宮田総合法務事務所

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住宅ローン付不動産を離婚に伴う財産分与ができるか

14.11.19 | 暮らし・人生にお役に立つ情報


夫が主債務者となっている住宅ローン付き不動産(名義は夫100%か夫婦共有)を、 離婚に伴う財産分与で妻100%名義にしたいという相談はかなり多いですが、 法律的には多分に問題をはらんでいます。

住宅ローンが残っているマイホームを夫婦間で清算する手続きにつきご説明します。


離婚に伴う財産分与で、住宅ローンが残っているマイホームを夫婦間で清算し、
妻名義に変える手続きについてご説明します。
この場合、妻への所有権移転登記手続きだけで考えた場合は、
住宅ローン(抵当権)が付いていても、単純に妻100%名義にすること自体は可能で、
登記手続としては難しいことではありません。

しかし、法律的には多分に問題をはらんでいます。
なぜなら、住宅ローンを融資してもらう際に締結する「金銭消費貸借契約書」には、
一般的に次のような主旨の条項が盛り込まれているからです。
「抵当物件の所有者が所有権を第三者に譲渡する(名義を変更する)場合は、
事前に銀行の承諾を得なくてはならない。」

つまり、銀行の承諾なしで勝手に所有権を妻に移転することは、
銀行との契約に違反することになります。
したがって、本来であれば銀行に承諾を貰うべく事前に話をすることになりますが、
通常銀行は快くOKとは言わないでしょう。
住宅ローンの債務者と当該住宅の居住者が異なることは、
住宅ローンの本来の趣旨から逸脱するからです。
では、妻名義にすると同時に住宅ローンの債務者も妻とすれば、どうでしょうか。

もし、妻に収入がそれなりにあり、銀行融資の審査が通れば理論上問題はありません。
しかし、ほとんどのケースでは、融資の審査は通りません。
そうなると実際に取るべき手法は、住宅ローンはそのまま維持した上で、
次の2つの中から選択することになるでしょう。


(1)不動産名義を住宅ローンが完済するまで夫名義とし、
     完済後に妻に財産分与で移転登記するやり方


妻は、履行引受という形で夫名義の住宅ローンの返済を続けていくことになります。
この手法ですと、住宅ローン完済まで長い年月を要し、妻としては、 他人名義の不動産に居住するという不安定な地位を強いられる形になってしまいます。
したがって、この手法を選択する場合は、公正証書できちんとその旨の約束を明記しておくと同時に、夫が勝手に当該不動産を売却しないように
妻を名義人とする「所有権移転仮登記」を入れておく等の対策を講じておく必要があります。



(2)リスクを承知で妻名義に所有権を移転するやり方

契約書の規定に従い、銀行に事前に承諾を求めることは可能ですが、
承諾を得られる保障はありません。
したがって、リスクを承知で銀行への連絡をせずに妻に
所有権を移転する手法が考えられます。

実務上は、住宅ローンの支払いが滞らない限り、
銀行がこの事実を把握しても問題になる可能性は低いと言えます。
しかし、契約違反にはなり得ますので、法律家として積極的にお勧めすることはできません。

もしローンが滞った場合、悪質だとして、リスケジュール(返済計画の見直しや返済猶予)に
関して通常のケースよりも融通をきかせてもらえず、強制競売される可能性も
ゼロではないことを 認識してこの手段を選択する必要があります。

また、債務者である夫がローンを残して死亡した場合、通常であれば『団体信用保険』、
いわゆる“だんしん”が下りてローンが完済されることになりますが、勝手に妻名義に
したことにより契約違反を理由に“だんしん”が適用されない可能性もあります。
つまり、債務者が死亡してもローンがそのまま残るリスクが出てきます。


上記のいずれの方法をとるにせよ、後々トラブルにならないように、
誰がどのような形で住宅ローンを返済していくのか等を離婚協議公正証書の中で
しっかりと法的に確定しておく必要があります。

まずは、お一人で悩まずに専門家にご相談下さいませ。
きっと最適な解決策が見つかるはずです。


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