大阪プライム法律事務所

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「自筆証書遺言の保管制度」がスタート

20.07.12 | ニュース六法

2020年7月10日から、法務局での「自筆証書遺言の保管制度」がスタートしました。自分で作成した遺言書を法務局に持参し、3,900円の手数料を支払えば、原本を保管してもらえるという制度です。公証人に作成してもらう公正証書遺言に比べて費用や手間が低いという面があり、これから注目を受けそうで、遺言書を作成する方も増えそうです。この制度を利用するにあたっての注意すべき点を説明してみたいと思います。

■遺言の種類
遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つの方式があります。
このうち、③の秘密証書遺言はほとんど使用されていません。 今回の保管制度は、このうちの自筆証書遺言に関するものです。

■公正証書遺言について
「公正証書遺言」は、公証役場で公証人に作成をしてもらうもので、遺言書の原本は公証役場で保管され、正本及び謄本が遺言者本人や委任された人が保管します。公証人は、本人が口伝えした趣旨を公証人がその場で記録して、本人と二名の証人に内容を確認させて作成します。実際には、事前に公証人と打ち合わせをしておき、作成当日は公証人が用意しておいた証書を証人と一緒に読み聞かせ、間違いがないか確認して完成させるのが一般的です。

法律の専門家である公証人が作成に関わることから、内容に不備のある遺言が作られる可能性はきわめて低くなります。公証役場では、原本を長期にわたって保管することから、偽造はもちろん、紛失の心配もありません。保管期間については、各公証役場で取り扱いが異なってはいますが、概ね遺言者が120歳になるまでは保管する事になっています。また大災害に備えて、公正証書遺言については、作成時に原本と電磁的記録とを二重に保存しておくなどの二重保存制度が構築されています。

また、自筆証書の場合は、遺言者が死亡した場合に遺言書を保管していた者が家庭裁判所で検認手続きをしないとなりませんが(今回の法務局での保管制度を利用すれば不要となりました)、公正証書のの場合はそれも不要になっています。 

■自筆証書遺言について
「自筆証書遺言」は、遺言者本人によって本文・氏名・日付のすべてを自筆して作成する遺言書です。2019年からは、財産目録についてだけはパソコンで作成してもOKとなりました。この自筆証書遺言は、これまでは、遺言書の原本を遺言者又は遺言者から委任された人が保管していました。しかし、本人が保管していた場合、本人が亡くなった際に、誰もその存在や所在が分からないままになることが多くありました。また、発見した者が、ひそかに偽造するなどの恐れもないではありませんでしたし、法律に疎い本人が作成するため、法的に無効な形式であったりして、せっかく作成したのに効力を持たないようなことも多くありました。 

■保管制度の概要
(1)この自筆証書遺言について、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)という新しい法律が成立し、2020年7月10日から、自筆証書遺言は法務局で保管してもらうこともできるようになりました。
(2)保管の申請
保管の申請ができるのは、自筆証書遺言書のみです。遺言書は、封のされていない、法務省令で定める様式に従って作成されたものでなければなりません。
(3)申請先
遺言者の住所地もしくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局(遺言書保管所)に、遺言者が自ら出頭して行わなければなりません。その際には、申請人(遺言者)の本人確認書類が必要です。大阪法務局管内では、本局、堺支局、岸和田支局、北大阪支局、富田林支局、東大阪支局が指定されています。
(4)保管及び情報管理
保管の申請がされた遺言書については、法務局(遺言書保管所)の施設内において原本を保管します。また、その画像情報等も管理することとなります。
遺言者は、保管されている遺言書について、その閲覧を請求することができ、また、遺言書の保管の申請を撤回することもできます。保管の申請が撤回されると、遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報も消去されます。遺言者が生存している間は、遺言者以外の方は、遺言書の閲覧等を行うことはできません。
(5)保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等
亡くなられた方について、その相続人、受遺者(遺言によって遺産をもらい受ける人)等となっている者は、遺言書が保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。また、遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付と、遺言書原本の閲覧請求もすることができます。これらのことがなされたときは、法務局(遺言書保管所)から、当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に通知されます。これによって、他の相続人にも情報が共有されることとなります。
(6)遺言書の検認の適用除外
遺言書保管所に保管されている遺言書については、 遺言書の検認手続きが不要となります。
(7)手数料
遺言書の保管の申請        3,900円
遺言書の閲覧の請求        1,400円
遺言書の閲覧の請求        1,700円
遺言書情報証明書の交付請求    1,400円
遺言書保管事実証明書の交付請求   800円
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 1,700円 

■法務局における遺言書の保管制度のメリット
これを利用すれば、遺言者が遺言書をなくしたり、相続人が遺言書を発見できないといった事態を避けることができます。また、生前に遺言内容が相続人等に知られてしまって、生前からの紛争に発展したり、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿といったリスクを避けることができます。
また、申請時に、遺言書が法務省令に定める様式に則っているかどうかが確認されるので、様式不備で形式的に無効となることを避けることができるのが大きなメリットと言えます。 

■注意点
逆に、気をつけなくてはならない点もあります。
法務局(遺言保管所)に、自ら足を運んで行かなければならない手間が生じます。また手数料がかかります。自筆証書遺言は、この方法で預けなくても、それだけで有効性に問題が生じるわけではありませんから、自宅で保管でも十分ですので、これらがデメリットといえばデメリットです(ただし、その場合は、死後の検認手続きが必要となります。)。

また、この保管制度は、あくまでも窓口で様式チェックだけがなされるだけですので、遺言の内容までは全くアドバイスなどは行われません。したがって、形式不備で無効になることは無くなりますが、本当に望ましい内容での遺言書になっているかは、保証の限りではありません。

さらに、保管をしてもらったからと言って、自分が死亡すれば、自動的に相続人たちに連絡が行くかというと、そうしたサービスはありません。相続人たちが、遺言書の保管の有無の照会をしなければ、遺言書の存在が知られないままになってしまいます。こうした遺言書の存在が知られないリスクを避けるには、相続人や遺言執行者たちに、遺言書が法務局(遺言保管所)に保管されていることを伝えておくか、そのことをメモやエンディングノートなどに残して、死後に発見されやすい場所に置いておくのがよいと思います。 

■弁護士との事前相談の重要性
先ほども書きましたように、この保管制度では、遺言の内容までは全くアドバイスなどは行われません。したがって、ご本人にとって、本当に望ましい内容での遺言書になっているかは、別の問題になります。
弁護士として、多くの自筆証書遺言を見てきましたが、本人だけで考えて作成されたものや、法律に詳しくない友人や、中途半端な知識しか有しない知人のアドバイスだけで作っていた場合については、いろいろな問題点や疑問点があったりして、かえって相続人間で紛争を引き起こす種になっているケースが多くあります。また、もう少し工夫すれば、よかったろうにと思う場合もあります。そうした場合にそなえて、自筆証書遺言を作成される場合は、ぜひ、弁護士にご相談をされることをお勧めいたします。

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