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人材不足解消にもつながる多能工の育成方法

21.08.31 | 業種別【建設業】

慢性的な人材不足を背景に、建設業界では複数の作業を遂行する能力を有したマルチクラフター、いわゆる『多能工』と呼ばれる人材に注目が集まっています。
多能工は、工種の入れ替えがないため、工期の短縮につながり、同一の現場に同一の人材を配置することによる品質の向上なども期待できます。
建設業界においては多能工の育成が急務となっており、多くの企業で多能工のための研修やOJTが行われています。
人材不足の解消にもなる多能工の可能性を具体例なども交えながら紹介します。

複数の工程を一人でこなせる多能工

建設業界においては、新卒者などの若手人材を確保できていない一方で、高齢者が多く、同時に離職率も高いことが人材不足の原因にあげられています。

そんな人材不足解消の手段として、複数の異なる作業や工程を遂行するスキルを持った多能工の育成が推進されています。
中長期的なスパンで多能工を育てることで、1現場に携わる人数を減らすことが可能になり、人材不足の解消につながるというわけです。

企業にとっても多能工の育成は、とても大きなメリットがあります。
従来の建設工事は、それぞれの工程で工種の入れ替えを行い、専門の業者や技能者が工事を担当していました。
社内に技能者がいなければ、当然、技能者の数だけ外注費が発生しますし、各工種間の連携も図らなければいけません。
また、それぞれの工程を別の技術者が担当するので、品質のばらつきが出てしまう可能性がありました。

一方、多能工は複数の技術を有した個人であるため、工種の入れ替えがなく、工期の短縮やコストの削減が期待できます。
結果として生産性の向上や収益率のアップなどにもつながります。
さらに、一連の工事を同一の多能工が通して担当することができるため、品質のばらつきがなくなり、施主や元請からの信頼が高まるというメリットもあります。

もちろん、企業だけではなく、多能工自身にも有利なことがたくさんあり、住宅であれば1人で工事一式を引き受けられたり、他職が施工している間の待機時間がなくなったりするので、効率的に働いて休みを確保し、なおかつ収入を増やすことができます。
また、企業に所属して働くときにも、さまざまな案件に対応できる人材として活躍できますし、資格に応じた給与や地位の向上なども望めます。

ただし、上記のように企業と労働者のどちらにも利点のある多能工ですが、複数の職種にわたる建設業許可の取得が必要になり、それぞれの職域にある程度熟達するまでには、年単位の期間が必要です。

また、企業側が多能工を前提とした工事を受注できなければ、せっかくの多能工を活躍させることができませんし、給与や地位などを適切に評価しないと多能工の離職につながってしまう可能性もあります。

さらに、多能工はどうしても、得意な施工とそうでない施工にムラができがちで、仕上がりの品質が読めない、あるいは不慣れな施工内容だった場合は時間がかかるので、専門工と同じようには現場投入できない、といった声もあります。
しかし、空前の人手不足であることを踏まえれば、多能工化は積極的に進めるべきテーマです。
こうした問題点も、知恵や工夫で乗り越えていくことになるでしょう。


多能工の育成方法と活用事例

多能工の育成は、研修やOJTなどで行います。
職業能力開発校の富士教育訓練センターなど、多能工を育成するコースを備えた学校もあり、希望に合わせてやり方を選ぶ必要があります。

では、国内の企業における具体的な多能工の活用事例を見てみましょう。
国土交通省が公表している『マルチクラフターの育成・活用事例集』にある、工藤建設株式会社のケースを紹介します。

工藤建設株式会社では、各技能について専門工の7~8割の実力を目指すというレベル設定をして、多能工を育成しています。
ただ、職人が好きな工種、得意な工種は、目標レベルに関わらず自由に追求させることで、専門工と同程度まで技能レベルが上がった多能工もいるということです。
技能としては『測量(遣り方・丁張り・墨出し)』『土工事(根切り・掘削)』『鉄筋組立工事』『型枠工事』『コンクリート工事(打設・押さえ)』『作業足場の組立て・解体』を習得させており、注文住宅の基礎・地下室工事や、マンションの躯体工事に限定して、多能工を活用しています。
山留めや残土処理、鉄筋加工などは外注しており、担う業務を明確にしていることが一つの大きなポイントです。

育成にあたっては、富士教育訓練センターなどの外部訓練施設での社会人研修を利用し、技能部分はOJTにより、実践的な教育を行っています。
作業は必ずベテラン・若手の2人組の指導体制としていて、施工サイクルの安定した住宅の基礎工事を年間4~5現場経験することで、効率よく仕事を覚えることができているようです。
こうした取り組みの結果、同社では、専門工による施工で実働38~40日のところ、自社多能工による施工では30日と、工期の20%減を達成しました。

多能工の育成にあたっては、はじめから多能工を育てるほかに、自社の専門工に、その工程に隣接する技能を覚えてもらう選択肢もあります。
専門工を多能工に再教育する場合、まずは工程において隣接している技能を覚えてもらうことで、知っている・できる範囲を増やし、ゆくゆくは多能工として活躍してもらう、という方法もあります。

まずは自社の請け負っている業務を確認し、多能工化について検討してみましょう。


※本記事の記載内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。

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