があります。

たとえば、年俸額のうち、16分の1を月例給与として支給し、16分の4を年2回の賞与として支給したとします。
通常、賞与は『臨時に支払われた賃金』とされ、割増賃金を求めるための算定基礎額には算入しないことになっています。
しかし、労働基準法では、年俸制における賞与は、年俸額が決定した段階で労働者に支払う総額が確定しているという理由から、たとえ『賞与』という名目で支給していたとしても、『臨時に支払われた賃金』には該当しないと定めています。
つまり、年俸制を導入している企業が、どのような賞与比率で賃金を支払おうとも、『賞与』のつもりで支払っているものでも、割増賃金の算定基礎から除外できないのです。
結局は、年俸額を12で割った額を算定基礎額として月額賃金を算出し、そこから割増賃金を算出することになるので、導入する際には注意が必要です。

年俸制は、1年間に支払う金額が決まっているため、事業計画が立てやすいという会社側のメリットがあります。
また、従業員にとっても、成果を出せば翌年には年俸額のアップが見込まれるため、モチベーションも上がります。
一方で、時間外労働に関する認識の違いからトラブルが起こりやすいというデメリットもあります。

自社が年俸制にすることでどのようなメリットを得られるのかをよく理解したうえで、導入を考えていきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています

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