宮内法律事務所

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新判例のご紹介

21.02.25 | 判例のご紹介

業務の参考になると思われる判例のご紹介です。

お世話になります。

 

宮内法律事務所でございます。

 

 今回は、特に損害保険会社のご担当の皆様に参考になると思われる判例をご紹介いたします。

 

 ご紹介する判例は、令和2年7月9日最高裁判所第1小法廷判決(平成30年(受)第1856号 損害賠償請求事件)です。

 

 事案としては、当時4歳の児童が道路を横断中に、大型貨物自動車に衝突される事故に遭い、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の障害を負い、およそ5年後に症状固定したが、高次脳機能障害の後遺障害が残り、労働能力を全部喪失したという交通事故に関するものです。原告が、自動車の運転者、保有者、対人社を被告として損害賠償請求訴訟を提起しました。この際の請求のうち、後遺障害逸失利益につき、18歳になる月の翌月から67歳になる月の終期まで毎月、賃金センサスを12分した金額を定期金として支払うように求めました。

 

 皆様が実務上も経験しておられますとおり、後遺障害逸失利益については、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を基礎として一時金にて算定することが多く、一時金による請求は珍しいものといえます。

 

 そこで、①こうした請求が認められるのか、②認められるとした場合はどのような場合か、③被害者が就労可能年数の終期に達する以前に死亡する場合にはどうするのか、という点が問題となり、これらの点につき、最高御裁判所が判断を示しました。

 

 このうち、まず①の点については、認められる場合もあるとした上で、②「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念(宮内注:損害の回復を目的とし、損害の公平な分担を理念として考えているようです。)に照らして相当と認められるとき」には、後遺障害逸失利益が定期金による賠償の対象になる、との判断をしました。

そして、③被害者が就労可能年の終期に達する前に死亡した場合であっても、「交通事故の時点で被害者が死亡する原因となる具体的な事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能年数の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しない」、つまり、被害者が67歳以前に死亡したとしても、定期金の支払を継続する義務は残るものと判示しています。

結論として、本件では、一審原告の定期金による賠償請求を認めています。

なお、賃金センサスと現実の乖離が大きくなった場合等の実情を踏まえた変更については、民事訴訟法117条1項の提起金に賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えによることで対応することとなるようです。

また、補足意見では、被害者が就労可能年の終期に至る前に死亡した場合にもこの117条1項によるかこれを類推適用することにより、死亡日以降の逸失利益につきライプニッツ係数を用いて計算を行った一時金の支払いに変更することを求めることができる可能性があることが指摘されています。

 

あまり件数は多くないとは思われますが、幼児が重度の後遺障害を負った場合には、今後、被害者側から定期金による賠償を求められるケースが今後出てくるものになると思われますので、ご参考までにご紹介いたしました。

 

内容に関するお問い合わせなどがございましたら、お気軽にご連絡いただければ幸いです。

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