藤原公認会計士事務所

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相続税の節税になる法人化のメリットとデメリットを知っておこう

21.06.29 | ビジネス【税務・会計】

相続税の節税対策の一つに、事業の法人化があります。
相続税は個人の財産に対して課されるため、個人事業主として営んでいる事業があれば、それを法人化し、その事業に関する財産を法人に移転することで、相続税の額を減らすという方法です。
また、相続人を役員にして、役員報酬という形で法人から給与を支払うことで、相続税も贈与税もかからずに、財産を移転させることが可能になります。
一方で、相続税対策として会社を設立する際には、さまざまな注意点も存在します。
個人の財産を問題なく移転するための法人化について説明します。

法人化は生前にできる財産移転の一つ

相続税とは、相続人等が被相続人から現金や預金、株券や不動産などの財産を取得する際に課される税金で、財産の評価額が大きければ大きいほど、納税する額が増える累進課税制度により計算される税金です。
ただし、相続税には基礎控除額が設定されており、下記の式で求められる額を下回る財産分については課税されることがありません。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

つまり、基礎控除額を超える財産を所有している場合に相続税が発生するため、被相続人が所有している財産を生前に減らしておくことが、節税対策になるというわけです。

相続税の節税対策には、相続人への生前贈与や生命保険の非課税枠の利用など、さまざまな方法がありますが、特に効果が大きいといわれているのが、事業の法人化です。
相続税は個人が所有している財産を対象にした税金なので、法人が所有している財産に相続税はかかりません。

相続の事前準備として法人を設立し、財産を法人の所有物にするというやり方は、一般的な節税方法としてよく知られています。
法人に財産を移転することによって、被相続人が所有している財産は減るため、その額を基礎控除額以下にすることも不可能ではありません。
また、財産を引き継がせたい家族を法人の役員にして役員報酬を支払えば、贈与税を支払わずに生前に財産を移転することが可能になります。

贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に個人から贈与を受けた財産の合計額から、110万円の基礎控除額を差し引いた額に対して課税されます。
毎年、110万円以下の贈与を受ける場合には、贈与税は発生しませんが、それ以上の額を贈与された場合には、贈与税を納める必要があります。

しかし、設立した法人から役員報酬として支払われる給与には、たとえ社長が親で、役員が子であったとしても贈与税の対象にはなりません。
また、役員は社員ではないので、時間や場所の拘束を受けないため、毎日のように事業所へ通勤させる必要もありません。

このように法人化は、相続税の節税という面で、とても有効といえるのです。


法人化のデメリットと抱えるリスク

一方で、相続税の節税目的で行う法人化には、税金以外のさまざまな問題が発生します

会社を設立するには、手間もかかりますし、株式会社の設立には最低でも20万円ほどの費用がかかります。
毎年、法人税や地方税を納めなければいけません。
特に、地方税の一つである法人住民税は、法人が赤字だったとしても均等割の分を納める必要があります。

また、そもそも事業を運営している実態がないと法人とは認められません。
相続人を役員にしたことで、会社の運営にまつわるトラブルが発生することも考えられるでしょう。

もちろん、会社法に則って法人を運営していく必要がありますし、運営にともなう会計処理も必要になってきます。
個人事業主の場合とは異なり、法人の会計は複雑で、そのための勉強もしなければなりません。
経理を雇うにしても、当然人件費がかかります。

基準期間等の課税売上高が1,000万円を越えなければ、法人でも消費税の納税義務はありませんが、資本金が1,000万円以上の法人等を設立した場合は、課税売上高の額とは関係なく、初年度から消費税を納税しなければなりません。

このように、相続税以外の部分でデメリットが出てくる可能性があります。
また、事業が悪化すれば、移転したはずの財産も減っていきます。
法人化による相続税の回避は、リスクも含んだ節税方法だということを理解しておくことが重要です。

相続税を納めることになっても法人化しないで相続したほうがよいのか、それとも法人化して相続税の節税を実行したほうがよいのかは、ケースにより異なります。
財産移転を考える際は、メリットとデメリットを加味したうえで計画的に行うようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2021年6月現在の法令・情報等に基づいています。

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