大阪プライム法律事務所

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宗教法人の解散命令

22.10.08 | ニュース六法

安倍元首相が演説中に殺害された事件以降、背景となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が大きな社会問題となっています。宗教法人法では、法令に違反し、著しく公共の福祉を害する行為などがあった場合、裁判所は所管庁である文化庁などの請求を受け、解散を命令できます。宗教法人たる世界平和統一家庭連合の解散が話題になっていますが、ことはそう簡単ではありません。

■宗教法人制度の歴史(明治~昭和初期)
宗教に関する規定としては、大日本帝国憲法下では「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」として、限定的ではありましたが「信教の自由」を認めていました。しかし当初は宗教全般に関係する法律はありませんでした。

もう少し正確に言えば、明治29年に成立した民法では、その第34条において、「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得」としており、その中に「祭祀、宗教」を行う法人制度が規定されていました。

しかし、当時は神社や寺院に適用することへの違和感などもあったためでしょうか、民法を施行するための施行法(明治31年)では、民法の中の法人に関する規定は、当分の間は、「神社、寺院、祠宇及び仏堂」には適用しないとしていました。

その後、昭和14年に「宗教団体法」が制定されました。これは、宗教団体の地位を明確にする一方で、監督を強化して国家の統制下に宗教団体を置くことが目的でした。このため、所轄庁の権限がかなり強く、規則に違反したり公益を害する行為など秩序の安定を妨げるような行為をしたりしたときに、宗教活動の停止や禁止、さらには設立認可の取消をする権限が所轄庁に付与されました。 

■戦後の宗教法人制度
第二次世界大戦後、GHQからの、思想、信条、信教などの基本的人権に対する制限の撤廃の要請を受け、宗教団体法は廃止されました。かわって昭和20年12月28日から新たに「宗教法人令」というものが施行され、許認可制度であったのをやめて、宗教団体であれば自由に設立ができ、法人設立も定められた要件を満たしていれば認可するという準則主義を採用したものでした。これによって、宗教法人の自治が大幅に認められ、所轄庁の監督権は最小限にとどめられました。

その流れを受けて、昭和26年に、現在の「宗教法人法」が施行されました。そこでは、布教活動などの儀式行事を行い、信者を教化育成することを目的として礼拝施設を備える宗教団体(神社、寺院、教会、修道院など)は、法に定める所定の事項を記載した自治規範である「規則」を作成し、所轄庁(都道府県知事、包括宗教法人は文部科学大臣)の認証を受けることで、宗教法人となることができるようになりました。

■オウム真理教事件と宗教法人法の改正
このように、宗教法人制度は変遷してきましたが、宗教法人オウム真理教が死者12名、負傷者5000人以上を出した地下鉄サリン事件を起こしたことを契機として、宗教法人法の改正問題が浮上し、平成7年に改正が行われました。そこでは、全国的に活動を続ける宗教法人の所轄庁を地方公共団体から国に移し、宗教法人の備え付け帳簿類の信者等への公開義務化、帳簿類の国への提出義務化、所轄庁が報告を求めたり質問調査をする権限を与えるなど、監督を強化しました。ただ、解散命令についての改正はなされていません。 

■宗教法人法はどういう場合に解散となるのか
宗教法人は、規則で解散の事由を定めておくことができ、規則に定めた解散事由が生じれば解散することになります。また、合併で存続(吸収合併)や新設(新設合併)される宗教法人以外の宗教法人は、合併によって解散することになります。さらに、宗教法人が負債を払えなくなったときに裁判所によって破産手続きの開始が決定され、これによっても解散となります。

これら以外に、「所轄庁の認証の取消」による解散というものがありますが、所轄庁は、宗教法人が宗教団体としての実態を有していないことが判明したときに認証を取り消すことができ、それによって解散となりますが、この取消しは、認証書交付から1年以内に限られています。

以上の他に、最後のカードとして、「裁判所による解散命令」というものがあります。
ただ、裁判所が解散を命じたのは、過去、「オウム真理教」と「明覚寺」の2例だけです。

 ■「宗教法人オウム真理教」への解散命令
オウム真理教は、1989年(平成元年)8月に設立された宗教法人です。所轄官庁(東京都知事)は、同法人が毒ガスの一種であるサリン生成を企てた殺人予備行為が、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」、及び「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」に当たるとして、東京地方裁判所に対して解散命令の請求を行いました。東京地裁、東京高裁ともに、法所定の解散事由に該当するとして、解散を命じました。
最高裁判所も、平成8年1月30日決定で解散命令を維持しました。最高裁では、解散を命じることと信教の自由との関係については、解散命令は宗教上の行為を禁止や制限したりする法的効果は一切ないこと、解散命令制度は宗教団体や信者の精神的側面に干渉する意図はないこと、法令に違反する宗教団体に解散命令をすることは必要だがその命令によって信者に多少の支障を生ずることは避けられないが、やむを得ないこと、よって公共の福祉を害する宗教団体に解散を命ずることは違憲ではない、という理由を示しました。 

■「宗教法人明覚寺」への解散命令~霊視商法
水子菩薩を扱う訪問販売会社を設立し、地元の曹洞宗の寺と協力して販売していた男性が、1987年に宗教法人「本覚寺」を設立し、独立の寺として霊視鑑定を行っていました。しかし消費者センターに多くの苦情が寄せられ、詐欺商法だとして損害賠償請求が次々と起こったため一時的に活動を中止しました。しかし、休眠状態にあった和歌山県の高野山にあった「明覚寺」を買収し、関西地区で同様の活動を再開したのですが、こちらでも損害賠償請求が多数起こり、愛知県警が明覚寺系列の寺(名古屋市)の僧侶らを摘発したりした後、1999年に文化庁が「組織ぐるみの違法性が認められる」として、和歌山地方裁判所に宗教法人明覚寺に対する解散命令を請求し、和歌山地裁は2002年1月24日に解散命令を出しました。これも最高裁まで争われましが棄却されて解散になっています。

明覚寺でなされた詐欺行為は、もはや属する僧侶等による個人的犯罪ということにとどまらず、宗教法人自体が主体となって行ったものと認定されました。その被害件数及び被害額が極めて多数・多額に及んでいることからして、著しく公共の福祉を害するものであることは明らかであるし、組織的に詐欺行為を行うことが宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為であるとされたものでした。

■世界平和統一家庭連合(統一教会)はどうなのか?
この明覚寺事件などとの比較からしたら、一見、多数の霊感商法被害が指摘されているここも、解散命令が認められるのではないか、とも思えるかもしれません。ただ、そうは簡単ではなさそうです。

解散命令が出された明覚寺の場合は、当該宗教法人自体の「組織的犯行」が認定された結果のものでした。 他方で、統一協会の場合は、刑事事件となった「新世事件」では、「有限会社新世」という組織でなされた物品販売が特定商取引法違反であるとして同会社に対して罰金刑、代表取締役と営業部長に懲役刑(執行猶予付き)と罰金刑が科されたものでした(東京地方裁判所判決平成21年11月10日)。つまり、宗教法人たる統一教会自体やそこの役に対する刑事事件ではなかったのです。民事での損害賠償請求事件でも、宗教法人の使用者責任が問われたものは多数ありますが、宗教法人本体そのものの不法行為が認定されたのは、ごくわずかしかありません。

文化庁の担当者が、旧統一教会が宗教法人法81条に基づく解散命令の対象に「あたらない」と明言したということが報じられていますが、これらのことが理由であると思われます。

 ■教会は嵐の過ぎ去るのを待っている?
このようなことから、統一教会は、ひたすら嵐の過ぎさるのを待っているとも噂されています。しかし、これまでの同教会による被害を見聞きする限り、「解散できない」というのも明らかにおかしいとは思われます。宗教法人法での解散命令は、信教の自由との兼ね合いで、安易に適用されてはなりませんが、役員の刑事罰を要件として、自制的になるのはやや狭すぎるのではないかという気がします。

 ■消費者庁との連携
このような中で、消費者庁が積極的に動いています。同庁では「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」が開かれ、霊感商法、特に高額寄付に対する規制方法として、消費者契約法(消契法)や特定商取引法(特商法)の改正案に加え、新法制定も視野に入れて議論を深めてきています。ハードルは高いようにも思えますが、それには期待をしたいところです。

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