大阪プライム法律事務所

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マスク拒否と航空機

20.10.02 | ニュース六法

9月に、航空機に搭乗した男性乗客がマスクを着けておらず、客室乗務員が新型コロナウイルス感染拡大の防止として着けるようにお願いを続けるも、断固として拒否をしたために、最後には航空機から退去するよう命令が出て強制的に降ろされるという事件が相次ぎました。
こうして航空機から降ろされた後に、いずれの男性も、自分にはマスク着用に身体的な問題があると主張し、航空会社の対応は不当と非難していました。こうした男性の主張は正しいのか、航空機会社側に権限はあったのか、その法的根拠はあったのかなど、にわかに航空機内のルールが話題にもなりました。飛行機に乗ったとき、どんな場合に降ろされてしまうのでしょうか。

■航空機に関する法律
航空機内での乗客の行為に対しては、「航空機の強取等の処罰に関する法律」、「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」、「刑法」、「航空法」といういくつかの法律が適用されます。特に今回関係するのは、2004年1月に改正された「航空法」になります。改正された「航空法」第73条の3以下で、機内での以下の行為を禁止しています。

・航空機内にある者は、当該航空機の安全を害し、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産に危害を及ぼし、当該航空機内の秩序を乱し、又は当該航空機内の規律に違反する行為(安全阻害行為等)をしてはならない(73条の3)。

・機長は、航空機内にある者が、離陸のため乗降口が閉ざされた時から着陸後に乗降口が開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置をとり、又はその者を降機させることができる(73条の4第1項)。

・機長は、航空機内にある者が、安全阻害行為等のうち、①乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為、②便所において喫煙する行為、③航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為、④その他の行為であって、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために特に禁止すべき行為として国土交通省令で定めるものをしたときは、その者に対し、国土交通省令で定めるところにより、当該行為を反復し、又は継続してはならない旨の命令をすることができる。(73条の4第5項)。

・この規定を受けて、国土交通省は以下の行為を禁止事項として定めています(国土交通省令第164の16)。
①乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為
②便所において喫煙する行為
③航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であって、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの
④航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれがある携帯電話その他の電子機器であって国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく作動させる行為
⑤離着陸時その他機長が安全バンドの装着を指示した場合において、安全バンドを正当な理由なく装着しない行為
⑥離着陸時において、座席の背当、テーブル、又はフットレストを正当な理由なく所定の位置に戻さない行為
⑦手荷物を通路その他非常時における脱出の妨げとなるおそれがある場所に正当な理由なく置く行為
⑧非常用の装置又は器具であって国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく操作し、若しくは移動させ、又はその機能を損なう行為

・そして、こうした指示に従わずこうした行為をやめない場合には、機長の判断で、拘束や目的地以外への臨時着陸など、必要な処置をとることができるようになっています。今回の騒動も、この航空法の規定にもとづいて機長の判断で処理されたことになります。

■最初の報道事案
メディアが報道した限りでの情報では、最初に報じられたトラブルは、2020年9月7日の釧路空港発関西空港行きのピーチ機でした。報道された内容などを総合すると、以下のようなことであったようです(あくまでも報道内でのことですから、真実は分かりません)。マスクをせずに搭乗していた男性客に対して、別の客が「どうしてマスクをしていないのか」と聞いたことで言い合いになったようです。そこに仲裁に入った客室乗務員らが、男性客にマスクを着用するか、もしくは席を移動するか、どちらかをするように求めたようです。結局、男性客は言うことを聞かなかったため、男性客のいた3席と同じ列の3席にいた他の客らが席を移動し、43分遅れで出発しました。

その後、その男性客は、なお、悪態をついて、大声で他の乗客と言い合いを続け、仲裁する客室乗務員にも口答えをしたようです。結局、機長の指示で客室乗務員が男性客に警告書を渡しても、「やれるものなら、やってみろ」などと威嚇したため、機長が、前述の航空法第73条の「安全阻害行為」と判断し、急きょ新潟空港に臨時着陸しました。着陸した新潟空港では、男性客は客室乗務員の指示に従って機内から降ろされました。新潟県警の警察官も立ち会った模様です。この航空機は、その後再出発するも、関西空港に着いたのは当初予定の時刻から2時間15分遅れとなっていたようです。他の乗客124人にとっては大変な迷惑であったものと思います。 

■マスクをしていないと降ろされるのか
今回の件では、マスクをしていなかったことが機内から降ろされた理由のように見る向きもありますが、それは異なります。

マスクについては、日本国内の航空会社は、各社とも着用をお願いしているものの、強制まではしていないという状況です。今回の措置は、マスク不着用が原因ではなく、あくまでも客室乗務員が、この男性客の起こしているトラブル対応のために業務に支障が出て、「安全に運行できない」と機長が判断したためだと説明がなされています。

つまり、上記の国土交通省令第164の16で定められた「③航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であって、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの」と判断され、機長による警告になお従わずに騒ぎ続けたことから機中より降ろされたものとなります。

マスクは、人によっては付けることに抵抗をされる方がいますが、このコロナ下での社会において、しかも狭い機中で同じ空間にいる他の乗客にとっては迷惑ではありますが、付けるか否か自体は個人の自由との兼ね合いで強制とまではいきません。この方も、それを理解した上で、自分の自由を主張するのは構わないとしても、他人に迷惑をかけた上に、大声で騒ぐなどはもっての他と言えます。強制的に排除されても仕方がないといえましょう。 

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