大阪プライム法律事務所

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企業における「ビジネスと人権」 ~ SDGs達成のために

21.07.31 | 非営利・公益

2015年9月、ニューヨークの国連本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催され、そのサミットを経て、2030年までに達成すべき国際社会共通の17の目標として掲げられたのがSDGs(=Sustainable Development Goals)です。SDGsへの意識が年々高まっていく中で、SDGsに取り組むことが企業の大きなメリットとして意識をされるようになりました。その中で、企業における「人権デュー・デリジェンス」の重要性が強く言われるようになりました。日弁連の「人権デュー・デリジェンスのためのガイダンス」も含めて、少しご紹介します。

■エシカル消費(消費者目線)
消費者は、近時、商品やサービスを購入する際に、人や社会・環境に配慮した商品を求め、選択する傾向が強くなってきています。こうした消費活動を行うことを「エシカル消費」と呼ばれています。

エシカルとは、直訳すると「倫理的な」「道徳上の」という意味で、法律とは関係なく、多くの人が正しいと思うこと、良心に基づく社会的な規範という考え方を指します。これまで値段などを最優先にしてきた消費行動は、今では、「気候変動」や「生物多様性の損失」など多くの問題を生み出しています。私たちは、こうした情報に接する中で、次第に、他の人々や環境が良くなっていくようにと考えた消費行動が生まれてきたのです。今や、エシカルは、「安心・安全」「品質」「価格」に次ぐ第4の商品選択要素ともなってきたのです。

消費者庁でも、エシカル消費のリーフレットや動画等を公表しています。https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/material/

これまでは、よく「エコ」というフレーズで環境問題への意識が言われていましたが、現在では、この「エシカル」が、環境だけでなく、もっと幅広く、貧困、児童労働、福祉、食品ロス、生物多様性の損失、地域の課題といった、社会全体に関わる問題に対しての倫理的な消費行動で、一人一人が取り組むことのできる解決行動となってきています。

投資の世界でも、この視点が強くなってきています。いわゆる「ESG投資」というものです。これは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。特に年金基金などの大きな機関投資家を中心に、企業でのサステナビリティを評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されています。エシカルでない企業は、単に消費者だけでなく、投資家からも見放される時代になりました。

 ■ビジネスと人権
このような流れの中では、企業自体が持続的に発展していくためには、エシカル消費(消費者目線)に立ち、SDGs達成に向けた活動が不可欠になってきたことは言うまでもありません。そこでは、環境だけでなく、貧困、児童労働、福祉などの多くの場面での人権配慮の取組みも重要な視点となってきています。 

■国連「ビジネスと人権に関する指導原則」「人権デュー・デリジェンス」
このビジネスと人権に関しては、SDGsが採択される前である2011年6月の国連人権理事会において、「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で承認されています。法的拘束力はありませんが、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準として、強い影響を及ぼしています。

ビジネスと人権に関する指導原則は、「国家の義務」「企業の責任」「救済へのアクセス」の3つから構成され、企業に対し、企業が引き起こしている人権侵害への対応を求めています。その中で、「人権デュー・デリジェンス」という用語が使用されています。

①人権を保護する国家の義務
国家は、その領域で、また管轄内で人権が侵害されることを防ぎ、もし侵害が起こった時には、その侵害状態を取り除き、責任者の処罰と必要な場合には補償を確保する義務がある。また国家は、企業に対して、様々な立方的、行政的方法によって、企業活動を通じて人権が尊重されるよう求める必要がある。
②人権を尊重する企業の責任
・方針によるコミットメント
 企業は、全ての企業活動において人権を尊重する責任を、方針として公にすること。
・人権デュー・デリジェンス
 企業は、企業が関与する、人権への負の影響について、特定し、分析し、評価し、その結果を企業の対処プロセスに組み込み、適切な行動を起こす。また、人権への負の影響を引き起こし、またはこれを助長したことが明らかになる場合は、是正に努めなければならないことなど。
③救済へのアクセス
企業活動によって引き起こされる人権侵害に対しては、苦情申し立てなど、被害者が実効的な救済を受けられるような救済制度へのアクセスが保証されること。 

■日弁連の「人権デュー・デリジェンスのためのガイダンス(手引き)」
この国連の指導原則を受け、2015年1月の時点で、日弁連は、上記「人権デュー・デリジェンスのためのガイダンス(手引き)」を公表しています。https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2015/150107_2.html

このガイダンス(手引)は、サプライヤー契約における「CSR条項」に関して、そのモデル条項を提唱すると共に、その法的論点に関して解説しています。サプライチェーンにおける人権・CSR配慮の必要性が急速に高まっていることから、CSR条項は、サプライチェーン全体を通じた人権・CSR配慮を実効的に推進するための法的ツールとして大きな役割を果たすからです。

本ガイダンス(手引)は、弁護士として、企業及び企業への助言等を行う際に、人権リスクを評価し、負の影響を回避・軽減するための内部統制システムを構築する際や、また、取引先(調達先、業務委託先、販売先、融資先、業務提携先、買収相手等)と取引を行う際の注意すべき手引きとして機能することが期待されています。また、企業の方々においても、大いに参考になるものと思われます。

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