大阪プライム法律事務所

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統一教会問題(信教の自由と霊感商法)

22.07.18 | ニュース六法

安倍晋三元首相が、7月8日、選挙の応援演説中に銃で撃たれ亡くなった事件は、日本中のみならず世界中に強い衝撃を与えました。いかなる理由、動機があろうが、人の命を奪う凶行は許せません。今後、被疑者の動機や背景などの解明とともに、要人警護上のミスの原因と課題の徹底究明がもとめられるところです。
被疑者の動機とという面では、背景に統一教会が大きく絡んでいたことが報道されています。この組織のことは、かつては、有名歌手の合同結婚式参加ニュースや、霊感商法被害のニュースで大量に報道されていましたが、それ以降に生まれた若い層などにはあまり存在が知られていないようです。この組織には、霊感商法と言われる活動などで大きな問題を抱えてます。この点で、霊感商法と本来あるべき宗教活動との線引きはどこにあるのでしょうか。

■宗教活動と献金
一般に、特定の宗教を信仰する人が、その宗教の教義を広めたり、宗教活動を維持するために、他の人に対し、任意に献金することを求めたり、宗教活動の一環として物品を販売したりすることはよくあることです。神社の祭礼での寄付集めはその典型ですし、数珠や教本の販売などもよくなされていることではあります。その方法、態様、金額等が社会的に相当といえる範囲に留まっている限りにおいては、違法ということはできません。

しかし、「この商品を買えば幸運を招く」とうたって商品を売るような行為は、かねてから「開運商法」などと呼ばれています。そのような中、1980年代に世界基督教統一神霊協会(統一教会/統一協会)の信者らによってこの種の商法が問題となってから、これを「霊感商法」と呼ばれるようになりました。先祖の霊が苦しんでいるとか、先祖の因縁を説かれ、高価な印鑑、壺、多宝塔等を購入した多くの者が、国民生活センターや各地の消費生活センターに苦情を寄せるようになっていました。

こうした統一教会による霊感商法の被害者らの急増に対して、1987年に全国約300名の弁護士による「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が結成されました。そこで、統一教会に関する情報収集および情報発信を行い、電話相談に応じてきました。2013年に統一教会の信者である桜田淳子の芸能活動復帰に対し復帰に反対する表明を出しています。また2021年9月には、元内閣総理大臣の安倍晋三氏に対して、統一教会のフロント組織である天宙平和連合 (UPF) などに祝辞や祝電を送ることは、それら組織に「お墨付き」を与え反社会活動を容易にすることになるとして、祝辞や祝電を送らないように求める抗議文を出していました。

同連絡会のホームページによると、1987年から2021年までの霊感商法による「被害件数」は3万4537件で「被害総額」は約1237億円に上り、物販には壺・印鑑・朝鮮人参濃縮液などが用いられているとしています。(出典 https://web.archive.org/web/20220712034053/https://stopreikan.com/index.htm

 ■教会の使用者責任
当初、被害者が提訴した損害賠償請求訴訟では、なかなか勝訴までたどり着くことが困難な状態でしたが、その後信者らの不法行為に対して統一教会/統一協会自体の使用者責任を認める判決がでてくるようになりました。近時の公刊物に登載されたものに限ってみても、福岡地裁平成6年5月27日判決、奈良地裁平成9年4月16日判決(その控訴審:大阪高裁平成11年6月29日判決)、東京地裁平成9年10月24日判決(その控訴審:東京高裁平成10年9月22日判決)、福岡地裁平成11年12月16日判決、広島高裁岡山支部平成12年9月14日判決、札幌地裁平成13年6月29日判決、大阪地裁平成13年11月30日判決、京都地裁平成14年10月25日判決、京都地裁平成14年10月25日判決、東京地裁平成18年10月3日判決、東京地裁平成19年5月29日判決などが公表されています。これらは被害実態のごくごく一部であることを考えると、いかに多くの被害が生じていたかがしれるところです。 

■信教の自由との関係について
一般的な議論として、宗教団体が献金等の勧誘行為をする場合について、それが宗教的行為の一環として行われる場合、不法行為となりうるかという点については、宗教団体や、勧誘者である信者に信教の自由(憲法20条)が認められていることとの関係で、ただちに違法ということについては問題はあります。そこが、この種の事案での違法性判断のややこしい点と言えます。

この点について、宗教に対し過度に干渉することは慎重でないとならないことは当然ですが、一方で、宗教的行為だという理由のみで、どのような勧誘行為も違法ではないとすることも妥当とはいえません。

この点で、違法性の有無の判断基準として、多くの裁判例は、献金等の勧誘行為の目的、方法及び結果等を要素として社会通念上相当性を欠く場合には私法上違法となるとの枠組みを採用し、勧誘行為を個別に判断し、行為内容によって違法であると認定しています。 

■協会の責任を認めた判決内容
東京地裁平成18年10月3日判決は、元信者が平成4年から平成15年にかけて、世界基督教統一神霊協会に対し、献金・商品購入代金の名目で合計約4億5682万円を支払わされたとして、交付した金銭相当額と慰謝料などの支払を求めた訴訟でした。協会側は、元信者は自分の意思で献金・商品購入をしていたとか、協会が組織的、計画的に献金勧誘行為や勧誘した信者らの指揮監督をしたことはないと主張していました。

この判決では、相手方に害悪を告知したり心理的な圧力を加えるなどして、殊更に相手方の不安、恐怖心などをあおるなど自由な意思決定に制限を加えるような不相当な方法でされ、その結果、相手方の正常な判断が妨げられた状態で過大な献金がされたと認められる場合には、社会的に相当な範囲を逸脱した行為として、違法と評価されるという判断枠組みを示しました。その上で、元信者がした献金・商品購入のうち合計約2億6245万円についての勧誘行為は違法と判断しました。そして、協会が組織的、計画的に勧誘行為をしていたとまでは認められないとしつつも、信者らの違法な勧誘行為について使用者責任を負うと判断し、その賠償義務を認めました。 

■政治と統一教会問題について
統一教会は、私が大学時代からすでに、学内で活動をしていたという記憶があります。宗教であることを隠してのサークル勧誘があるとして、すでに注意が喚起されていました。その活動が延々と続き、拡大を続け、巨大な組織になっていたわけです。この組織が行ってきた霊感商法については、民事では裁判所によっていくつもの違法認定がされており、一部は刑事事件として摘発もされました。しかし、この教会はその姿勢を根本的に改めることはしていなかったと評価せざるをえず、その遵法精神の欠如には著しいものがあると思われます。

厄介なのは、こうした組織が、政治家に強く働きかけ、一部政治家に対しては集票勢力化していたことも表面化してきています。国会議員への秘書の送り込み、ボランティア運動員の提供、組織的投票など、かなり深い関わりも表面化しています。遵法精神の欠如の延長線上に政治家との密着があることは、恐ろしさえ感じてくるところです。

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