ビジネスで経験を積むとは何をすること?
21.12.16 | 所長メルマガ
あるとき若い人と話をしていて「経験」についての認識が違うことに気づいた。新人は仕事に対して情報、知識、体験など乏しい。だから、努力してなるべく早く知識の量を増やすことを心がけているとのこと。だが、特別に才能があるわけで無いので、最近は消化不良気味となっている。先輩として良い方法があったら教えて欲しいと言うたわいの無い話だった。
仕事にしろ、趣味やスポーツなどでも、特別の素質や才能が無い限り初めての場合、一定の量や時間を経ないと普通のレベルに達しない。仕事だと使い物にならない、見習い段階だろう。だから、数多くの新しい技術や知識を得ようと努力することは間違いでは無い。問題はそのやり方だろう。例えば、スポーツで技のフォーム(型)を一度に沢山覚えても実践では役に立たない。混乱して正しい動きが出来ない。一つ一つが正しく出来るようになるまで繰り返すのが正しい。仕事の知識でも全く行動を伴わないと忘れてしまい役に立たない。特に大事なことは無意識で行動が出来るように努力する。だから防災訓練など、ほとんど発生の可能性が低くても行う。そうすると、短時間で効率良く知識や技能を身に付けようとするのは間違いと言える。もちろん、一つひとつを本当に自分のものにすることはかなり時間が掛かるもの。
うちの事務所で上達の早いある社員は、初めて行った特別な仕事を忘れないようにと、自分の担当のお客様や同僚、上司から同様の仕事をもらい受けて、最終的に得意わざの一つとしていました。 当然プロなら仕事のやり方を知っているだけではなく、要求されたなら一定のレベルのものを直ぐに提供できるようでなければなりません。当然、質が問題ですが、そのためにはある程度の量が必要となる。
もう一つ、経験に対する考え方も大切です。例えば、料理人について見れば沢山のレシピを知っているひとが優秀というわけでは無い。単品の料理であっても安定して提供できるのがプロとして優秀だろう。当然、食材の質や種類は毎回微妙に違う、また気候などの諸条件も異なる。だからと言って味等が毎回異なるのはプロとは言えない。当然一定の品質を再現するために微調整を行っている。こうした行動が出来るために行った数多くの失敗や成功が本当の意味での「経験」だろう。単に沢山の種類の経験量が豊富でも意味ない。最近は職場に業務マニュアルなるものがある処も多い。ところが、コツなるものが記載されていることは少ない。当然、言葉では正確に伝えられないこともある。また、マニュアルにある想定どうりに事が運ぶわけは無い。特に営業など人間の欲望や情動にからむ問題は毎回違う。それでも一定の成果を上げることが必要となる。そうすると「経験」とは、望むべき目標や目的、成果に向かって行った一定の手順行動と実際の結果との差異の調整行動のこと(を含む)と考えることも出来る。
ゼネラリスト(経営管理者?)とスペシャリスト(専門家、技術者、職人)という区分がある。現在の日本では、どちらも典型的な人は望まれないようだ。自分の担当する業務に対しては専門的で詳しく、会社の他部門等の役割も理解し協力出来る人が好まれる。言わば、魚の目と鷹の目の両方を持っていると有望と思われる。このことを意識すると、仕事は、浅く広くと深く得意分野を持つことの二つの視点から経験を積む必要となる。その問題意識を持っていれば、同期より成長が早く、組織に有用な人材に育つ可能性が大である。特に専門分野は丁寧に時間をかけて磨いて行くべきだろう。そのような教育が望ましい。