小林修税理士事務所

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ネットの投稿記事に対して法的な削除請求をするには

20.10.27 | ビジネス【法律豆知識】

インターネットの普及により情報が入手しやすくなった反面、サイトの口コミやSNS上に会社や個人等に対する誹謗中傷が書き込まれることがあり、酷い場合は刑事事件になるケースもあります。
このような誹謗中傷の書き込みは、内容によっては個人の名誉や会社等法人の信用を毀損し、被害が深刻化する可能性もあります。
しかし、書き込み自体は表現の自由によって保障されている側面もあり、削除も一筋縄ではいきません。
そこで今回は、ネット上の誹謗中傷を法的に削除する方法について説明します。

法的な削除請求には法的根拠が必要

インターネット上の誹謗中傷を削除するための法的根拠は、人格権、名誉権、プライバシー権といった権利の侵害です。
これらの権利侵害がなされ、これらの権利に基づく差止請求権が発生していることが削除請求の法的根拠になります。

削除請求をする際、最初に行うのは、投稿が載っているサイト上に設置されたWebフォーム(お問い合わせフォーム)からの、オンライン上の削除依頼です。
その際、削除依頼箇所をURLによって厳密に特定することが要求されます。

このような削除依頼フォームがなかったり、そもそも受け付けていなかった場合には、裁判所に『投稿記事削除仮処分命令』を申し立てます。
その際、多くの場合に用いられるのが『民事保全手続』です。
民事保全手続とは、民事訴訟の本案の権利(貸金返還請求権など)の実現を保全するために行う仮差押えや仮処分の手続のことをいいます。
この保全手続は、投稿がインターネット上で公開され続けると、権利侵害の程度が甚大になる危険性があることから、暫定的に投稿記事を削除させる手続となります。

保全が認められるためには、以下の二つの要件を満たす必要があります。

●被保全権利
名誉権、プライバシー権、著作権、商標権など、投稿記事によって権利侵害状態が生じていること
●保全の必要性
迅速に権利侵害状態から回復される必要があること

また、投稿記事削除仮処分命令を申し立てた場合、権利侵害を主張する者と投稿記事が記載されているWeb媒体の管理者が裁判所に呼び出され、裁判官も交えた意見交換の場『双方審尋』が行われるのですが、Web媒体の管理者が国外にいる場合は、国際スピード郵便(EMS)を用いて呼出状の送付を行うことになります。
その際、権利侵害を主張した者が投稿記事削除仮処分命令の申し立てに関する書類を英訳し、作成して送ることになるため、Googleのように本社が外国にあるサイトの口コミ欄に記載された投稿記事を削除するのは、かなりの手間がかかることを覚えておきましょう。


時間はかかるが『本案訴訟』という手段も

民事保全手続を用いず、『本案訴訟』(一般的にいう裁判)を用いて削除を求めることも可能です。
通常、民事保全手続によって投稿記事の削除という目的は達成できるので、あえて時間のかかる本案訴訟を選択するメリットは少ないように思えます。

しかし、保全手続をし、仮処分命令を裁判所が出すに当たっては、その手続を申し立てた債権者に、担保を立てさせることがあります。
これは、違法な保全命令または保全執行によって、債務者に損害が生じた場合に、債務者の損害賠償請求権を担保するためのものです。
本案訴訟は民事保全手続と違って担保を立てる必要がないため、長期間時間をかけてでも、投稿記事の削除を行いたい場合は、本案訴訟を用いて投稿記事の削除を求める場合もあります。

先に述べた通り、投稿記事の削除は、削除したい記事の掲載されているWebサイトの開設者が海外に本社を有しているような場合、非常に手間がかかります。
しかも、これらの手間をかけても投稿記事が削除されるか否かは必ずしも明らかではありません。
削除依頼フォームからの依頼で削除してもらえるケースもありますが、現状において投稿記事を削除することは困難を伴うことが多いといえます。
ただし、今現在、誹謗中傷投稿記事の削除に関しては、投稿者の発信者情報を迅速に開示させることを可能とする法改正の動きも出てきているのは確かです。
投稿された口コミの削除依頼を考えたことがある人は、今後の法改正の動きに注意しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年10月現在の法令・情報等に基づいています。

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