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孤高の人・・・大橋です

11.10.12 | 事務所通信

秋めいてまいりました。

秋の夜長のお供といえば読書。
マクラにアゴを乗せて、読書灯の淡い光で本を読むのもまたオツなものです。
読書に適しているのは夜に限らず、
日中電車に駆け込んだって汗もかかず涼しい顔して読書。
というのもまたオツなものではないでしょうか。

『秋深き 隣は何を する人ぞ』なんて言いますが、車内で隣を見てみると大抵スマホか携帯ゲーム。
私もiPhoneに変えようかななんて悩んでいるところですが、たまにはhon(本)を持って出かけてみることにいたします。

なんて出来そこないの落語のマクラのような話なんかもたまにはしてみたくなるのが秋なのでしょうか。

さて、本日は読書の秋にどうでしょうということで、オススメの本を紹介しようかなと思います。


『孤高の人』新田次郎

実在のクライマー・加藤文太郎の生涯をモデルにした登山小説の名作。

昭和初期の話なのですが、当時、登山は一般的なものではなく、
高価な装備と山岳ガイドを雇って登る、金持ちのスポーツでした。
登山靴も買えない加藤は地下足袋で山に入り、不器用で人付き合いが苦手な彼は
"一人"で「槍ヶ岳冬季単独登頂」「北アルプス単独縦走」などを成し遂げ
『単独行の加藤』と呼ばれるようになります。

加藤が踏み入れる山は、下界とはまるで別世界。
踏み外せば命も落とす峻嶮に足をかけ
吹雪けば何週間も穴に潜って太陽を待ち
日が落ちれば、世界が回転しているように錯覚するほど途方もない星空が加藤ひとりを覆います。

そのような別世界をひとりで踏みしめる加藤は異彩を放ち、登山界から名声を集めます。
なのですが、人付き合いが壊滅的に苦手な加藤は、自分の周りに集まってくる人たちとコミュニケーションがとれず
社会との溝を感じ、大きなコンプレックスをかかえます。

別世界をひとり切り開くストイックでヒロイックな加藤と、下界では社会と孤立しひとり苦悩する加藤。
その対照的な姿がコントラストをもって描かれ、加藤文太郎という人格の美しさをレリーフのように際立たせるのです。

この小説のすごい所は、もちろん実在の人物・加藤文太郎のドラマチックさに依る所も大きいのですが
とにかく新田次郎の描写力が生半可なものではなく、情景描写・人物描写の巧みさで
ぐいぐいと小説世界に引き込まれます。











「なぜ山に登るのですか?」
「そこに山があるからさ」

なんて意味の分からない問答がありますが、加藤自身も
「なぜ俺はこんな思いをして山に登るんだ?」と何度も自分に問い続けます。
本人がわからないんだから読者が知る由もないのですが
そこは描写力で引き込まれ、自分が加藤になって山に登っているような感覚をおぼえるものですから
「そこに山があるからさ」の意味が垣間見えるような気さえするのです。

私がこの小説を読み終えたのは電車の中だったのですが、
あまりにもクライマックスの盛り上がりがすさまじくて目が離せず
降車駅を見送ってまでも読み切りました。
おかげで学校に遅刻しました。
私の授業の取得単位まで左右しかけた大傑作です。

なお、この本を読んだ後は確実に山に登りたくなりますので、運動不足が解消できる実用的な本でもあります。
ぜひ一読くださればと思います。

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