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新たに「法人補償契約制度」「役員等賠償責任保険制度」スタート

21.02.27 | 非営利・公益

令和元年に会社法が改正され、そこで新たに会社における補償契約制度と役員等賠償責任保険(D&O保険)制度が創設されました。これに合わせて、一般社団財団法人法も同様に改正をされ、これら制度が導入され、2021年3月1日から施行となりました。

「補償契約」とは、法人と役員等(理事・監事・会計監査人)との間での契約となり、またD&O保険は、保険会社と役員等との間で交わす契約になります。両制度は、いずれも役員の損害賠償責任との関連で、損害額や関連費用を法人が支払うことになるので、法人と役員との間は利益相反的な関係にあるため、そこに一定の法的なルールを定めたことになります。

■理事の損害賠償責任
役員は、一定の要件に該当すると、その法人または第三者に対して、その者が被った損害に対して賠償の支払義務が発生します。つまり、法人に対しては、役員は善管注意義務がって、そこに「任務懈怠」をしたり、法令・定款違反をしたりして、法人に損害を生じさせたら賠償責任が生じることになります。第三者に対しては、役員がその職務を行うにつき、悪意または重過失によってその第三者に損害を及ぼしたときに、損害賠償の支払義務が生じえます。 

■「補償契約」について
補償契約とは、役員が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や第三者に賠償することになった賠償金額の全部または一部を、法人が負担することを役員と交わす契約を言います。

これまでは、こうした制度が無かったため、役員が訴訟提起を受けた際に、法人が負担することのできる費用や損害の範囲などについて解釈があいまいでした。また、これが乱用されると、役員のモラルハザードが生じる可能性もあるため、導入には慎重論もありました。今回の改正では、こうした補償契約の手続きや範囲を明確にして、法人補償に関するルールを定めたことになります。これによって、今後導入する法人も増えるものと思われます。また役員も、こうした制度の整備を通して、乱訴的な責任追求などでのリスクを恐れずに安心して職務に専念できることとなります。 

補償契約の範囲は、
①役員が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(いわゆる防御費用)と、
②役員がその職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失です。

①の防御費用は、主に弁護士費用や調査費用等が相当します。これについては、補償の要件がなく、結果的に役員が敗訴した場合でも支払いができますが、通常要する費用の額を超える部分については、補償契約にかかわらず、補償はされないことになっています。

②は、第三者から請求がなされた場合の損害賠償金や和解金が相当します。罰金や課徴金、及び役員が法人に対して支払う損害賠償金は含まれません。また、防御費用の補償の場合と違って、役員が職務を行うにつき、善意かつ無重過失の場合だけが補償の対象となります。

補償契約では、その内容を、理事会設置法人では理事会での決議が必要となり、締結後には報告も必要となります。その手続きにあたっては、利益相反取引規制そのものは適用されません。 

■役員等賠償責任保険(D&O保険)について
D&O保険は、法人が役員を被保険者として保険者(=保険会社)と締結する保険のことを言います。D&O保険はすでに普及していますが、その適用範囲や手続き、保険料などを法人が負担することができるのかどうかについて、これまで法律でのルールがありませんでした。特に問題になっていたのは、保険料を法人が負担するのは利益相反の面があるため、その是非について解釈が分かれていました。ただ、国税庁が、理事会承認等の一定の手続きをした場合は、社員代表訴訟担保特約部分の保険料についても、役員個人に対する給与課税は発生しないとの見解を示すなどしていましたが、今回の改正で、D&O保険締結の可能範囲やその手続きを明確にしたわけです。

D&O保険の対象となるものは、法律上の損害賠償責任を追及され、賠償請求されたときに支払う賠償金や和解等法律上支払うべき賠償金、弁護士への着手金・報奨金・裁判所への手数料・調査費等の争訟費用となります。罰金や過料などは除外されています。

D&O保険の内容の決定には、補償契約と同様に、理事会設置法人では理事会での決議が必要となります。保険契約については、補償契約と同様に、利益相反取引規制は適用されません。

なお、すでにD&O保険を保険会社と締結している場合には、今回の改正を踏まえてその内容を変更する必要がない場合は、経過措置が設けられていて、あらためて理事会決議を行う必要はないものとされています。

また、国税庁は、「会社が、改正会社法の規定に基づき、当該保険料を負担した場合には、 当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。」という見解を公表していますので、これは公益・一般社団法人でも同様と解されます。

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