大阪プライム法律事務所

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顧客の転倒と店舗の賠償責任

21.07.31 | ニュース六法

7月28日、東京地裁で、レタスの水で客が転倒した事件で、スーパーに賠償を命じた判決が報道されました。時事通信の記事によると、スーパーの店内で転倒し、左肘を骨折した東京都の男性が、床が水浸しで放置されていたのが原因だとして損害賠償を求めた裁判で、野菜売り場でサニーレタスの水が床に垂れたため転倒の危険が生じたとして、約2180万円の支払いを命じたということです。裁判長は、サニーレタスに付いた水が垂れて床がぬれていたのに、清掃などの対応をした形跡がうかがえないと指摘し、「安全管理義務に違反した」と判断したと報道されています。
このように、店舗において顧客が転倒する事故が発生した場合、どこまでが顧客の自己責任で、どこからが店舗の責任となるでしょうか。

■法的責任を負う場合の根拠
来店客による転倒事故が発生した場合、店舗の責任としては、「債務不履行責任」と「不法行為責任」の二種類が考えられます。

前者は、顧客と店舗との間では安全に買い物ができるようにする暗黙の上での合意が成立していて、それに違反したという契約上の責任です。後者は、店舗側は店舗設備を安全に維持する法的義務があるのにそれを怠ったがために人を負傷させたりした場合に負う責任です。

いずれの場合も転倒事故が予見し得ていたこと(予見可能性)と、結果を回避する義務(結果回避義務)があってそれに違反したことの両方が認められたら、責任が認められます。

一方で、店舗側が結果回避義務を十分に尽くしていたにもかかわらず、顧客が通常では想定しにくい歩き方をしたために転倒事故が生じてしまった場合は、顧客の自己責任として、店側の賠償責任が否定されることにもなります。そのいずれになるかは、ケースバイケースで判断されることとなります。この種の事故での裁判例はいくつか公刊されていますが、そのうちの代表例を示します。

 ■転倒事故で店舗の責任が肯定された裁判例(アイスクリーム事故)
平成25年3月14日岡山地方裁判所判決(請求一部認容)
これは、75歳の女性客がショッピングセンターのアイスクリーム売場で転倒受傷した事故です。店舗側に862万の損害賠償責任が認められた事例ですが、被害者の過失相殺として2割がカットされています。被害者は、転倒事故で右大腿骨骨折などの傷害を負い、大きな後遺症を残しました。

本件事故当日は,アイスクリーム売場で、商品が値引きされて販売されており,また,ハロウィンの日でもあったことから,多数の客が集まっていました。原告女性は,当日,買い物袋を載せたショッピングカートを押して本件店舗内の本件売場前の通路を歩行中,左足を滑らせ,転倒しました。その直後,転倒したすぐ後ろあたりの床面に紫色の汚れが残っていたことが証拠上認められていました。

その上で、当日はアイスクリーム店の特売日であったため、店舗側は付近に十分な飲食スペースを設けて誘導したり、巡回を強化するなどしてアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務があったとして、裁判所は賠償責任を認めました。

他方で,原告女性としても,本件売場でアイスクリームが販売されていて、事故当時も約20名の客が行列をつくっているような状態であったことは認識していたのであるから,その売場付近の通路上にアイスクリームの一部が落下して滑りやすくなっていることも予測できたというべきとして、被害者側にも20%の過失があるとして、その分を控除しています。 

■転倒事故で店舗の責任が否定された裁判例(床濡れ事故)
平成22年12月22日名古屋地方裁判所岡崎支部判決(請求棄却)

これは、スーパーマーケットに顧客として訪れた原告が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負ったとして、損害賠償を請求していました。

裁判所は、この事案で、当時の現場の状況を証拠などから詳しく認定し、もともと、店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではなく、また転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況で、転倒の危険を生じるほどではなかったとして、他にも転倒事故が発生していた形跡も全くないことなどから、本件店舗の床の管理について問題があったとは認められず、また従業員において注意義務違反があったとも認められないとして賠償責任はないものと判断しました。 

■事案ごとの判断
このように、多くある裁判例のいずれも、多くの様々な要素を考慮して、個別具体的に、事故発生の予見可能性と結果回避義務の有無を判断しています。店舗側としては、こうした賠償責任を避けるためには、危険場所の検討、顧客層を考慮したマット・床材等の選定、監視体制の検討、清掃の時間帯と方法等、あらゆる角度から可能な範囲での適切な防止策を講じる必要があります。

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